第26話 ベオ・ギルト職員vsミオ・アコットン職員vsレイ・ミラージュA級魔獣狩り
レイが嬉しそうに浮かべた黄色のダイヤを眺めていた、そんな時──素速く現れた何かが、机ごしにいた男性職員のことを跳ね除けた。
「おいおい、いきなりなんだ痛いなぁ!?」
「うるさいっ! 公私混同ベオ・ギルト軽薄職員!」
「はぁ? 何言ってやがるミオ・アコットン乱暴職員」
現れたのは、なんと別の職員。グレーの制服を着た男性職員は体当たり気味にどかされ、レイの受付カウンター前の人物は、その突如現れた女性職員にすっかり代わってしまっていた。
「あなたもっ! 怪しい男に誘われても、はいはいと、ついていってはいけません」
その女性職員ミオ・アコットンは、現れるや否や、いきなりレイのことを指差し注意喚起した。
「怪しい男? はいはいと? あのぉー……私はエスティマのミラー協会に魔獣狩りの登録をしに来ただけで」
「あなたが? 純粋に? エスティマの?」
その指をリズミカルに揺らし、ミオ・アコットンは三度さす。机に片手をつき、前のめりにレイのことを指して、圧をかけるようにその本気度を問うた。
「はい、そうですが? 何か手続き上、その、悪かったのでしょうか?」
レイは首を傾げ、今手に持っていたダイヤの証を、ゆっくりと女性職員の前へと差し出した。不都合ならばそれをお返ししますとばかりに。
「わっ、悪いも何も、それもこれもあの男の策略なのよ。この前もそこらの女の子をなんとか言って連れ込んで、それをキラキラのプレゼント代わりにする寸法を──」
ミオ職員は、今度はレイの手のひらの上にある黄色いダイヤの形をした認証のミラーツールを指差した。そしてまた、レイへとあの床で転げていた男性職員に注意するよう告げた。
「おいおい馬鹿言えそれこそ公私混同、穿ち過ぎだミオ・アコットン邪推職員。ただの認証ツールがどうして女性へのキラキラだプレゼントだぁ? おまえさんが働いてるのは一体ナニー協会のどこの受付だぁ?」
「はいはい、それもこれも往生際の悪い現行犯。ベオ・ギルト口からでまかせ職員のでまかせとその隠せない下心を、今度という今度はミオ・アコットン慧眼職員が見逃さないって言うのよ」
「お前なぁ……まさに今、口からでまかせを並べ吐いてんのはそっちだろうが。参ったを通り越してんぞ、まったくどういう発想してんだ」
いきなり騒がしくなったあちら側、ミラー協会の受付内。弾き出されてもなお弁明をするベオ・ギルト職員に、譲らない嫌疑をかけ続けるミオ・アコットン職員。
困惑するレイは、一度冷静に立ち返り。そんな二人の様と口論を眺めながら、顎に手を当て、やがてその口を開いた。
「ええっと……。ベオさんはバイト先の先輩みたいなものなので、特段そういうアレはないのかと? はい、そのようにうかがっております。さっきも街中の駆けっこで、ついでに魔獣狩りとしての体力テストをするほどの仕事熱心ぶりでしたし?」
「ばっ、バイトサキ? 駆けっこ? ど、どういうことなのそれ?」
ミオ職員はベオ職員を横に押しのけながら、レイの言っている謎の言葉の「バイト先」や突然の「駆けっこ」や彼が「仕事熱心」なことが、結び付かず分からないようだ。
「ええっと……あ! 言ってしまえば、何かと気の利くみんなの兄のような存在でしょうか? 街の子供たちもずいぶんとなついている様子でしたので。あ、──みんなの案内役? なので、はい。それがしっくりかと! 私もそれにあやかり此度利用させてもらおうかと」
「ぷっ!? みっ、みんなの案内役! しっ、しっくり! あははは」
「おいおいそれもそれでなんだかどうなんだァ? 俺のこと、そんな風に思ってたのかよレイ・ミラージュ候補生」
レイがそう閃いたようにベオ・ギルト職員のことを言い直すと、ミオ職員は吹き出して笑い、その笑いが止まらない様子だ。
話題の男、ベオ職員本人もレイに驚いた顔で問い直す。そのされた評価が意外で、ちょっぴり不服なようだ。
「そうそうそう、この人はただの気にしいの便利な案内役だから。ここでその役割は終わり、はい終わり終わりの対象外♪」
笑いの波のおさまったミオ職員は、微笑みながら掃いて捨てるように、ベオ職員のことを受付の奥へと押していきそのままレイの視界から退場させようとする。
「何言ってやがる。そりゃないだろ。せっかく見つけてきた人の仕事を。それに何が対象外だ、俺は最初から魔獣狩りの期待のルーキーとしての人材をだなぁ」
「はいはい仕事なら客人に紅茶のひとつでも淹れて来ればぁ? ほら、さっさとするベオ・ギルト便利屋職員♪」
「お前な……チッ、わかったわかった! ベオ・ギルト便利屋職員は気が利くからな! 走ってお疲れだろうに、何も出さなくてすまなかった。なる早で淹れてくる。アイスでいいな?」
「うん、それで♪ ミルクも忘れずつけて」
「了解、ってお前さんじゃねぇよ!」
ベオ職員は急かすミオ職員の手に押されていきながらも、その一段高い背丈から受付前に佇むレイのことを見て指をさし、ドリンクがそれでいいかの確認を取る。
やがて男性職員をこの場から片付け終えて、ご満悦に両手を幾度か上下にすりあわせるように叩く。そんな白髪ショートの女性職員の背が、待たせた客人レイの方へと振り返った。
そして、ミオ・アコットン職員の今した爽やかなウインクに、レイ・ミラージュもぎこちないウインクで応えた。
レイは黄色いダイヤをミオ職員に言われた通りに、専用の鏡板の上に置いた。すると、鏡板の中にダイヤは不思議にも沈んでいき、やがてまた浮かび上がった。
「うん、これで1万シモンはミラー協会側に預けられたわ。そして、その認証ミラーツールには残りの1万2000シモンがチャージされたわ」
「なるほど、これはすごく便利ですね?」
「そうね、この国なら一層便利だと思うわ。協会以外にもあらゆる施設で使えるようになってきているし。もちろん他の国でもミラー協会は点在しているわけだから使えるんだけどね。でもまぁ、エスティマほどじゃないと思うから、その時は現金で持っておいた方がいいわ」
レイはさきほどエスティマ国の魔獣狩りに登録した際に受け取った、認証ミラーツールの使い方を習っていた。ミオ職員が言うにはレイの知るキャッシュレス決済のように、対応する施設で買い物がソレでできるのだと言う。
もっともこのガライヤの世においては、レイにとって、少々オーバーテクノロジーじみているようにも思えた。
「他に何か聞きたいことはある?」
ベオ職員をどこかへと追いやり、受付でレイの担当に替わりに入ったミオ職員はそう言うので。
「じゃあここで受けれる魔獣狩りのクエストのことを、一度どんなものがあるか今後のためにも目を通しておきたくて」
レイはミラー協会で受けれるクエストのリストを見せて欲しいと、向かいのミオ職員にお願いした。
「クエストのことね。最初に言っておくけどA級が一番簡単で一応一番上がM級まであるわ」
「A級から逆に……で一番上が……M級? それはいったい……どのような? あの、それって実際にあるのですか? そのM級というものは?」
「アレ? そこ、気になっちゃう感じだ? ……んー、ここらじゃまだM級ほどのクエストはないけど、他の支部の記録にはあるにはあるみたいよ。待ってて」
そう言い、ミオ職員は職員専用のミラーコンソールを指先でいじりだした。その特別な一枚の鏡には、全世界のミラー協会の保管する様々な情報や記録が秘められており、なおかつその情報を映し出す鏡としても機能する優れ物だ。レイの前世で過ごした世界で言うタブレット端末のようなものだ。
「協会の記録によるとM級のクエストは過去に、口から火を吹くと恐れられる巨大な竜。その脚力が骨をも砕く黒い殺人兎とか。人の何倍も大きい巨大なミラーエイプなどなど、該当する例は色々あるわね」
ミオ職員は、職員が閲覧可能な記録映像の一部をミラーコンソールに映し出し、レイにも一緒に見せてくれた。
「本当にあるということなのですね……。ですが、そんなものを、一体どのような方が対処にあたるのですか」
「まあそれはおそらくだけど、協会と魔獣狩りの総力でじゃない? 一人でどうにかできることはないと思うわ。自警団や軍隊と連携を取ることもあるみたいよ」
レイは迫力の映像をまじまじと見ながらも、そのM級の魔獣のスケールについ最近どこか、心当たりがあるような気がしていた。
レイが今でも鮮明に思い出してしまうのは、星が西の森に降り注ぐあの光景、あのオーロラ。そしてあの──
「あ、なんかびびらせちゃった? ごめんね?」
「いえ、そういうわけでは」
「ふぅん。で、そうだそうだ、こんなのより今受けられるクエストを見せてほしいんだっけ。登録したばかりのあなたは一番下のA級からということになるけど」
「ええ、それで構いません」
少し横道にそれてしまっていた話題を元に戻し、ミオ職員は下を向きながらミラーコンソールをまた指先を慌ただしく、いじりはじめた。
「まぁ、このご時世、魔獣狩りの仕事はあふれているしねぇ、ヤル気になるのもちょっと分かるかも。そうね……あなたが受けられるのは──これとかいいんじゃない? 『ラビの森のアルミラージ狩り。十体狩れれば無条件でC級に昇格可能』──どう?」
「え! 森があるのですか!?」
「ええ!? ええ……森ならここからさらに西にぼーぼーにあるけど! そこ……森に食いつく? どっちかといえばC級に昇格可能の方かと思ったけど?」
ミオ職員がいま両手に持ち見せつけたミラーコンソールに映る森の様相に、レイは前のめりに見入る。いきなり受付カウンターに両手を着き、身を乗り出したレイに、対面していたミオ職員は面を食らってしまった。
▼
▽
鉄製のおぼんに乗せて、歩く。透明グラスにあたる氷の涼し気な音が鳴る。
客人からドリンクのオーダーを承ったベオ・ギルト職員のお出ましだ。
「おーい、お二人さん。ベオ・ギルトさんがたった今特製アイスティーを淹れてきてやったぞー」
「あ、カフェで飲むからいい」
「っておい! この奔放職員、お前なぁ……! ってどこに向かいやがる、まさかレイ・ミラージュもか? (カフェに殴り込みをかけるワケではないよな?)」
呼び声に振り向いたミオ職員は、やっと出てきたベオ職員とそのおぼんに乗せたアイスティーのことを、あっさりと一言であしらう。
しかもベオ職員がアイスティーを運んできたところ、既に女性陣二人は受付付近にはおらず。何やら武装と準備を整えた意気揚々の姿で、ミラー協会の出口付近にその各々の足を向けていた。
「そのへんの森で女子会。あ、そうそう、ベオ・ギルト冷紅茶職員は、勝手について来たらボコすから。──さぁさぁ、行こう! あなたの森が待ってるわ、期待の新人魔獣狩りのレイ・ミラージュさん!」
「ええ、たのしみです! 慧眼職員のミオ・アコットンさん!」
二人が手を振り、いざミラー協会の大戸を開け、外の景色へと消えていく。そんな女子たちの様をおぼん片手に、唖然とベオ職員は眺めるしかなかった。
「おいおい……紅茶を沸かして冷ましてる間に、ずいぶんのけものにされたものだ。……にしても、さっきの今でまた魔獣狩りか、なかなか将来有望だなレイ・ミラージュ候補生。どれどれぇ、向かったクエストの内容はっと、『アルミラージを十体狩れれば──』ってアイツ、もしかして……。おいおい、それはとんだ女子会だな、ミオ・アコットン嫉妬職員」
自分で淹れたアイスティーを、ストローで吸い上げ自分の喉へと通す。ベオ職員は、ミオ職員の物と思われるミラーコンソールを弄り直し、ミオとレイの今発ったクエストの内容を確認した。
「アルミラージを十体狩れればC級に無条件で昇格」そんなクエストであり特別なテストの内容に、見覚えのあるベオ職員は、口元に吹き出し濡れたアイスティーを片手で拭い、不敵に笑った。
果たして兎十体でいきなり飛び級できる、そんな美味い話はあるものなのか。レイ・ミラージュとミオ・アコットン初めましての女子二人は、まだ日の高いうちに、エスティマ国の西部にあるラビの森へと向かっていったのであった────────。
乗って来たミラーボードを殺風景な野に停めて、さっそくお目当てのラビの森の中へと進みゆく二人。そしてそこで、まずはアルミラージの狩り方のチュートリアルを見せてくれると、ミオ職員は言う。レイもミオ職員の所持していたミラーウェポンと、ミオ職員がどのように魔獣アルミラージを狩って見せるというのか非常に興味津々であった。
そして実践、彼女が扱うのはミラーウェポンの弓矢。その威力は鋭く、矢を放つスピードも目にも止まらぬもの。標的のアルミラージを狩るには十分すぎる威力とスピードを誇っていた。
だが、それだけではない。ミラーウェポンは扱われる武器にすぎない。弓を美しく構え矢を巧みに風に流すミオ・アコットンの技量こそ、神髄であるとレイはその次々と射抜き披露された彼女の手本に見て取れたのであった。
「兎が現れたら素早く、射抜く。これだけ、どう? 簡単でしょ?」
「あはは、はい! 先ほどから見事に容易くやってのけているように見えます!」
レイがそう褒め返すと、ミオ職員はそんなレイを横目に、えくぼをつくり──また集中した目つきに変わった。
それからも二人は森を共に進みゆく。チュートリアルと称しミオ職員は次々に兎が〝現れては〟射抜く。これを繰り返すだけだが、レイは途中であることに気付いた。ミオ職員が素晴らしい目と耳の持ち主であると同時に、さっきのえくぼつくる横顔がどこか不敵さをもっていた気がした、そのようにレイの目に見えた、意味を──。
既に矢を指に挟み、弓に番えるその一連の慣れた様に澱みはない。ミオ・アコットンの真剣味を帯び始めた横顔、その真正面に突如、真っ白な光の筋が横切った。
光の筋の通った軌跡を追う。遠くに射抜かれた、魔獣アルミラージの散りゆく魔の欠片と爽快な音が、ミオ職員の目と耳に流れ込む。
「勝負事なら先に言ってください、ふふ……。今ので一体、────数えてもらってもよろしいですか?」
「──!? やっ、やるじゃない……!」
弓に番えていた矢は既に放たれていた。プロトロッドから放ったレイの精度の良い魔光弾と、ミオが弓のミラーウェポンから放った破鏡の矢じりを持つ鋭い矢は、別々の長耳のターゲットを射抜いていた。
ゾクリと、ミオ職員に耳に震え聞こえたのは、冗談めかしてかつ真剣味を帯びたそんな彼女の声。そして不敵に笑うレイ・ミラージュ、彼女のクリーム色のその瞳、その様変わりした横顔。
ミオ・アコットンとレイ・ミラージュ、ラビの森でそれぞれ異なるミラーウェポンを行使する二人の女子。のんびり穏やかな女子会の予定や雰囲気など、もうその二人の間にはない。
阻止するのは煌めく歪な矢じりに乗せた慧眼職員のプライドか、それとも職員の目と耳をも置き去りに貫くのは練り上げた魔光弾、子爵令嬢のあふれる闘志と好奇心、その白き魔力か。
鋭い一矢、一弾を挑戦状だと受け取ったのは、そのどちらも。新人魔獣狩りのC級昇格を賭けたアルミラージ十体狩り、ざわめきはじめた森の気配によく己の目と耳を凝らす。今あるミラーウェポンをそれぞれの手に、様になるよう、素早く撃てるよう、構えてみせる。
刺さりゆく──白い光と、輝く矢、それぞれが互いの心に気を焚べ火をともす。勝負事ならば負けられない、ただで負けてやる道理などどこにもない。容姿も武器も境遇も目の色も異なる女ふたり、そのプライドや譲れない何かを懸けた、ラビの森の中での「アルミラージ早射抜き対決」は始まってしまった。
兎狩り競争はつづいた。いつしか森を駆ける二足と二足。長耳のターゲットを探すその足は速まり、同時に凝らす眼は休めず、振るう白杖に、震える細いミラーの弦。二人の女が、獲物をそれぞれに撃ち抜きながら森の中を器用に駆けてゆく。
木の葉散りゆく、魔獣撃ち抜く、武器を携えた二人の人間のデッドヒート。〝アルミラージ早射抜き対決〟ラビの森を騒がせるその勝負の行方は────────
いつしか駆ける鬱蒼とした景色を、葉を揺らし鳴らし搔き分けた二人の身は、こぼれる前方の光の中へと勢いのまま飛び出して、寝転がっていた。
藤色の花が咲いている。レイとミオは大の字になり、そんな白い花畑の中にいた。垂れ下がることのない藤、そんな地から伸びる美しい、逆さの白藤はガライヤの世でしか見られない。
「はぁはぁ……アルミラージは、そんなに好き?」
そんな咲き誇る花の野の中、いま同じように寝そべった左のお隣さんに、荒げた息を整えながらミオ・アコットンは問う。
「はぁはぁ……ええ、まぁ好きと言われれば、魔獣ですけどそうかもしれません! あの、もしかして」
突然問われた意外な質問に、レイは同じように息を整え答えた。そしてその質問に答えながらもレイは途中で「もしかして」と、あることに気付いた。
「そう、これアルミラージの角が矢尻になってる。こうすると、アルミラージを倒せば矢もすぐに手に入るでしょ?」
「なるほど。即席のミラーウェポンになるのですね! あ、全部不揃い……それであの精度の矢を……!」
ミオは左手にまだ握っていた三本の矢を、レイへと差し出して見せつけた。そして、アルミラージの角である破鏡を矢じりにした特別な矢は、全部それぞれ形に個性があるものだと、それらをまじまじと目にしたレイは見抜いた。
「そうそう。私って魔力がそんなに練り上げて上手く使えないみたいだからさ。代わりにこの矢を使ってるのよ。長らくこれに慣れたもんだから、逆に普通の矢で撃つ方が苦手になっちゃったけどね」
ミオは矢を一本取り、その矢じりを天へと向け、なんの気なしに掲げた。
話しながら天をぼーっと見つめるミオの神妙な様子に、レイは静まりながらも、また問うた。
「そうなのですか……。あのっ、私には! 色々父に習い、ミラーウェポンを一通り試したことはあるのですが、それでも弓と矢は全然上手く使えないものでっ、今度構え方から教えてもらっても?」
「ふふ。そうね……でもそうしたら私はあなたの姉役みたいなものになっちゃうみたいだけど? こんな〝勝手〟な姉に習うのは不服じゃない? それこそベオ・ギルト職員にみんなの案内役、兄役のように付き纏われるより?」
ミオの耳に届いたそんなくすぐったい言葉には、意外な言葉でお返しをする。
「あいにく一人っ子なので! 初めての姉なるものが不服かどうかは是非とも習ってから、こちらが〝勝手〟に決めてみたいと思います! それとえっと、ベオさんは……正直ここだけの話、やっぱり女性の方の方が信頼できるので! はい!」
「あははは、なにそれ!! あはははは!!! まさかあれだけ気遣いのベオ・ギルトより、ミオ・アコットン勝手職員さんの方が信頼できちゃうなんて、あはははっ、レイ・ミラージュC級魔獣狩り、おかしな子ねあんた」
ミオのやわらかく言い放ったちょっぴり意地悪な意外な言葉でのお返しも、白黒髪のお相手にそれよりももっと意外な言葉で返された。
思わず左を振り向いたミオは、視界に映るレイの顔に微笑む黒とクリーム色の瞳に、もうこちらも笑ってしまうしかなく。やがて、堪えきれない大笑いへと化けてしまう。
果たして勝手なのはどちらか。それももう分からない、どちらでもいい。ラビの森を駆けて迷い込んだ、全く違う様相の、美しい逆さ白藤の花畑。そこに漂っていたその甘い仄かな香りも気にならないぐらい、レイとミオはお互いの笑う顔を見て、いつまでも花畑の中を笑いころげあっていた────────。
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