世界を救うもの、それを英雄というのなら〜レクタス・ルベル神立学院〜全世界の勇者達よここへ集え
玄花
第1話 クレイジー放課後タイム
〜まだ現世〜
「お〜い、英雄オルト様〜」
一学期最後の部活の帰り、後ろから同じクラスで仲良くなった
「その呼び方はやめろって言っただろ!」
だが、看過できない呼び方には容赦なく叱りつける。
長めの前髪に明るい茶髪の彼は、校則違反の赤のピアスを隠してでも決して外すことなくこうして俺と一緒に歩く。
「へっへ〜、いいじゃねえか。実際にお前は俺の英雄なんだからよお」
そうだ、俺の名前は
「るっさいなあもう!」
「怒るな怒るな、そんな風にしてると成績下がるぞ〜」
「何だよ勇者らしくって」
セントクは俺が言えたことじゃないが変な名前と同じくして、「お前は勇者らしくいろと」かいつも変なことを言ってくる。
「そりゃあこー……かっこよく?」
それで俺が聞き返せば腕を頭の後ろに組んでから変なポーズを取る。
「どうカッコ良くだ。少なくともお前の今のポーズはダサいぞ」
「え〜、知らねえの?最強怪人ダークマターヘルブレスソルジャー」
「怪人じゃねえか、敵だろ敵」
しかも普通に知らないし。
「でも最強なんだぜ?」
「そうかよ、最強かよ。ならある意味では英雄かもな」
そんな下らない会話を意気揚々と出来る今日という日は夏休み、の始まりの日。来週に出る新作の没入型VRゲームの事も相まって今の俺は途轍もなく寛大な心持ちであるわけだ。
「にしてもいつもよりも妙に笑顔だな。気持ちわるっ」
横腹にスムーズに殴りを入れた。
「ぐへぇッ……んな事してると本当に怪物が襲ってきちまうぞ〜」
ははは、と笑いながら彼は空を見る。
「ははっ、だから何だよ怪物って」
また俺は笑いながら歩き続ける。今年の夏休みこそゆっくり休む。そう心に決めた俺はもらった宿題の八割を見事計画的に終え、説明会で聞き逃さなかった夏休みに活動の無い部活──これこそ計画的な行動。
────── ───
電車、セントクと別れて一人で乗っていると車内の電灯がチカチカっと点滅する。徐々に暗闇の割合が大きくなっていき、末に周りは暗くなる。ただ動かずに車内のアナウンスを待っていると、周りから人の気配が消えていっているのを感じる。知らない内に寝てしまっていたのだろうか。
だが、この身に纏わりつく異質な感覚は、そのような事態とは程遠い場所に自身がいることを強く認識させる。
「な、なんだ……?」
徐々に明るみ始め、紫とはかけ離れたような青と赤の混ざった色の空。月が無い、夕方とも似つかない光景。遥か遠くまで広がる白い大地。得体の知れない世界が窓の外に見えてくる。それでも電車は動くことを止めず、ただひたすらに何処かへと向かっていく。
床に落としてしまったカバンを拾い上げて俺は車内前方へと歩いていく。
運転席には誰も居ない。
悪い夢……なのか?
そんな現実逃避も虚しく、背後から声を掛けられる。
淡い藍色の和装。黒縁の眼鏡を掛けた細身の優男。
「やあ、こんばんは」
頭の奥から聞こえてくるような妙な声。
「…………」
俺は彼の後ろに立つ、機械のような人形の何か……その存在に呆気を取られて黙り込んでしまう。無理矢理つなげたようなパーツ、錆びた不定形な体。この男のものなのだろうか。俺はその光景を見ているだけで、今までにないほど気分が悪くなってくる。……さしずめ怪物と呼ぶには遠からず、それが俺の目に映るもの達の姿だった。
「お前は……怪物……じゃねえ……なんだ?」
何者だ、そう聞きたかったのに自分でも思わずそう問いかけてしまう。その怪物たちを率いるようにして俺の前に立つ笑顔を浮かべた男に。
「そうか勇者、やはりキミは記憶を欠損しているようだ。これは学園側のミスだね。記憶を取り戻し次第全力で謝罪させてもらうとしようか」
「勇者?学園……?俺は普通だ、しかもうちの高校に学園とか入ってねえし……」
「キミからそんなことが聞けるとは思ってもみなかったよ」
馴れ馴れしい男は、僕のことは天使とは違って思い出してくれるからとか意味のわからないことを言って窓の外をそっと指を指す。
男が連れている怪物に襲われる少年、何処かから現れた白金の髪の少女が刀で、それを切り倒す。巨大なロボットを前にした先程の少年と少女は相対する。少し先にビルが見えたかと思えば、魔法少女のような娘の近くで銃で打たれて死ぬ男。その男は一切の抵抗無く事切れたかと思えば爆発したビルの中から満足そうな笑みを浮かべて現れ……魔法少女とともに姿を消す。
その光景が同時に目に映る。そうすると、横に立つ和装の男の後ろに並ぶ怪物をみた瞬間のような頭の痛みが体全体に流れ込む。
白い大地で起こる形容し難い事象の繰り返し。
「オルト君……僕が出来るのはこのくらいだね。早く、学園に戻ってきてくれよ──それではまた」
ヒュッと体を翻したかと思うと和装の男は消え、俺は最寄り駅のベンチに座り込んでいた。駅のホームだ……。暫く起こったことを反芻して、呼吸さえもままならなくなっていると一通の電話が制服のポケットに入ったスマホに掛かってくる。
『オルトか?』
「ああ、俺だ……」
『おー疲れた声してんな〜。帰り座れなかったのか?』
「そんな場合じゃなかった」
『じゃあ文字通り怪物と遭遇した、的な?』
「………………」
『おい黙るなよ。こっちが怖えよぉ』
「………………」
セントクに言われて改めて事態を理解しようとする。
『まあ……もしそうなら俺としては嬉しい限りなんだよな。ついでに顔でも上げておけよ』
「は……?」
顔を上げるとそこには巨大な赤い鳥の機械が舞っていた……。切れた電話、意味の分からない出来事の発生。
「こりゃ悪夢って言っていいヤツだよな……はは」
俺はそうして駅のホームから一目散に立ち去っていく──
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