第6話 大地震えて

 争い合っていたように見えたプロレスを今やめ、二人揃って睨み言う「「でだ」」とは一体。これ以上勝手に来て勝手をして、この森でその男たちは何をしでかそうと言うのか。騎士と魔術師の影が一歩一歩確実に迫り近付き、レイ・ミラージュは息を飲む。


 杖を構えるか否か、口から今何と言って制すか、無言で近づく二人の男の歩みを止める術を考えるが纏まらない。レイはプロトロッドを頼りに両手に握りながら、もう一度息を飲んだ。


 そんなとき────レイの握るそのミラーウェポンが微かに震えた。そして突然、左右、周辺をきょろきょろと覗きだしたそんな彼女の様子に、騎士と魔術師二人も歩みを止めた。


「なに? 震えている? 敵?」


「下だ! 震えているのはお前の立つその大地だ」


「キミ、こっちだ!! 急いで!!」


 段々と大きくなる震動は白杖から伝っているのではない。揺れ動きだしたレイの足元を魔術師は指差し指摘し、騎士は大きく手で合図し、彼女も早くその場からこちら側へ退避するように促す。


 危機を感じ取ったレイは揺れる地を素早く走った。魔術師と騎士も同じく走り退避していく、震動だけにとどまらずゆっくりと天に膨らみ、曲がり、盛り上がる騒がしい大地を────



「こっ……これは?」


「なんかおかしいっと思っていたら、あ、もしかして、これってこの森が相手ってことで合ってますか?」


「今までの切り株や兎の大木などは凶兆に過ぎん。大型の破鏡が地に眠っていたんだろう。それが地を揺るがし地を背負う魔獣となり示現したということだ」


「ははは……それ先に言ってくれるわけには、得意の占いで」


「馬鹿げた話を馬鹿に話せるか」


「はは、たしかに。──で、逃げます? 今なら間に合いそうですよ」


「周りを見ろ、既にここはヤツの破鏡の中だ。お前がこの森が相手だとのたまったようにな」


 土の流れる斜面曲面を走り抜けて振り返り、三人の人間たちが今見上げ、見つめるのは────聳え立つ深緑の森の煌煌たる姿。


 そのもの、八足で地を踏み鳴らし、踏み鳴らした地に水晶の花が鮮やかに咲いていく。


 そのもの、その森ごとを大きな大きなクリスタルの甲羅に背負い、透けて見える根の迷宮の始点から、幹、枝葉に至るまで、全てを、輝かしく硬いもっと素晴らしい緑の景色へと変貌させてゆく。


 大きく聳え立ち顕れたのはまるで大地そのもの、この森の守護者【クリスタルタートル】。


 暗色にくすんでいた周辺の景色さえない色合いの草葉さえも、キラキラと眩しい進化と硬化を促す。


 ジラルドの宮廷魔術師とミラーナイツの末席が確かめ合うように語る話を、レイ・ミラージュは理解できない、追いつかない。だが、不穏に染まる周りの景色を今一度見渡しながら、見上げる巨体の圧に呑まれないように、彼女はプロトロッドをただ──ぎゅっと強く握りしめていた。


「破鏡のっっ、中……!!」


 ここはもう「破鏡の中」。地深くからゆっくりと姿を現した超巨大魔獣、首無しのクリスタルタートルは、のうのうとその背を足蹴にしていた人間たちへと、今、唸り響くような産声を天まで震わせ轟かせた────────。

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