2. 人狼と家族



「これから、よろしくお願いします。お義兄さま」


  治療院の前で、迎えに来たルシアンにリアンは頭を下げた。白銀の髪がさらりと流れる。 ルシアンはうんうんと嬉しそうに頷くと、「今からレスナー家に向かう。持ち物はそれで大丈夫か?」と聞いた。 リアンの持ち物であるトロリーバッグには、ルシアンから貰ったぬいぐるみと、義手の点検器具、お金と最低限の生活必需品といった物しか入っていなかった。


「大丈夫だと思います。」


  黎明の空のような落ち着いた声でそう言うと、しっかりとした足取りで歩き出した。




      ✡      ✡      ✡





「レスナー家へようこそ、リアン。」


  馬車で治療院のあった丘から街へ降り、街も通り過ぎて、大きな屋敷へ着くと、ルシアンはリアンを振り返ってそう言った。

  レスナー家は代々、ラヴィーア国の陸軍の人材の輩出を担っていた。勿論、ルシアンも例外ではない。


  リアンは蒼色の瞳にルシアンと彼の背後の屋敷を写した。そして何かを堪えるような色を見せたが、一瞬だけだったので、理由はリアンにしか分からない。

 立派な家門を潜り、美しく整えられた庭を抜け、二人は屋敷へ入っていく。 屋敷の内装はシンプルで洗練されたデザインで、決して豪奢ではないが調度などは最高品質の物だと伺えた。

  リアンはルシアンに客間へ案内された。そこには、ルシアンの父と母らしき人がいた。

「君がリアンか。私はルシアンの父であるヴィードだ。これから、血は繋がっていないとはいえ私たちは家族ということになる。よろしく頼む。」

「リアンさん。私はルシアンの母セレンです。今まではルシアンとは上司と部下、という関係だったと思います。でも、もう私たちは家族です。私たちには、本当の親のように接してくださいね」


  ヴィードはルシアン同様アッシュグリーンの髪に、厳格さと強さを湛えたビターブラウンの瞳をしており、左頬には軍人であったからだろうか裂傷が走っていた。貫禄のある声でリアンに挨拶をする。

  セレンは栗色の髪に橙色の瞳の、いかにも貴婦人といった、柔らかな物腰の女性である。雰囲気は優しいが、軍人の奥方ということもあり、芯のある強さも兼ね備えていた。


「至らぬところもありますが、これからよろしくお願いいたします。お義父さま、お義母さま。」


  リアンは深く頭を下げた。




     ✡      ✡      ✡




  リアンに与えられた部屋は、青色を基調とした広めの部屋だった。ベッドや箪笥などの家具は既に設置されている。ルシアンは、「部屋のものや欲しいものがあったらなんでも言ってくれ」と言っていた。 自分のものを部屋に置き、自分好みに整える。 ベッドに倒れ込むと、ぼふんと跳ね返った。



――――もう、独りじゃないんだ。


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