特殊部隊と監視役~殺人鬼の化け物たちと過ごす日常~【改】
リンネ
序幕
第1話 序幕①
昭和106年6月16日。午前10時15分。
大日本帝国首都『東京』にある、陸軍本部の一室
椅子に座り、机に置かれた資料を見ていた黒髪の長髪の女性、
「入って」
未来は扉に向けて声を掛ける。すると黒髪の青年・
「失礼します」
そう言いながら部屋へと入ってきた彼。真新しい制服に身を包み、動きは心なしか、ぎこちなかった。
緊張の色を隠しきれていない類は、そのまま未来が座っている机の前へに立つ。
自身の近くへと来たことを確認した未来は、口を開き始める。
「やっと来たわね。肩の力を抜いて、ゆっくりして」
「は、はい!!」
未来の言葉に、類は背筋を伸ばす。
「新米なのは分かるわ。私もその頃があったから」
未来は手にしていた資料に目を向ける。
(首席卒業の優等生。その他にも良い成績を残している)
(上官が彼を監視役に指名した理由が分かるわ)
未来は資料から青年、
「もう上官から言われていると思うけれど……貴方には明日から、『特殊部隊』の監視役をやって欲しいの」
未来の言葉にキョトンとする類。
「特殊……部隊……ですか……?」
「そうよ」
頷く未来を見た類は、緊張しながらも、先輩に疑問を投げ掛ける。
「えーと……それは……なんでしょうか……?」
「首席卒業の優等生様でも、分からないでしょうね……」
やれやれと、首を横に振りながら資料を机の上に置いた未来は、ゆっくりと話し始めた。
「特殊部隊は……化け物の集まりよ」
「化け物……」
ゴクりと生唾を飲む類に対し、未来は淡々と言葉を紡ぎ続ける。
「貴方が想像しているものよ。奴らは人間じゃない。人殺しなど平気でするわ」
未来の鋭い視線が類を捉え、彼の顔がさらに緊張で強張った。
あいつらは人ではない。
人殺しを快楽としか考えてない、おまけに慈悲なんてあいつらにはない。
近づけば殺される、ただそれだけ。
私たちとは住む世界が違う存在。
それが『特殊部隊』よ。
未来は鋭い目で、類を見つめる。見つめられた彼は、ビクッ!と肩を揺らす。
「『特殊部隊』と言えど、任務とか一切無いわ。化け物を収容してるんだもの。国民にバレないようにしないといけない。もし、仮に人を殺すような真似をしたら……私たちが一早く処分できるためにね、近くに置いておきたいのよ」
「と言うことだから。じゃぁ、明日から頑張って頂戴」
「はいっ!」
類はかかとを揃え敬礼をした。
ーーーーーーーーーー
同時刻の6月16日 午前10時15分。
大日本帝国『東京』・小さな屋敷にて。
街中の外れにある小さな屋敷に、灰色の髪をした中年の軍人が入っていく。
屋敷の中は、とても綺麗に掃除されていた。壁にはひび一つなく、埃もない。徹底的に掃除された屋敷は、見ていて気持ちが良い。
中年の軍人は、そんなことに目もくれず、ある一室の扉を開けて、中にはいる。そこには、藍色の髪をした青年が、一人で優雅に紅茶を飲んでいた。
部屋に入ってきた中年の軍人に気づいた青年は、カップを置くなり、ニッコリと嬉しそうに微笑んむ。
「あ、またここに来てくれたんですね。お帰りなさい。お父さん」
だが彼に返ってきたのは、言葉でなく銃声だった。青年の少し離れた場所にある壁に、小さな穴ができる。
それを横目で見ながら青年は楽しそうに言葉を紡ぎ始める。
「あれ?私、何かしましたか?お父さんの気分を害することなんて……何もしていないのですが……」
うーんと、わざとらしく頭を悩ませている青年を見た中年の軍人は、手にしていた拳銃で、今度は青年の右手を撃った。
彼の右手からは赤い花びらの如く、血が溢れ始める。撃たれた右手を抑える青年。激痛に歪んだその顔は、しかし、どこか楽しげでもあった。
「誰が貴様の父だ。私の妻を殺した奴が、偉そうに『父』と呼べるな」
中年の軍人の言葉に、痛みに耐えなが「ふふ」と、楽しそうに青年は笑った。
「……そうですか。えぇ、私は貴方の妻を殺した。昔に殺しましたよ。でも……『化け物である私たちを撃って良い理由にはならない』」
絶えず、血が流れ続ける右手を見ながら青年は、ゆっくりと言葉を紡ぎ続けた。
「貴方がた軍人さんは、『どんな理由であろうとも、些細なことでも私たち化け物を撃っても良い』と、命令されてますが……こんな『私情で撃つ軍人さん』なんて、初めてです」
青年は、上に掲げた右手をうっとりと見つめる。
「上から命令されているのなら、もう少し合理的にして欲しかったなぁ……」
「あ、そうだ。ねぇ聞いてくださいな。今日また人を殺したんです」
青年の言葉を聞いた中年の軍人は、今朝新聞で見た記事を思い出した。
それは、『夜道で起きた殺人事件。被害者は抵抗できずに亡くなった』と言う。痛ましい事件だ。
「やはり、貴様の仕業だったのか」
「やはりって、心外ですね……。あ、もしかして……その事件について、私に事情を聞きに来たんですか?『お父さん』」
三度目の発砲音。今度は、青年ではなく、ティーカップに向けて撃たれていた。壊れたティーカップを見て、嫌な顔をする青年。
「あーあ。折角、念願だった『父と一緒にティータイム』ができると思っていたのに……壊れちゃった」
はぁ……と、ため息をつく青年・マナトは、楽しそうに呟いた。
「ずっと、私を、マナトだけを見てください。お父さん。貴方のなめなら、マナトは『何でも』しますから」
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