第8話:静かな始まりと、新たな気配
## 第八話:第一章「静かな始まりと、新たな気配」
今日の蒼穹ギルドの朝は、いつもより少しだけ静かだった。
昨日までは、レオンの報告書が話題になっていた。密輸の摘発、奴隷解放、そしてあの交渉劇。冒険者たちの間でも、彼の名は徐々に広まりつつある――「一見冴えないが、裏で何かを掴んでくる奴」として。
だが、当の本人はといえば、その噂話の真ん中にいながら、至って平常だった。
カウンターの一角に腰を下ろし、レオンは湯気を立てるコーヒーラテを飲んだ。
(……静かってのは良いねぇ。)
隣の机では、ナリアが黙々と帳簿を写していた。猫耳がぴこぴこと忙しなく動いている。
数日前に解放されたばかりとは思えぬ集中力。ミーナが与えた課題を、彼女は律儀にこなしていた。
ふと、ナリアの筆が止まり、紙の余白に書かれた数字を指差した。
「……あれ?この分の在庫、計算が合ってないような気がします」
「ん?」
ミーナが近づき、帳簿をのぞき込んだ。
「あら……ほんとね。仕入れの数と、売上が一致しない。よく気づいたわね」
ナリアは小さくうなずいた。
「数字は、好きなので……」
「ふふ。なら向いてるわ。ギルドの仕事って意外と数字とにらめっこする場面、多いのよ」
その様子を見ていたレオンは、ぼそりとつぶやく。
「帳簿係にしておくのはもったいないんじゃないか?」
「本人が望むなら、ね。……でも、今の彼女には“学び”が必要よ。外に出るのは、まだ先でいい」
ミーナの声は柔らかく、けれど決して甘やかしではなかった。
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午後。
レオンはミーナからちょっとした使いを頼まれた。
「南門近くのギルド支部に、これを届けてきて。報告書と、依頼調整の資料。ついでに最近の異常魔素の調査結果も持ってってくれる?」
「ずいぶん手厚い荷物だね……俺は“運び屋”じゃないんですが」
「その割に、こういう仕事を丁寧にこなすから任せやすいのよ。文句ある?」
「……いや。言っても無駄だろうしな」
書類を封筒に詰めながら、ミーナは声を潜めるように言った。
「最近、南の森で“何か”が動いてるらしいの。魔物でも盗賊でもなく、“別の何か”が。正式に依頼が出るかは未定だけど、調査はしておいたほうがいい」
「俺に探れと?」
「違うわ。探れとは言ってない。ただ、“目と耳を開いておきなさい”ってこと」
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封筒を懐に収め、ギルドを出ようとしたそのとき――
扉の外から、小さな衝撃音と、男の怒鳴り声がした。
「いてぇなコラ! どこ見て歩いてやがる!」
レオンが扉を開けると、ちょうど背の低い少年が、地面に転がった袋を拾い上げているところだった。
その向かいには、筋骨隆々とした冒険者風の男。どうやらぶつかったらしい。
「……それ、貴方がわざとじゃないんですか?」
レオンが冷静に問いかけると、男が舌打ちした。
「なんだテメェ、関係ないだろ」
「“蒼穹ギルドにケンカを売る客人”という肩書きが欲しいなら、お止めしませんが?」
「……チッ、行くぞ」
男は捨て台詞とともに去っていった。
少年は、申し訳なさそうに頭を下げる。
「……ありがとう、レオンさん」
「知ってたのか?」
「えっ、あ……はい。前に、見かけて……すごい人だって、聞いてたので」
「……俺が“すごい人”?」
レオンは鼻で笑った。
「誰がそんな嘘を?」
「え、いや、その……!」
少年はしどろもどろになったが、レオンはそれ以上責めずに背を向けた。
(……ほんと、誤解ってのは怖いな)
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レオンが出発した後ギルドの中では、ナリアが新たな帳簿と格闘していた。
ミーナはその横で、魔法属性の基礎理論を教えている。
「魔力は“記憶”によく似てるの。扱う者の感情や経験に左右される。だから、冷静さと意志の強さが求められるのよ」
「……記憶……」
ナリアの手がわずかに止まった。
何かを思い出したように、ゆっくりと口を開いた。
「ミーナさん、魔法って……“人を騙す”ためにも、使えますか?」
「……ええ。幻影魔法や精神干渉系の術式なら、“騙す”ことは可能よ。でも――」
「でも?」
「“騙したあと”が問題になるの。後悔しない嘘なんて、めったにないから」
ナリアは、そっと帳簿に視線を戻した。
その瞳の奥には、まだ言葉にならない何かが、静かに揺れていた。
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**(第八話:第二章へ続く)**
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最後ま読んでくださりありがとうございますm(__)m
どうも作者です、最近私はいつストーリが思い付くか分からないためメモ帳を持ち歩いています、え?「スマホがあるだろ」って?
まぁ、スマホが使えないところもあるし文字を書いた方が頭に残って今後の展開をイメージしやすいんですよ、てなわけで今回から<第八話長編>が始まります!楽しみにしててね~
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