第15話 久賀香楽との語らい
昼休み、曇りがちな空の合間に、少しだけ光が差していた。
屋上の片隅、風の音と静けさの中で、清雅はベンチに腰を下ろしていた。
鞄から取り出したパンにかぶりつくも、味はほとんどわからない。
──思い出されるのは、昨日の手紙。
彼女の“届かなかった想い”。
「……やっぱ顔に出るタイプだな、お前」
その声に、清雅は小さく肩を震わせて振り返る。
いつの間にか久賀香楽(くが・かぐら)が横に座っていた。
手にはスポーツドリンクが二本。
「また幽霊みたいな現れ方しやがって……」
「ついクセでな。悩んでるときのお前って、屋上に磁石でも入ってんのかってくらい引き寄せられる」
そう言ってスポーツドリンクを一本、清雅の手元に置く。
受け取りながら、清雅はふと問いかけるように目を向けた。
「……なあ、香楽。俺の“目”ってさ──」
「左で“縁”、右で“記憶”、だろ?ざっくりだけどな。美羽から少し聞いてる」
あっけらかんとした口調に、清雅は目を丸くする。
「お前……どこまで知ってんの」
「半分も知らねーよ。けど、美羽が“秘密抱えてるやつには、ちゃんと聞いてくれる友達が必要だ”って言ってたし。別に無理に話さなくても、こうして飲み物渡すくらいはできるだろ」
清雅は言葉に詰まり、ふと笑った。
「……なんか、お前ってやっぱいいクラスメートだな」
「今さら何言ってんだ。ほら、話してみろよ。何があったんだ?」
一呼吸置いて、清雅はゆっくり話し出す。
昨日の手紙のこと、縁がまだ残っていたこと、でも相手の気持ちはもう“そこにはなかった”こと。
右目で視た、千尋の“残された感情”。
すべてを語り終えたあと、久賀はしばらく空を眺めていた。
「……そうか。“残ってる”んだな、想いって」
「うん。線は消えてたのに、気持ちだけ、そこにあって……どうしても割り切れなかった」
「でもそれさ──だからこそ、ちゃんと届いたときって、すごいことなんじゃね?」
「……“すごいこと”?」
「見える線が“繋がる可能性”の糸だとしてさ。
でも、繋げるかどうかは、結局その人自身が踏み出さなきゃ意味ないだろ。
それをちゃんと渡せたら──奇跡、だろ?」
久賀の言葉に、清雅は黙ってうなずいた。
「……俺、線のことばかり気にしてた。見えるのが特別なんだと思ってたけど──
見えるだけじゃ、想いは届かないんだな」
「お前は見える。でも、見えた先にある“気持ち”を、どう感じて、どう扱うかは──お前次第だ」
そう言って久賀は立ち上がる。
スポーツドリンクをひと口飲み、空にかざすように掲げて笑った。
「……ま、俺は便利屋じゃねーけど。たまにくらい、力抜けよな」
風が吹く。思考の靄が少しずつ晴れていくような感覚。
“視える”という力が、すべてではない。
その先にある“想い”の重さを、清雅は初めて真正面から受け止めようとしていた。
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