第7話:何故隠す?

「お? おおおお???」


 レーダーに映っていたのは強襲揚陸艦セイレーンという戦艦。

 革命軍――今はイリスコロニー自治区というそうだけど、イリス所属の戦艦らしい。

 いや、正確には解放軍時代の戦艦で、これまで廃棄ステーションに隠してあったと。ヴァルキリーやイヴと同じってわけだ。


 着艦して格納庫へと移動すると、しばらくしてハッチが開き、顔を覗かせたのは中年のおっちゃん。

 何故かニンマリ笑ってこっちを見ている。


「イヴぅ。お前もようやく恋に目覚めたのかぁ」

「こ、恋!?」

「老けたな、バーンズ。そのせいでもうろくしたか」

「ぐっ……。俺はお前ぇと違って、コールドスリープしてないんでね。で、どこで拾ったんだこの坊主」

「拾ったのは私ではないアダムだ」

『お久しぶりですね、バーンズ。拾ったのはわたくしです。よい拾い物をしました』


 だから人を物扱いするなって。


「バーンズ、話はあとだ。私も詳しくは知らないからな。だがその前に治療だ。脊髄を損傷して神経が麻痺している」

「重傷じゃねえか。おい、タンカ持って来い」

「あー、そう言えば俺、怪我人だったんだ」

「は? 頭も打ってんじゃないのかイヴ」

「さぁな」


 コックピット内やステーションの格納庫内は低重力だったから、移動に力を使う必要がなかった。

 痛みもないし、怪我のこと、すっかり忘れていたよ。


『現在はヴァルキリーのシステムを利用し、彼の神経に信号を送っておりますので動くことが可能ですが、接続を切った途端に下半身がマヒ状態になるでしょう』

「お、おい。神経をって……まさかシンクロっ」

『いいえ。彼が所持していたデバイスを介しましたので、シンクロとは違います』

「あ、はは。廃人にはなっていませんよ」

「そりゃ見りゃわかる。来たな。おいアダム、タンカに乗せたら接続を切れ」

『タイミングはそちらで』


 コックピットから出ると、直ぐにタンカに乗せられた。


「やってくれ」

『では解除いたします。悠希、痛みますよ』

「あ、あぁ――っってぇぇぇっ。ああぁぁぁぁ」


 う、嘘だろ。こんな……こんな痛むなんて。

 しかも、クソッ。下半身だけ何も感じない。


「バーンズ」

「なんだ、イヴ」

「――検査をしろ」

「……わかった」


 なんの話をしているんだ? 検査?

 あぁ、クソ。いてぇ。


「眠らせろ」

「そうですね、えっと君、麻酔を入れますね」


 医者だろうか。白衣を着た女の人がそう言うので、頷いて答えた。

 麻酔を打たれ、直ぐに意識が沈む……。

 





「あ、意識が戻りましたか? 私の声、聞こえてます? 聞こえていたら瞬きしてください」


 言われて瞬きをひとつ。

 タンカ……じゃない。医療用のポットみたいだけど、俺が乗ってたアレより大型のヤツだ。


「手術は終わりました。あれから三時間経過していますよ。まだ意識が朦朧とすると思いますが、数分ではっきりしますからね」


 手術、か。神経はちゃんと繋がったんだろうか。

 まだ麻酔が効いているのか、体を動かせない。


「あ、イヴさん。彼、今目を覚ましましたよ」


 イヴ?


「どうだ、動くか?」


 いや、今目が覚めたばっかりだし。それに酸素マスクが邪魔で――。

 イヴが手を伸ばす。そして……。


「ちゅ、うちょなく、マス、ク、外すな、よ」

「死にはしない」


 そうだけどさぁ。

 なんていうか、思いやりっていうか、そういうのはないのか彼女には。

 医者から端末を受け取り、イヴは何かを見ている。俺の手術記録とか?

 俺と端末を何度も視線で往復すると、医者にそれを返した。


「どこか、マズいところ、でも?」

「いや、ない」


 はぁ、よかっ……あ、腕が動くようになってき――ん?

 伸ばした腕には点滴のチューブがあって……制服は着ていない。当たり前か。

 肌着も……まさかっ。


「あああああぁぁぁぁっ」

「ど、どうしましたか!?」


 ぜ、全裸だ。真っ裸だ。

 今、イヴは俺を見下ろしている。全裸の俺を。

 医療ポッドのハッチは開いてるし、隠されていない。全オープンだ。


「あ、そうですよね。かける物、持ってきますね。えぇっと……」


 察した医者のお姉さんが何かかける物を探してくれている。

 その間もイヴは俺を……うわあぁぁぁっ。


「どうした。何故隠す?」

「何故って、むしろなんで見てるんだよ」

「ろれつが回るようになってきたな。それで、隠す必要があるのか?」

「あるから隠してるんだろうっ」

「うぃーっす。坊主の様子はどうだー? お?」


 ドアから入って来たのは、確かバーンズって呼ばれてる人だっけ。

 こっちを見るなりニヤニヤしながらやって来た。


「こういうことだろう? お年頃の坊主がナニを見られて恥ずかしがってんのに、まったく気にした素振りもせずイヴがガン見し続けてる。で、恥ずかしいから隠してのに、それにイヴが真顔でツッコミを入れてんだろ。な?」


 まったくその通りですよ!


「ぶわっはっは。まぁしゃーないわな。こいつに羞恥心なんてものがねぇんだ。おいイヴ。頼むから下着姿で艦内を歩き回るんじゃねえぞ。若い連中はお前のことなんて知らねぇ奴ばかりだ。誘ってんのかと思って襲われるぞ」

「その時はどうなるかわかっているだろう」

「だから言ってんだ。部下を医療室送りにしないでくれよ」


 し、下着で歩き回る!?

 この口ぶりだと、以前はやってたみたいだな。


 イヴは強化人間だって言ってたけど、普通の女の子とかなりズレてる気がする。

 一般常識っていうか、戦闘以外のことには一切興味ないように見えると言うか……いや、絶対そうだ。

 

「はいはい、お待たせ。あら艦長、いらしてたんですね」

「いらしたんだよ。坊主の様子は?」


 医者が毛布を持って来てくれて、俺に掛けてくれる。

 や、やっと落ち着ける。いや、毛布の下はまっぱだし、恥ずかしさの度合いが下がっただけだが。

 

「神経接続の方は上手くいってると思います。すぐに元通りとはいきませんが、低重力下なら問題なく動けるでしょう。検査の結果も異常なしです。アブソリュート症候群の心配もありません」

「アブソリュート症候群って?」

「あっ……えぇーっと。AMAとのシンクロによって精神や神経に異常をきたす症状のこと、です」


 あぁ、それか。

 イヴが言ってた検査って、それだったのか。

 念のため、検査を受けさせられたのか。でもまぁ、心配ないっていうから安心だな。

 あ……なんか腰が痛み始めた……麻酔が切れて来たのか。

 ん? イヴがじっと俺を……。


「寝ろ」

「は? な、なんだよ急に」

「ドクター。こいつに鎮静剤を」

「あっ。そろそろ切れる頃ですね。まだしばらく安静が必要ですから、よく眠れるように鎮静剤を投与しますね。四時間ほどで切れますが、その時はどのくらい痛みが残っているか、聞きますので」

「え、あ……はい」


 イヴ……麻酔が切れて痛みだしてたのがわかったのか?

 点滴から鎮静剤が投与され、それと同時に眠気に襲われる。


「睡眠効果もあります。ゆっくりお休みください」

「あ……イ……ヴ……あり、が……」


 目を閉じる寸前に、彼女の背中が見えた。

 


***********************

20:03にもう一話更新します。

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