第14話 赤く染めて
日が沈みかけていた。夕暮れの光は、西方の森を妖しく赤々と染め上げていく。
そんな森の中、陽の光すら遮るほどに植生の葉が芽吹き並ぶ、暗い鬱蒼の中に、静かな息遣いが潜み蠢いた──
四方の樹木に植え付けるように刺していたその小さな輝きを回収した黒ローブの者は、生い茂り囲う自然の中を歩いていく。そして、ブツを回収し終えると、そこだけ天が口をぽっかりと空け広げたような、不自然に開けた野に出た。
黒ローブは開けた野を右往左往しながら、シャベルを片手に地に引きずる。やがて、その足を止めた。何かを探知したのか、止めた足元の土を手持ちのシャベルでせっせと掘り返していく。
一心不乱に深く掘り返していく、作業中のシャベルに硬い感触が跳ね返った。
黒ローブはおもむろにソレを手に拾い上げる。地中に埋まるひとつのカケラを見つけたが、どうも違う。手で土汚れを払い落とすが、やはり違う。黒ローブの者が探していたのはこんなペンダント状のミラーツールのような物ではない。
『こんな時間にお探し物ですか』
そんなとき、突然聞こえてきた声に驚き黒ローブの者は振り返る。
すると、緑草木の中からゆっくりと歩き現れた、深緑のフードを被る何奴かが、黒ローブの者が振り向いたそこにいた。
そして、深緑のフードの者はおもむろに懐から取り出したキラリと光る「破鏡の欠片」を、見せつけて、それを前方の地に放り捨てた。
柔らかな放物線で捨てられたその破鏡の欠片は、対面する二人の間のあやふやな位置に置かれた。
深緑のフードの者は帯剣している左腰の剣に手をつける様子はない。ただ先ほど鏡を柔く投げたその右手を、そのまま前へと差し出し、どうぞとばかりにジェスチャーをしている。
そんな怪しい深緑のフードの者の動向に、黙して睨む黒ローブは、手持つシャベルの取手を素早く捻った。
そして黒ローブの者が手にするシャベル、その土を掘り起こす平らな鉄製のブレード部は、地に落ち──秘されていた一つのミラーウェポンへと様変わりする。
光輝く魔力を既に帯びた杖の先端部が、前方へと狙いを付けて、その煌々と熱量を上げた威力がまっすぐに放たれた。
ただの土を掘り起こすシャベルが、隠され仕込まれていた杖のミラーウェポンへと化ける。そんな武器が容赦も躊躇いもなく、怪しい者へと突然殺気を向け行使された。
深緑のシルエットへと向けて不意打ち気味に放たれた魔光弾は、三発の穴を、──後ろの樹木の幹へと刻み込んだ。
当然、狙いは後ろの樹などではない。仕留め損ねた──そして一瞬に見失った。依然杖を構えたまま辺りを警戒し、今視界に見失った敵を探す黒ローブの者は、首をぐるりとせわしく左右に振り、見開いた目を巡らす。
そして同時に集中し凝らしていた耳に聞こえた、素速い葉のざわめきに、黒ローブの者は反射的に振り返りその杖に溜めた光を乱れ撃ち放った。
だが振り返る黒ローブの目によぎったのは、ただの棒切れ、いや、宙を回転し活き活きと誘うように舞うただの剣の鞘だった。
「この世界は、ラーミラ教の説く教えでも救えない大人はごまんといるな。──すこし、この剣で……綺麗にしておこう」
中途から切り口鋭く、真っ二つになった杖が、地に二つ無情にも転げ落ちる。
どさりと音立て横たわる黒ローブの力尽きた姿を確認し、血濡れた剣を地に払う。やがて、おもむろにその翳る陰鬱なフードを下ろした。
一仕事を終えたオレンジの髪が、天から射し込む赤い陽光にただただ染まる。
目一杯、高々と伸び、森の中の開放感あふれる野で、荒れ吹く風とともに深呼吸をしながら。
オレンジ髪の男はゆっくりと目を瞑った。できた目の前の暗がりが赤く透ける。眩しいそこに、今日の一連の出来事を、思い馳せてみる。
剣を片手に握りしめながら、見上げる天に、リンド・アルケインは柔らかな笑みをつくった────。
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