第23話 スピードを上げて

「大した腕だな? 破鏡の状態も綺麗だ」


 遭遇したハイエナ魔獣の群れを余さず倒したレイたち。ベオは魔獣を倒した証である破鏡を慣れたように手早く回収しながら、レイが倒した分のその破鏡の状態を自分の物と比べて見て、そうレイのことを褒めた。


「そちらこそ。ずいぶんと慣れているようで? お上手でした」


「はは、どうも。まぁ俺なんて凡才の内だけどな。魔獣にただで噛みつかれないよう日々精進はしているつもりだ」


 確かにミラーウェポンの斧を魔獣相手に臆せず悠々と振り回したその男の姿は、頼もしくも見える。日々精進しているというベオの言葉は冗談めかして言ったわけではなく、多少の自負も含んでいたようだ。


「ええ、見て取れます! ミラーウェポンは武器でありながらその人の精進も怠惰も映す鏡だと、父にそのように習いました」


「はは、いいねぇ。そっちも見て取れるぜ。いい父をお持ちだ、きっと人も物も見る目がある」


 レイは習ってきた父の言葉の一つを借りて言った。ベオは快活に笑い上げながら、両手を余裕げに広げ、レイもついでに彼女の父のことも含めて褒め返す。


 レイとベオは互いの雰囲気が伝染したように笑い合い、破鏡の回収を手伝っていた青蛸のブルーパスも触腕を叩きよろこんでいた──。





「エスティマには、なにか用で?」


「とりあえず【魔獣狩り】として、これからの旅の資金を稼ぎたくて」


「あぁー、【魔獣狩り】かー。そりゃ引く手数多だな。じゃ、エスティマの魔獣狩りとして登録するために【ミラー協会】の施設にまずは向かう感じか」


「ええ。そうなりますね」


 【魔獣狩り】その名の通り魔獣を狩り破鏡を集めることを生業とする者。レイはジラルド公国ではミラー協会を通してはいない。集めた破鏡の取引は、マジックミラー商会のトップである父がどうにか融通してくれていたからだ。商会との直接過ぎるパイプを持っているがため、そのような間を隔てる許可や登録の必要もなかったのだ。


 だがしかし、ジラルド公国領を飛び出し訪れる予定のエスティマ国ではそうはいかない。依頼などを斡旋してくれるミラー協会で、魔獣狩りとして正式に登録する必要があった。


 父の力はなるべく今は借りずに、レイは自分の手で当面の旅の資金をかき集めるため、エスティマ国のミラー協会なる施設でのこの登録はマストなのだ。あふれる冒険の予定や中身はまだまだ空白だらけだが、そのことだけはレイは頭から決めていた。


「そいつは偉いことだ。じゃあ、助けてくれたよしみで、ミラーボードで停留所に着いたらそこまでスムーズに案内してやるよ」


「え、よろしいんですか?」


「未登録だとレートが違うだろ。それ、ついでに、いっしょのお使い扱いにしてやるよ。名案だろ? ははは」


「なるほど……! って、できるのですか?」


「バレなきゃいいのよ。おたくさんレイ・ミラージュと男ベオ・ギルトさんが、二人で魔獣を狩ったこの事実は変わらねぇ。それとだ、──あまり品行方正を求めすぎるとここエスティマじゃ、笑われて食われちまうぜ。ご忠告ってほどでもないが、ははは」


「なる……ほど、あはは」


 とんとん拍子で話は進んだ。レイは魔獣狩りとしての登録を。そして収納用のミラーツール内に回収した破鏡を、既にミラー協会からの依頼を遂行中であったベオに適正価格で売りさばいてもらう。一石二鳥の名案で、レイが首を縦に頷きまとまった。


 牽引し共に走る二台のミラーボードは、もう彼方にそろそろと見えてきたエスティマ国の遠く賑わう街並みを、目指した。


 旅は道連れ世は情け。かけた情けはいずれ己に返ってくる。レイはそんな旅の醍醐味を今日はもう、あふれる程に感じている。受け取っている。


 レイ・ミラージュは思わず、込める魔力とスピードをぐっと上げた。ぐらついたミラーボードを姿勢制御し乗りこなす後ろのベオ・ギルトは、「そんなもんか?」と不敵に笑い、誘った。


 耳に入るのは風の音と、前と後ろに呼応し合う大声だけ、


 二台のミラーボードは、そのスピードを緩めることなく、ドライブ感を全身に浴びながら、広大な荒野を一直線に突っ切っていった────。

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