君の魂は金色に輝く

城間ようこ

第1話「MIND BOMB」

 運命の人が本当にいるのなら、赤い糸よりも鮮明に見せてくれ。


 この目に、まるで昇る朝日のように輝かしく──。










 ……………………。




「──優和さん、この家ってCD聴けますか?」


「ああ、聴けるけど。なあ、勇人、今の高校生もCDで音楽を聴くのか?」


「父から借りて来たんです。『The The』っていうバンドのアルバムなんですけど、『マインド・ボム』ってアルバムが神曲揃いで、父が寝る前に聴いてるのに付き合ってたら僕まで好きになって」


 The Theはマット・ジョンソンによるロックバンドだ。ジャンルはロックだけれど語りかけるように歌う。


 彼は知る人ぞ知るアーティストで、イギリスで活動していたが、マインド・ボムの後はアメリカに拠点を移し、次作のネイキッドセルフを出すまでに七年以上かけた。それを手にした父親の喜びようは大層なものだったと、勇人は聞かされた記憶がある。


「タイトルだけ聞くとダンテの地獄篇みたいだな」


「ダンテ?あの三冊揃うと鈍器になる本ですか?」


 鈍器になる本と言うと、ジャンルによって様々な書籍が挙げられる。勇人は少しいたずら心を出して混ぜ返した。


 しかし勇人より大人の優和は、余裕をもって反撃する。


「三回も殴打するのか……勇人は案外殺意が激しいんだな。ベアトリーチェには到底なれそうにない」


「もう……そもそも僕は男ですから。ベアトリーチェは既婚女性じゃないですか」


「勇人の冗談に付き合っただけだろ?」


「分かってますよ、ありがとうございます」


 他愛ないやり取りをしながら、カバンからCDを取り出す。モノクロが基調の少し古めかしいジャケットを、優和が興味深そうに見てくれている。


 その二人の距離は、肩が触れそうで触れない、息が触れ合いそうな距離だ。


 ──今でこそ、普通に会話出来るようになったけど……優和さんは、あの事を今どう思ってるんだろう。


 勇人は、ケースから円盤を取り出して優和に手渡しながら、触れた指先の感触にぴくりと痺れるような反応をして──気づかれないように手を引っ込めた。


 ──この関係は、優和さんが、あの日見たものが知らせた事を本当に信じられるまで、後退も前進もない関係のままなんだろうな。


 居心地のいい距離感。緊張しない会話。二人きりで何も過ちの起きない──そんな関係。


 勇人にとって、それが嬉しかったのは──いつまでだっただろうか?


 いつしか、心はもどかしさをぶつぶつと沸かせてくるようになった。


 ──まだ、駄目だ。こんな気持ちを知られたら駄目だ。


「勇人、この一曲目の入り方悪くないな、お前の父親が夜に聴くのも分かる」


「……ですよね?静かなんですけど、力があって」


 二人きりで聴いている音楽は、爆弾になる事もなく落ち着いた雰囲気を作り出して、そうして勇人は言葉を選んでは飲み込んだのだった。


 ──あの夜、あの場所で出逢えてなかったら、今のこの時間もなかった。


 今がある事に感謝しようと、勇人はゆったり流れる好きな音楽に「せめて、この音で自分を彼と共有したい」と願いを込めて身も心も沈め、出逢いの夜を思い返した──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る