第3話:イヴ。
裸だ。裸の女だ。なんで裸? え? なんで?
俺とそう変わらなさそうな年齢?
あの機体の装甲に似た銀髪だな。それに裸だ。はだ――
「ふぐっ――」
突然女の腕が伸びて、俺の首を掴んだ。
く、苦しい。なんで、どうして?
『イヴ。その少年は敵ではありません。離してあげてください』
アダムの声がした途端、彼女は手を緩めて解放してくれた。
ビ、ビックリした。もしかして裸を見たことを怒ってなのか?
彼女は低温ポットから身を起こし、ゆっくりと辺りを見渡す。
琥珀色の瞳……なんて綺麗なんだ。それに――それ――。
「うわああぁぁぁっ。ご、ごご、ごめんっ。見てない。うん、見てないからっ」
慌てて背を向け、嘘の言い訳を口にする。
『しっかりマジマジと見ていた気がします。わたくしの気のせいでしたでしょうか?』
「余計なこと言うなよアダム!」
「すまなかった」
「え? すま……」
「殺そうとしたこと」
「あ、あぁ……い、いや、俺の方こそ、ごめん」
え? さっきのアレ、本気で殺そうとしていたのか?
それに彼女の口調……まったく感情が込められていない。AIのアダムの方がまだマシだと思えるほど、無機質な声だ。
ひた、ひたと音がする。
まさか。
チラりと横目で見ると、彼女が全裸のままポットから出て歩いていた。
「頼むから何か着てくれよっ」
「なぜ?」
「な、なぜって、それこそなんで!?」
『イヴ。年頃の若い男は、異性の裸体を見ると本人の意思とは関係なく興奮するのです。あまり興奮させてはいけません』
余計な説明ありがとう。いやそうだけどさ。そうだけどもう少し言い方ってものがあるだろうっ。
「そう。すまなかった」
「ぐっ……アダム。パイロットスーツってもう一着ないのかよ」
『ございます。イヴ、コックピットへ』
「わかった。状況は? 何故私を起こした」
『ご説明します』
そう、そうだよ。なんでこんな誰もいなさそうな――確か廃棄された工業用ステーションって言ってたな――そんなところで眠っていたんだ? 低温ポットって言えば、しっかり管理した状況下におかなきゃいけない装置だろ。
『もう目を開けられても大丈夫ですよ。えっと……申し訳ございません。うっかりして名前を窺っておりませんでした』
「あ、あぁ、そういえば。俺は沢渡悠希。高校二年生だ」
『悠希様でございますね。さきほどはイヴが失礼をしまして、申し訳ありませんでした』
「い、いや……べ、別に……」
『目の保養が出来たと思って、お許しください』
AIのくせになんてこと言うんだ! 出来たけどさっ。
「おい、行くぞ」
「え? 行くって、どこに?」
パイロットスーツを着た彼女が、ハッチから頭を出して俺を呼ぶ。
そうだ。
「な、なぁアダム。シャトルは見なかったか? あ、いや、もしかして脱出艇かもしれない。とにかく見なかった?」
『申し訳ありません。見なかった、というのは正しい表現ではありませんが、わたくしが探知したのは悠希様が乗った医療ポットだけでございます。そもそも、先ほどの格納庫内に突然現れたのですから』
「そ、そうか。俺、あれに乗って何万光年もワープしたんだよな」
脱出艇はどこにワープしたんだろうか。ちゃんと地球圏内に出られたかな。
「とにかく乗れ。話は中で聞く。急がなければイーリス軍がやって来るぞ」
「あ、あぁ。わか――え? イーリス軍!?」
「65――64――63――」
なんでカウントダウンなんか始めるんだよ。まさかゼロになったら来るのか!?
すぐにコックピットに乗り込んで、下の段にある椅子へと座った。
同時にハッチが閉じ、上から彼女の――イヴの声が聞こえる。
「アダム、神経シンクロ開始」
神経シンクロ?
振り返ると、彼女が座るシートの側面からコードが伸びて来てこめかみに、電極パットがぺたりと張り付いた。
『神経シンクロ――パイロット、イヴとの全神経のシンクロが完了しました』
「シンクロを確認――全システムチェック。エネルギー残量の計測」
え? ど、どうなっているんだ。琥珀色だったイヴの瞳が、青みがかった銀色に変わった!?
『全システムチェック――完了。システムに問題はございません。エネルギー残量23%』
「ウェポンシステムチェック」
『ウェポンシステムチェック――完了。使用可能な武器は以下となります』
イーリス軍ってのがこっちに来てるんだろ?
こんな悠長にチェックなんかしてていいのかよ。
いや、そもそも軍隊がなんで来るんだよ。この機体は軍の機体? 迎えに来た?
だとしたらコックピットじゃなく、外で出迎えればいい。
それを乗り込んで出迎えるってことは……イーリス軍にとってこの機体は敵なのか!?
『それはイーリス帝国軍の出方次第ですが、99.9%、敵で間違いないでしょう』
「アダム? 出方次第ってなんだよ」
『かいつまんでお話すると、今より百年ほど前にイーリス帝国で反乱が勃発。二十五年前に帝国と反乱軍――我々は解放軍と呼んでいますが、停戦協定を結びました。しかし三日前、独立した解放軍の自治区内のコロニーを、帝国軍が攻撃。それにより、コロニーに暮らす約八百万人全員が死亡しました』
「はっぴゃ……停戦協定を破ったってことか?」
「それはこれからわかる」
これからって――おい、ちょっと待った。
目の前に浮かぶモニターに映し出されたヴァルキリーのシステム画像。武装の項目が出てるけど、これ……。
「頭部と肩のガトリングの弾数、ゼロじゃないか! それに胸部のミサイルもっ」
「ソードが二本ある。十分だ」
「十分って、近接攻撃しかできないってことじゃないか。近接といったって、自分の間合いに誘う込むために射撃武器が必要だろっ」
「……理屈はわかっているようだ。だが問題ない」
問題大ありだろっ。
近接武器だけで敵を倒すには、機体性能の差で圧倒するか、もしくはパイロットの実力で圧倒するかどちらかしか――来た!?
前方、さっき俺が通って来た通路へ出るハッチが赤く染まってドロりと溶ける。
隙間から見えたのはビーム・ソードの光だ。次に現れたのはMA《マシン・アーマー》。いや、こっちだとAMAって言うんだっけ。
『AMAヴァルキリー、確認しました』
『そこのAMAのパイロットに告ぐ。今すぐ降りて、その機体から離れろ。これはただの脅しではない。抵抗するのならその機体もろとも死ぬことになるぞっ』
おいおい、いきなり脅してきたぞ。
通路からこちらの格納庫に入って来たのは三機。
『出てこないというのであれば、貴様らを反乱分子とみなすっ。ここで死ねっ』
『おかしなことを仰る。二十五年前に交わされた停戦協定に反する行為ではありませんか?』
アダム?
『パイロットか!? 今すぐ出てこいっ』
『申し訳ございません。わたくしはナビゲーションサポートAIですので、出て行くことは叶わないのです』
『え、AIだと!? クソッ。聞いているのかパイロット!』
マズい。ライフルを向けられた。
地球圏から遠く離れた宇宙にワープしてきたってのに、こんなところで死ぬのか……俺。
『そのご心配は不要です。悠希様』
「アダ――うわっ」
奴らが構えるライフルの銃口がこちらを捕らえた……と思った次の瞬間。モニターが映し出す景色がまるでズームしたかのように見えると、金属がぶつかり合う音がした後でメキメキと鳴った。
「お前、射撃武器が欲しいと言っていたな。これでいいか?」
「え?」
ヴァルキリーが敵AMAの腕を掴み、握りつぶしている。かと思えばすぐ横に立っていた別の機体が格納庫の壁にぶつかっていた。
なんて速さだ……奴がトリガーを引くよりも前に間合いを詰めて、一機を突き飛ばし、一機の腕を握りつぶしたのか!?
『き、貴様あぁぁぁあぁぁああぁぁっ』
『構わんっ。白銀の悪魔と合流される前に、AMAを破壊しろ!』
は、白銀の悪魔って……。
俺の頭上、上のコックピットシートに座るイヴは、白銀色の髪をしている。
もしかして、ご本人?
近接武器で敵を倒すには、機体性能で圧倒するか――もしくはパイロットの実力で圧倒するしかない。
もしかしてこれ、その両方なんじゃないのか?
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