第36話 つくって学んで積み上げて

 合わさり発光した一撃の手応えは重く、得物を握る手に返り痺れる。それでもレイが力と魔力を込め振り抜いたプロトロッドが、新たな尾の武器を携え飛び込んできた石の塊ごとを弾き返した。


 やがて弾かれた動く石は、猫のように己の体を上手くひねり宙を四足を下に向く正しい姿勢で落ちる。そして矢と光の追い射さる危ない地を、泥水を跳ねながら滑るように難なく走った。


 隙に合わせて三本の矢を放ち切ったミオ職員が今その目で辿っていく、ぬかるむ地についた四足の獣の足跡が変わっている。いや、その姿までもその石虎に彫刻をほどこした人が途中ですげ替わったように、まるで見目デザインが大きく変わっていた。


「ナッ……なにこいつ?? 本当にさっきのストーンイェルガー!?」


 突然三人の前に再びはっきりとその姿を現した魔獣ストーンイェルガー。アマリアを襲いレイが弾き返した一つの棍棒のようになっていたツイストした尾は解けて、三本の尾になり、ゆらゆらと揺れている。威嚇し吼える顔は正面に大きく広がり、まるでアマリアの構えていた盾を模したようだ。ミオの放った矢とレイの放った魔光弾の威力が、そのたてがみのように広げた石の前部盾に、阻まれ刻まれていた。


 そんな様変わりしたストーンイェルガーの姿にミオは驚き、しばらく見ていたレイは視線を切り倒れていたアマリアの方に、助けの手を伸ばした。


「大丈夫?」


「ええ、地が急にぬかるんで……ごめんなさいお姉さま、下手をうってしまいました」


「うん。それはまったく足元に目がいかなかった私の下手でもあるし。おそらく……あのしつこいまでの水砲は、地に魔力を撒くための布石だったみたい! しかも、あの姿それだけじゃなく!」


「アレは!? まるでワタクシの盾と、まるでお姉さまのロッドをその身に……宿した??」


「それだけじゃ──ナイ!! このミオ職人職員さん……弓の授業料はもらってないのだけど!」


 レイたちに向かい放たれた石矢をミオは同時に放った矢で、宙に矢じり同士をぶつけ撃ち落とした。


 進化したストーンイェルガー、その三つ尾を石を編むようにあやつって石の弓と牙の矢をつくる。石が模したのはなんと三人のそれぞれ持つミラーウェポン。ようやくまともに姿を見せたストーンイェルガーは、今度は、逃げの姿勢を見せやしない。濃霧にまぎれ秘かにそして新たに彫刻を施したその肉付けバージョンアップした歪な姿で、石のたてがみを広げ、今、勇ましく獲物たちに向かい吠えた。

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