第31話 あふれる憧れ
現れた石虎は橙色をしたトパーズの瞳で、横槍を入れ飛び出てきた白黒髪の人間のことを睨みつけながらも、警戒して遠く間合いを取る。
やがて、石虎はダメージを受けた穿たれひび割れた虎顔を、周囲の森の土に落ちていた石を吸い集めて修復していく。
そんな奇妙で厄介な行動をし始めたのは、レイとアマリアの見たことのない石の魔獣だ。睨む魔獣に警戒するのは、人間たちも同じ。危機するシチュエーションに身を投じ、急遽飛び入り参戦したレイは、白い得物の先端を向けながら石虎のことを牽制する。
そしてじりじりと後退していく石虎との間合いを測りながら、周囲の状況を一瞬確認したレイは同時に気付いた。そこの背後ろに居合わせていた二人の怯える子供達の周りを固めないといけないことを。
ミックとチュミ少年少女二人は、縮こまり一本の木の幹を背にしその前に置かれていた盾に身を隠していたのだ。
しかしそそくさと後ろに駆け寄った金髪の女が、その置かれていた大盾をいま軽々と持ち上げて手にした。大盾はアマリア・ベルショの物、ミックとチュミの前に構えてみせ守る姿勢を振り返っていたレイへと見せた。
「では、陣形はそのように!」
「も、もちろんですッ……わ!」
そしてアマリアの見つめる白黒髪の彼女がもう一度、半分ほど見せていた面を、正面に向き戻ったそのとき──
石虎が素速く飛び付いた、と同時にレイは横薙ぎにプロトロッドを振るっていた。まるで来ると決め打ちしていたかのように、飛び付いてきたら強烈なスイングを合わせてやろうとレイは頭の隅で戦闘プランを既に画策していたのだ。
白い杖の大振りは、鋭く風を鳴らし、石の鼻先を砕いた。ボロボロと崩れ滴る鼻をしながら後ろへと飛びのく。石虎は白い杖がクリティカルヒットし顎まで砕かれる未来を、間一髪で回避した。重厚な石の身でありながらも、素速い俊敏性を見せる。
さらに、石虎は吼えた。低く唸るように吼えながら、その口部から礫弾を不意に飛ばした。
不意をつく石の飛び道具に、しかし、レイは反応してみせる。
「石を投げられる覚悟は、──あいにくゥ!!」
プロトロッドをバトントワリングでもするように回転させ、かつ魔力を杖から垂れ流し、レイの身の前方を流れ続ける円形の簡易シールドを形成する。
ぶち当たる礫弾を寄せ付けない高速回転する光の魔力盾となり、ぶつかる石の音色を奏でていく最中、不意にレイは真っ直ぐに白杖を前へと鋭く突いた。
「ヤァッ!!」
無意味な動作でかっこつけたわけでもない、届かぬ攻撃を披露したわけでもない。その先端である白杖の石突部から、練り上げた魔光弾をいま、空を貫き示した方向へと撃ち放った。
「──!? なっ、なんたる……!! ベストッ…タイミング……!!!」
あんぐりと開けた前方の虎穴に、差し込んだのは一筋の白き閃光。命中精度は一級品、石の雨の中でも迷わず選び撃ち抜いて、貫く威力は後頭部まで一瞬に穿ち尽くし。
空を突いたプロトロッドから、白い魔力の閃光は疾った────。やがて刹那に虎の口をくぐり抜け、威力鋭く差し込んだ。熱き光がその先の並び立つ樹々をも抉り揺らす。
石虎へとお見舞いしたレイ・ミラージュの一瞬にて狙い澄ました魔光弾、その華麗なる芸当に、彼女の戦い様をただ後ろでじっと見つめていたアマリア・ベルショは驚きを隠せない。
称賛の言葉をゆっくりと漏らしながら、開いた口が塞がらない。
アマリアの目に映る、白と黒の髪が混沌と交わり荒ぶる──勇ましきその背姿は、美しい。
そして、同時に懐かしい。あふれる冒険の汗と匂いとあの頃の熱が、懐かしく蘇るように。幼き記憶に重なる成長した背姿、夢に何度も憧れ見ていた彼女の背姿が、伯爵令嬢アマリア・ベルショの手を伸ばす目の前、そこに燦然と輝きあった────。
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