第24話 駆けて、体力テスト
ミラーボードの速度を少し緩める──レイの目に目的地の街並みが見えてきた。
「アレがエスティマ……! 随分と絢爛に光らせているんですね。ここからでも目に賑やかです!」
「あぁ、アレか? 外部取り付けのミラーバンたちの輝きだな。それに溜め込んだフォトンパワーで家の灯りや、家具を使うためのエネルギーの大半を賄っているからな。魔力の少ないものでも、あのミラーバンの一枚ほどで生活に必要なエネルギーを扱えるというわけだ」
後ろのベオはエスティマの街並みを見て驚いたレイにそう説明する。ミラーバンとは建造物の外部、屋根などに取りつけた大きな一枚のミラーツールのことだ。天の光を集め内部にフォトンパワーをチャージすることができる。その破鏡を寄せ集めてできた、一枚一枚の個性的な輝きたちがレイたちのことを歓迎しているようだ。
「ミラーはその性質上光を溜め込むことができますし、フォトンパワーと魔力はほぼほぼイコールの関係なのだと父に習いましたが……ここまで一貫性のあるミラーバンを家々に掲げた街並みは、ジラルドでもなかなか拝めません! こうして目に入れ眺めているだけでも、壮観なものですねー!」
「はっは、その通りだ良く勉強しているぞ。まぁ、しかしその分予算はかかるというものだ。だが、ここらを拠点に活動する【ベストミラー社】はそのことに関しては太っ腹でね、実験中であるので願えば格安で取り付けてくれるのだと」
「それはとても素晴らしいことですが、ひょっとしてそのぶん家具のミラーツールなどは?」
「……そういうことだ! ははは将来優秀だな? おたくさんは」
エスティマの街並みと、飾るミラーバンの明かりについての話はそれで程々に切り上げ。ベオは視界端に近付いてきた停留所のある方向を指差し、レイはベオの案内に従い牽引するミラーボードの速度を上げた。
たどり着いた停留所には、ベオの顔パスで円滑に係員にご挨拶しながら入り。二台のミラーボードを指定された区画に止めたレイたちは、さっそく、気になるエスティマの街並みの中へとその足で繰り出した。
エスティマの街中は、少しばかり暑い。外の荒野にいた時よりもレイは暑く感じた。すれ違う人たちの服装も、肌を露出した半袖のものなどを着用した者が多い。
「ここがエスティマ……。ジラルド公国を出て西にある銀の国エスティマ。噂には聞いていましたが、随分洗練されているのですね」
「まぁはげしくミラーツールの恩恵と言ったところか、昔はここまで見目派手ではなかったがな。それと噂ではガライヤの外の魔境の方には、既にこのギンギラの完成したモデルがあるのだとかないのだとか。聞くな」
「ガライヤの外の、魔境……」
「深く知りようのない噂レベルだがな。まぁそんな遠い妄想もほどほどに、しっかりついてこいよ。今度はベオ・ギルトさんがお返しに〝すばやく〟先導してやる」
ベオはそう言い振り返り、左手を上に敬礼をしつつ、被っていたグレーの制帽を外した。そして、まだ慣れぬ街の景色に気を取られていたレイをよそに、彼は駆けだした。
「はい、それはよろし──って!? 根に持っていたのですかー!!」
「ははは、ついでに体力テストだ魔獣狩りの候補生!! まぁちょっとばかしミラーボードで生意気にも酔わされたのは、──持ってるがな!!」
「しっかりついてこい」とは言葉通りの意味だったらしい。突然駆けだした白髪の男の後ろ背を、レイは慌てて追いかけた。
いらずらな笑みとその白い歯を見せ振り返ったベオ・ギルトは、帽を片手に手を振り彼女を誘導する。銀の国エスティマ、たどり着いた最初の冒険の国でまさかの駆けっこが始まる。しまいには「体力テスト」などと宣いだした彼のことを見失わないように、そのテストという名の挑戦を受けて立ったレイ・ミラージュは、街ゆく人の障害物を避けながら、駆ける己の足のスピードを上げた────。
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