第25話 エスティマの魔獣狩り
その白髪の男はこの街のマップ詳細を全て把握しているとでも言うのか。迷いなくよく走るグレーの制服姿、「ついて来れるかと」煽るようなグレーの帽の手を振る方を、レイは必死に追う。
レイは街路の人を避け、噴水広場を無駄に一周させられて、急に入った狭い裏路地をも駆けてゆく。そしてまた見知らぬ街路へと飛び出して──
「ねぇねぇ、あなた、ベオ・ギルトのあたらしいこいびとさんなのぉ?」
「てか、姉ちゃん足速くね?」
「はぁ?? ってちょっといっぱい!?」
いつしか追いかけっこの途中で現れた子供たち。ませた少女たちの謎の問いかけに、一緒に駆けてゆく元気な少年たち。
レイは突如現れた賑やかな子供たちの集いに困惑し、それに対し振り向き「ごめん」と片手を垂直に立てジェスチャーするベオ・ギルト。しかし彼は止まらず、まだまだ体力テスト、それともそのままミラー協会までの道の案内をする気のようだ。
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子供たちと一緒に駆け抜けて──たどり着いたミラー協会、レイはついにその初めましての門戸を開ける。ミラー協会とは主に魔獣討伐の依頼仕事を斡旋してくれるそんな専門機関だ。
そして、ベオ・ギルトはなんとここの職員だった。レイの目にも入る他の職員と同じグレーの制服を着ている。
制帽をきちんと白髪の上に被り直した男、ベオ・ギルトは受付でレイと机ごしにご対面し、不敵に笑っている。
「どうだ、驚いたかな」
「いえ、うすうすそんな気がして」
「ま、そこも含めてテストだからな。戦うこと以外も優秀なようで何よりだ」
「そんなテストがあるのは初耳ですが……それよりあの子供たちは? ベオ・ギルトという人は人気があり慕われているのですね?」
「あぁ。ガキどもなぁ。慕われていて人気かどうかはおたくさんのご想像にお任せするが、暇なときにあんな風に遊び相手をしてやってるんだ、それで他よりポイントを稼げているんだろうよ。それでさっきのを街を一周するいつもの駆けっこか何かだと勘違いしたようだ、ははは、まぁ大目に見てくれ。──あ、それよりもだ。さっそく本題の登録の方に取り掛かりたいんだが、お名前は──?」
「レイ・ミラージュ」
「ほぉ。いい響きだ。以前のご職業は」
「んー。……一介の菓子売りです」
「考えたな。どんな菓子かは気になるが、まぁ一旦いいさ。じゃあこれが集めた破鏡の取り分の2万2000シモン、登録料を差し引いておいたから抜けてないか確認してくれ。そしてこれが、」
「認証のミラーツール?」
「よく勉強しているな。その通りこれが認証のミラーツールで、今日今を持ってエスティマの【魔獣狩り】としておたくさん、レイ・ミラージュが認められた証だ。これにて、正式にな」
「これが【魔獣狩り】としての、エスティマの……!」
「あぁそうだ。銀の国のエスティマだが、黄色なのはご愛嬌だ。銀色だと他のミラーツールと混同し分かりにくいからな」
受付の机上にて受け渡された、レイがおもむろに手に取った認証のミラーツール。手のひらに置き、眺める。淡い黄色の輝きを放つ特別な証は、ダイヤの形をしている。
レイ・ミラージュがエスティマ国の魔獣狩りとして正式に認められた証だと、彼女の登録を担当したベオ・ギルト職員は誇らしげに言う。
集めた破鏡を売り捌いた報酬この世界ガライヤの紙幣2万2000シモンと、認証のミラーツール。あらたな一歩を踏み出し手に入れた子爵令嬢レイ・ミラージュの冒険は、ここエスティマ国あらたな舞台で、淡くもちいさくも、確かにその輝きを放っている。
レイは手のひらに置き、やがて魔力に反応し浮かんだ、ライトイエローのダイヤの形と輝きを見て微笑う。
同じ目線まで浮かべて、その彼女のもつ黒とクリーム色の珍しい瞳で見つめ、珍しげにいつまでも眺めていた────。
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