第16話:どうかしてる。

「サブパイロットは、主にレーダーの監視とセンサー類のチェックが仕事だ。今のヴァルキリーには遠隔操作用の武器が搭載されてないし、とりあえずこの二つがこなせればいい」

「でもイヴの視力のことを考えたら、目視が必然になる操作も俺がやった方がよくないですかね?」

「うーん。それは本人と話し合った方が良いだろう。俺のように普通のパイロットなら、もちろん君に任せるけどね。まぁそれ以前に、あの怪我の状態でAMAに乗ろうとは思わないよ」


 揚陸艦セイレーンは今、通常航行中だ。

 セイレーンと並行しながら、まずはAMAに慣れるために飛んだ。


 計器類をチェックしつつ。見る項目も覚えていく。

 こうしていみると、【ARMOR・SOUL】が軍事用に開発された訓練シミュレーションプログラムだということがよくわかる。

 細かい機器の配置は違えど、だいたいのシステムは同じだからな。

 何を見て、何をするのか、そういったところはまったく同じだ。


「そうだ。目視で必要になる動作――ステップ回避は君の判断で使う方がいいだろうな」

「ステップ回避ですか?」

「あぁ。ブーストを使って敵に急接近する最中の、別角度から攻撃されそうになった時に使うんだ。ブーストを維持したまま機体を左右に振って、ロックオンを外させる操作になる」

「ゲームでも似たようなことはやってました」

「はは。そんなところまで再現されていたか。よし、じゃあやってみよう。敵はいないから、回避するだけだけどね」


 実際どのぐらい機体が左右に振られるのか、知っておく必要があるな。

 まずはブーストで加速。そしてステップ回避の操作。

 ゲームのようにコマンド入力になっている。

 Aボタン二回でYボタン――とかいう感じだ。


「左右のステップ回数は1から5まで指定出来る。それもボタン操作だ」

「はい」

「その回数は口頭で彼女に伝えるといいだろう。そうすれがステップ直後に攻撃に転じられるからね」


 いち! とか、に! とか言えばいいのか。

 でもなんか恥ずかしいな……。


「ステップ回避のふり幅はどうだ? 目が回ったりはしないか?」

「え? いえ、大丈夫です。VRゲームなんで、わりと視覚は似てるんで慣れてるっていうか……」

「ほぉ。頼もしいな。とても民間人とは思えないよ」

「いやぁ、民間人ですよ。たまたま小さい頃からあくしょんげーむが好きだったってだけですから」

「そういえば、双子もアクションゲーム好きだって言ってたな。やっぱりそういう子は、パイロットに向くんだろうかねぇ」


 へぇ、フェリドさんたちもそうなのか。


「あの二人って、年はいくつなんです?」

「ん? 二十歳だったかな? 二十一だったかな?」

「若いですね」

「君の方が若いだろう?」

「ま、まぁそうですけど。でのあの二人はちゃんと正規で選ばれたパイロットでしょ? 臨時の俺とは違いますよ」

「はは。我々解放軍は帝国軍のように兵を募っているわけじゃない。同じ志を抱いたものが集まって、自分に出来ることをやっているだけさ」


 だから正規兵とはまた少し違う――そうオーキットさんは話す。

 同じ志……俺は……俺は、その中に入ってもいいのだろうか。

 俺はただ、俺のせいで傷ついたイヴの助けになりたいってだけだし。


『オーキット。今後の進路を変更する。すぐに帰投しろ』

「了解、艦長。――だそうだ悠希」

「進路変更ですか……そういや元々、どこに向かっていたんです?」

「鉱山だ。AMAの機体を修理したりカスタマイズするには、アブソリュート鉱石が必要になる。特にヴァルキリーは二十五年前の機体だ。ずっと整備もされていなかったし、装甲を全部取り換えるらしいよ」


 全部……でも直ぐに出来る物じゃないだろう。鉱石の精錬、成形とやってたら、時間かかるんじゃ。

 そもそも戦艦内で精錬なんて出来るのか?






「出来る」

「出来るんかい! え、なんで?」


 帰投して医療室へと向かった俺は、イヴにヴァルキリーの装甲を取り換えるという話をした。そのことは彼女も知っていたし、アダムも知っている。

 アダムなんて。


『装甲が全て取り外されるということは、全裸になるのと同じことなんです』


 なんてバカなことを言っていた。


「AMAには自己修復機能がある」

『アブソリュートを「生き物」と呼ぶ科学者も、昔はいました。だからでしょうね。形状を記憶メモリさせると、その形に戻ろうとするのです』

「生き物ではない。とにかく、自己修復機能を使えば、AMAはアブソリュート合金を取り込んで、損傷個所を修復することが出来る」

『アブソリュート鉱石は熱で溶かすのではなく、電磁パルスを当てるだけですから。溶鉱炉などは必要としないのです』


 融解するには特定の電磁パルスを浴びせる必要があるが、そのパルス数値はアダムが完璧にコントロールできる――という。

 不純物は熔解しないから、取り除くのは比較的簡単なんだとか。


『ですが、直接この方法で装甲を取り換えていますと、アブソリュート合金の純度が上がってまいります。そうなるとパイロットの負荷が上がりますので、この方法がとれるのは実はヴァルキリーだけなのです』

「でもヴァルキリーだって100%じゃないだろ?」

「純度を少し下げるぐらいならそう難しくもない。既にある純度の低い合金を取り込めばいいのだからな」


 取り込む……なんかホラー映画に出てくるようなエイリアンみたいだな。

 で、訓練艦遭遇前に向かっていたのは鉱山惑星レゾン。アブソリュート鉱脈がある、かなり小さい小惑星らしい。


「そこはイリスコロニー自治区が管理する小惑星なんだろ? なんで進路を変更したんだ?」

『既に帝国軍が占拠している――そう考えるべきでしょう』

「規模の小さい鉱山だからな。警備もそう厳重にはしていなかったのだろう」


 だからもう占拠されている。

 そうじゃなくても訓練艦と遭遇した時点で、こちらの進路がレゾンだとバレたはず。

 だから目的地の変更を余儀なくされた。


「んで、目的地はどこになったんだろう」

「惑星デュランだ」

「鉱山?」

「あぁ。イーリス星圏最大のアブソリュート鉱脈がある、帝国軍のおひざ元だ」

「へぇ……へ……んなっ、なんでそんな所に乗り込もうとしてんだよ!」

『デュランでしたら、合金に加工済みのインゴットも大量にあります。加工の手間が省けてよいのですよ。それに――』


 腕の端末内のアダムが、笑ったような気がする。

 

 「まさか自分たちの足元に敵が潜り込んで来て、盗みを働くとは思ってもみないだろう」

「……あの、それって誰の案?」

「私だ」『わたくしです』


 この二人、どうかしてるだろ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る