第34話 暴け!潜み暴れるその正体
背にしていた後ろの大木の幹にアマリアは強く背を打ちつけられた。そして、水砲の水圧に押し飛ばされたびしょ濡れの姿で、首を左右に振った。真っ先に探していたのは背に守っていたはずのミックとチュミの姿。その行方を痛む体をおしながら、瞼についた邪魔な雫を払い、アマリアは慌てた様子で探した。
水飛沫に滲んだアマリアの視界が鮮明になると、誰かがアマリアの後ろにいた二人の子供のことを両脇に抱えて、水砲の威力の及ばない場に既に脱していた。
誰かとは白黒髪の彼女ひとり、左方を向いたアマリアの目にはすぐに分かった。
そしてよく見ると子供たちのことを今降ろした彼女は白杖を持っていない。アマリアが真正面に向き直ると、そこには一本、白杖が地に突き刺さっていた。
アマリアはその白杖を見て同時に気付いた。注意散漫であった自分が耐え切れずにやられた水砲の威力を、途中で二分するように和らげたのはその今突き刺さっていた一本の白杖、彼女のミラーウェポンがやってくれていたことなのだと。
アマリアの心配もよそに、レイ・ミラージュは既に機転を利かせアマリアと子供たちの双方の助けに入っていた。
「大丈夫ですかー!」
「えっ、ええ……大丈夫でしたわ! ほんの軽く背を打っただけで済みました。ミックとチュミ、子供たちをもう一度こちらに! ミラーウェポンを気にせずお取りになられて!」
アマリアは胸に寄せていた盾を掲げてみせ、心配し問うレイにそう健在ぶりをアピールし答えた。
あのいきなり吹いてきた水砲の不意打ちを受けても、金髪の彼女はまだ動ける様子だ。さらにレイの役に立つことを逆に気遣い言ってみせた。レイは彼女が大丈夫というのは嘘でないと思い、首を縦にし頷いた。そして子供たちのことをもう一度アマリアの元に誘導し任せて、急いで自分のミラーウェポン、地に置いていたプロトロッドを取りに戻った。
そして一方、ミオ・アコットン職員がその目に睨んだ先の状況は────既に遠く霞むそこに敵はあらず。当たり貫いた矢は、不自然にしおれたようにも見えた木に突き刺さり。矢に射られ千切れた石の尾が、ぶらぶらと何故かそこに揺れていた。やがて、一本の矢が突き刺さっただけの木がゆっくりと崩れ落ちていく。軋む嫌な音が遠くに鳴り響いた。
そしてまた一本の大木の元に集いだし、護衛対象の子供たちの守りを優先する陣形を敷いた三人の女戦士たちは、あの姿をなかなか現さない敵がさっき何をしたのかを、もう一度各々に口にし考えてゆく。
「ストーンイェルガーがストーンイェルガーじゃない? こんな水の砲を使うなんて噂にも聞いたことないんだけど……。だとすると、ミラー協会は随分と名付け方を間違ってくれたみたいなんだけど……どうおもうこれ?」
「ええ、冗談ではなく口から今度は石ではなく水を吐いたように遠目に窺えましたが、その慧眼で何か他にお気づきに?」
「運よく命中したのはまた生えてきた尻尾のようだけど、なんでか今日はミオ職員さんアタシの矢の調子のほうがすこぶる良くて、逆にラビの木の元気がしおれたようになかったのよねぇ。──って、いくら調子が良くても、矢の一本で木が倒れるわけないじゃない?」
「あ、分かりましたわ! その石の尻尾の役割はホースで、木から吸い上げられた水を勢いよく吐いたのではなくて?」
「木にそんな量の水が!? どばっとぉ?? ははーん、あるのか疑問ねミオ懐疑職員さんは?」
「森の木や大自然には人の知り得ない利用できない魔力がまだまだ宿っていると、ジラルドの父はよく私に言ってくれていました! そして、破鏡を生まれ持つ魔獣ならば、それらを利用して石の排水溝になるのも自由自在! おそらくそんな戦法も可能なのかと!」
「さっ! さすがですわ、お姉さま!! ワタクシもそのように思います!! やはり、そうにちがいありませんわー!!」
「「へ? お姉さま??」」
お上品な所作で口に手を当て、うっかり興奮気味に放った今の一言はもう訂正できない。レイとミオ職員はそんなしまった顔をしたアマリアの方につい振り返る。さっき後ろから耳に入った、思わぬ関係性を飛び越えた一言に、驚いた様子のレイとミオ職員は、互いの顔を指差し合った。
アマリアは「気にしないで」といった様子で、口元に当てていた手を左右に揺らし扇いでみせる。ふざけている場合じゃない三人はそれ以上脱線せずに頷き合い、また集中し直し、各々のミラーウェポンを構え直していく。六つの凝らしたその目を、また濃度の一段と上がってきた霧の森の景色へと散りばめていく。
果たして、ミラー協会も知らないハイクラスの強魔獣ストーンイェルガーの正体とは────。
目を欺くよう揺れる影と、人の耳を翻弄する四足の足音が、唸り太い産声を上げた水流と共に、レイたちをまた襲いだした。
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