紙ふうせん

Rie

― 風にとけた手紙 ―

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ぽん、と鳴り

夢のはじけた 午後三時

紅(くれない)うすき

紙ふうせんの 気がかり


 


浮いたり沈んだり

あの子の息でふくらんだ

ひとつ ひとつ

何も書かれていない願いが

空をみていた


 


透けた色

うつしたのは 花火の記憶か

夏のはじめの 約束か

それとも だれかの

忘れられた さよならか


 


からん と 風鈴が

鳴ったのち

ふわりとそれは 庭に消えた


 


落ち葉の上

紙の夢が しずかに

折れたように 眠っていた


 


そしていまでも

ふと風の音が やさしいと

あの午後の 空気が

胸に ふくらむ


 


ぽん、と鳴り

今日もひとつぶ うたかたが

あゝ どこへも 届かずに


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紙ふうせん Rie @riyeandtea

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