異世界生活は猫のように

風月 隼

第1話 異世界と猫

 当たり前かもしれないけど、人はストレスが溜まると癒やしを求める。

 ストレス社会とも言われる現代では様々な癒やしが商売として成立している。


 そして、その癒やしの一つがだ。


 さわり心地が最高で、甘え上手で、自由気ままでとても可愛らしい生物。僕にとっては生きる理由にさえなってしまう罪深き生物。


 そんな猫の癒やしはどうやら、でも需要があるらし。


 異世界リュウツキムラの大広場から徒歩5分ほどに建っている猫カフェ「マル」。疲れたヒトたちが癒やしを、猫を求めて集まる憩いの場だ。


 この物語は僕、望月 琥もちずき こはくの「マル」で起きる異世界生活の話だ。


◇◇◇


 「.........ちょ〜、朝ですよ〜...」


 扉越しにうっすらと声が聞こえ目が覚める。あれ、僕は誰かに何か説明してたと思ったんだけど...夢だったか。


 「店長〜?朝ですよ〜。おきてるんですかー」


 うるさいなぁ。そう思いながら窓の方を見るとカーテンの隙間から光が差し込んでいる。


 なんだ、もう朝なのか...。二度寝しようかな、いや、どうせ彼女に叩き起こされる。大人しく起きるとするか...。


 僕は重たい体をベッドからゆっくりと起こし部屋のカーテンを開ける。

 窓の外には現代とは少し離れた一世代前の西洋のような建物が、空には見たこともない生物が飛び回っている。


 異世界こっちに来た当初は慣れなかったけど、あれからもう2年も経ったからもうすっかり慣れてしまった。


 2年前現代、元の世界で猫カフェの店員をしていた僕、望月琥もちずきこはくは突如異世界転生してしまった。けど、異世界のヒト達が優しかったお陰で今ではすっかりこっちの生活に慣れてしまった。

 

 部屋の扉を開けてリビングへ向かう。リビングを通りキッチンの方へ行くと、エプロンをしたケモミミの少女が朝食の準備をしていた。


 「あっ!おはようございます店長〜。よく二度寝しないで起きてこられましたね」


 「おはようココ。猫の分は僕が用意しとくよ」


 「助かります。じゃあ私は朝食あっちもって行きますね」


 彼女との会話をしながら僕は氷の入った箱の中から小さな瓶を取り出す。

 それと同時、足元に数匹の猫達が集まってくる。きっとご飯が待ちきれなかったのだろう。食いしん坊な奴らだな...。


 猫達を待たせないよう素早くご飯を配分しておいてやった。今日も勢いよく食べるな〜。たんと食べて大きくなれよ〜。


 さて、僕も朝食を食べるとしようか。


 「おまたせココ」


 「猫にご飯あげ終わったんですね店長。さっ、私達も冷めないうちに食べましょ」


 彼女はココ。僕のお店の店員で、住み込みで働いてくれている。

 異世界に来たばかりの頃に山で猫と倒れているのを僕が見つけて以来一緒に生活してる。


 「にしても、料理また上手くなったな。ほんと飲み込みが早いよな」


 「そんな事ないですよ。店長の教え方が上手だからですよ~」


 他愛もない会話をしながら朝食を済まし、僕はリビングのソファで猫にブラッシングをしていた。この猫達がココと一緒にいた猫達だ。元の世界の猫とほとんど違いはない。


 ちなみに異世界でも猫と触れ合うことができて内心嬉しいのはココには内緒だ。


 「店長〜、お店の食材減って来てので買い出し行きましょ〜?」


 ブラッシングをしているとココが話しかけてきた。そっか、もうそんな時間か。

 僕はブラッシングを終わらせ、テーブルからカバンを取り立ち上がる。


 「よし、じゃあ行こっか」


 そうして僕達はムラの市場に向かった。


◇◇◇


 「おい!コハクじゃね〜か!店の買い出しか?今日も活きのいいヤツはいってるよ〜」


 「ありがとうございます。じゃあいつもより少し多めに頂けますかね」


 「任せとけ〜。また今日も寄らせてもらうわ」


 「ぜひぜひお店で待ってますね」


 海が近いリュウツキムラは活きのいい魚が沢山並んでいる市場が盛んだ。お陰で猫のご飯にもヒトのご飯にも困らない。


 「ココ、そっちも終わったか?」


 「バッチリですよ~。みんな今日も店長の楽しみにしてたよ」


 「それは良かった。じゃあ戻って準備しようか」


 と言うのは、僕が経営しているお店の事。こっちでは珍しく人気らしい。

 

 戻った僕達は店の鍵を開け中に入り、キッチンに買った食材を置く。


 「ココ猫達を連れて来ておいて。掃除は僕がしておくよ」


 そう言うとココはリビングに向かった。


 中の掃除が終わるとココが猫達を連れてきてくれた。みんなリラックスしてくつろでくれてる。だいぶここにも慣れてくれたみたい。


 そう僕のお店とはだ。


 元の世界で猫カフェの店員をしていた時のノウハウを活かし、異世界で猫カフェをけ営業している。

 どうやら異世界では猫は全く見ないらしくココと一緒にいた猫くらいしか、いないらしい。

 だから猫の癒しを知らない異世界のヒトに癒やしを与えるため僕は猫カフェを開いた。


 あとは、僕が異世界転生者だからってのもある。今は平和だけど、いつまで続くかわからない。猫をヒト慣れさせておかないと僕がいなくなったあと世話ができるヒトがいないのは良くないと思ったからだ。


 そんなこんなでもう開店の時間だ。僕は扉横の看板を開店中に切り替える。


 「てーんちょ、今日も頑張りましょ!」


 「そうだな。今日も元気に開店だ!」


 ムラの大広場から徒歩5分。昼から夜の間に営業している猫カフェ「マル」。


 今日もヒトに癒やしを与えるために、ヒトと猫が触れ合うための場が開店し始めた。


 



 


 

 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界生活は猫のように 風月 隼 @kazetuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ