死罪

ヤマ

死罪

 この国には、あるルールが存在する。


 法律ではない。


 だがそれは、制度よりも強固で、規則よりも正確だった。



 を口にしてはいけない。



 知っていること自体は、罪ではない。


 だが、それを口にした瞬間、行為はへと変わる。


 世界の摂理を壊す、不可逆のとがとして。



 その日、駅前の広場にて。


 ある男が、それを破った。


 彼はただ、友人との会話の中で、何気なく口にしただけだった。


 軽口のように。

 冗談のように。


 ただの雑談のつもりだった。


 しかし。


 男以外の、その場にいたすべての人間が、動きを止めた。


 女も子供も、老人も――

 全員が、彼をじっと見つめる。


 その様子に、男は戸惑う。

 ほんの一瞬が、長い時間に感じられた。



 やがて――



 どこからともなく白装束の者達が現れ、男を拘束しようと取り囲んだ。


 男は必死に抵抗する。


 を踏み付けていることにも、気付かない程に。


 しかし、数の暴力には勝てず――


 後ろ手に手錠を嵌められ、両脇を抱えられる。


「なんで……。なんで、こんなことで……!」


 ただ一人、男の叫び声だけが響き、空に吸い込まれていく。


 しかし、誰も答えない。


 答えること自体が、新たな罪を生むからだ。





 白装束の者に連れられ、男は、窓のない狭い部屋に放り込まれる。


 部屋には、奥の壁を向くように固定された椅子があるだけ。


 乱暴に座らされ、手足を縛り付けられる。


 目の前の壁を見つめることしかできない。



 しばらくして――



 白い光に目が眩んだ。


 何もなかった壁に、映像が映し出されている。



 コント番組だった。



 男は、理由もわからず、それを観続ける。


 そして、気付く。



 その映像には、見覚えがあった。



 三年前位に放送されていた深夜番組だ。

 確か、出演者の不祥事により、打ち切りで終わったはず。

 その番組の中の一つのコントが、リピート再生されている。



 パターン化されたボケとツッコミ。

 長さは、五分程度。


 一度観るだけで、満足するような内容のそれが、延々と繰り返される。


 何の変化も与えられず。

 先を知っているのに止められず。





 





 それが、沈黙を破った罪に対する、男への罰。





 映像に対する感想を伝える相手はいない。


 理解する者もなく、共感する者もいない。


 彼の声は、誰にも届かない。



 永遠の孤独。



 男は、繰り返される映像に目を向けることしかできない。


 脳裏には――


 あの日、男がを語った瞬間の友人の絶望したような表情。


 そのショックは、持っていた本を落としてしまう程で――



 どうして、あんなことをしてしまったのだろう。



 涙が止まらない。


 映像から流れる笑い声が、部屋にこだまする中、男は嗚咽混じりに呟いた。













「ネタバレなんか、しなきゃ良かった……」

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死罪 ヤマ @ymhr0926

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