第30話 窮地、砕けて

「さきほど、ビッグアルミラージをよろめかせたのは……?」


 大物を討った興奮と喜びを抑え、冷静さを取り戻したアマリア・ベルショは、そう呟いた。さきほどの隙を演じさせたのはきっと自分だけの力ではない。ビッグアルミラージと至近に角と刃を交え相対していた時、たしかに何かが横から光り、自分のことを勝利の糸を操って見せたように、最後の必殺の刃へと導いたのだ。アマリア・ベルショは疲れた頭と体で考えるも、やはり、そう思えてならなかった。


「たしか、あちらの方角から──」


 アマリアが気になった横の方に首を振り向いた、そのとき──


 石が飛んできた。体の真正面から飛んできた。大きな石の塊がいきなり風をどかし、余所見をしていた金毛の彼女に襲いかかったのだ。


 いや、襲いかかったのはよく見ると石ではなく獰猛な虎のようだ。そう、石の虎が獰猛な肉食獣たる迫力で、押し倒したアマリアに乗り掛かり噛み付いて来ていた。


「ナッ!? まだ、魔獣が!! 重ッ──!!」


 見たこともない石の魔獣がアマリアの体に乗り掛かる。なんとか欠けたムーンソードで噛み付く牙を受け止めたが、その石虎を跳ね除けられない。まるで石の体それ自体が合理的な、獲物の動きを封じる重しとなり、それを熟知した狡猾な狩り方を石虎は同時に仕掛けてきているのだ。


 このままでは──重くのしかかり痛む体、欠けた刃は押し込まれていく。アマリア・ベルショの喉元寸前に大きく迫る石の虎顔の迫力と重圧に────


 またも光の筋が横から差し込んだ。突然横腹に受けた衝撃と熱さに、右を振り向いた虎顔は──白い長物に突き飛ばされた。


 石の顔を鋭く穿ったのは、白い杖。疾風の如き一突きに、そこにいた精巧に彫られた虎の石の重しは豪快に吹き飛ばされた。


「お見事ですが、まだ終わってません! そして遅ればせながらここからは、私も参加させてもらってよろしいですか!」


「──!? は、はいです……わ!」


 アマリア・ベルショの窮地を救ったのは、遠方からの白い光の魔光弾、狙い澄ました六発と、至近に炸裂した石虎の顔を砕き退けた白い一突き。


 美しい白杖を携えたその背、白と黒の長髪が勇ましく揺れている。あふれる魅力を放つその背が振り返り、後ろ見る。


 黒とクリーム色のオッドアイ、その一度見たら忘れられない眼光が、地に寝そべったアマリア・ベルショにその澄んだ声で強く問う。


 子爵令嬢レイ・ミラージュが遅ればせながら、協力な魔獣の集う危機の場に、堂々の参戦を果たした────。

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