ハッカー国家【霧島】 ~俺らが世界から争いを無くす~
夕日ゆうや
第1話 バベルの塔
「バベルの塔、その計画立案書か……」
一瞬躊躇ったが、すぐにそのデータをダウンロードする。
3ペタバイトのハードディスクが埋め尽くされていく。
「うへー。これってマジやばい情報じゃない?
「
「はいはい。分かっているわよ。ホント可愛げがない……」
ぶつくさと文句を垂れている鳴瀬
俺は可愛げがないらしい。
女じゃないのだから、いらないが。
《竜王になった将棋棋士、一ノ
ニュースが拍手喝采している間、鳴瀬がネットの海を泳いでいる。
「あれ。このサイト、すごくまとまっている……」
「どれ見せてみろ」
鳴瀬の言葉を聞き、俺はそのサイトを取り込む。
「これは……」
俺はそのサイト《ジッグラト》のデータ配列を読み取る。
「もしかしてバベルの塔、関連?」
鳴瀬が疑問に思ったのか、怪訝な顔を向けてくる。
「ああ。でもなんでこんなところに」
誰でも読めるサイトに軍事機密がアップされているなんて、どう考えてもおかしい。
警告音が鳴り響く。
「マズい。ネット回線をカット。緊急離脱だ」
俺は鳴瀬にそう告げると、ノートパソコン一台とフラッシュメモリだけを持ち出す。
「待ってよ、もう」
鳴瀬も最低限の持ち物を持ち、家から出る。
第二施設に向かってオートマチック・カーに乗り込む。
自動運転で目的地に進む自動車だ。
五年前に今までの人類の叡智を利用した最先端AIを搭載した最新モデルの車『イエーガー』だ。
イエーガーモデルは量産化とコストダウンに成功し、公共交通機関の代役として世界に売れている。
その製造に関わったAIや流動性金属、無人製造機、3Dプリンターといった様々な知識、技術が投入された結果といえよう。
▽▼▽
オレはパソコンのモニターにかじりつく。
「やった。奴らオレらのアンチハッキングシステムにかかった」
「しかし彼らは何を考えているのでしょう?」
「うーん。シン・アラスカの軍事ネットワーク干渉に、宇宙工学学会へのハッキング。今度はAI事変への捜索」
まとまりがない。
なさすぎる。
軍事ネットワークに干渉していることから、ひどく危険な匂いはする。
彼らのコードネームは【
ネットワーク犯罪組織【霧島】はかなりの規模で動いていることはハッキリしている。
【霧島】は九十名を超えた犯罪組織だ。
オレらにお鉢が回ってきたのも、軍事関係の仕事だからだ。
「けど、
「なんか言ったか?
オレはぎょろっとした目で町田を睨む。
「いえ。なんでも。しかしいつも通り怖いですね。先輩のその三白眼」
「うっせー」
オレはぶすっとぶっきら棒に返す。
パソコンにデータを入力し、AI分析を行う。
「それにしても、次はどこを狙うのでしょう? 早く見つけないと、何をするか分からないですよね?」
「ああ。システムトラップを踏んだ。これで奴らの位置は把握できる」
地図上に浮かんだ光点は仙台市泉区のとあるアパートだ。
情報化社会が進んだこのご時世、仕事はどこでもできる。
東北など、少し前までは過疎地域なんて言われていたが、今は違う。
安い土地代、引きこもっていても問題ない社会が彼らの移住を許した。
雪の閉ざす世界でも、物価の安い地域は売れるのだ。
やはり世の中金だ。
オレはそう結論づけると、パソコンから離れる。
「よし。町田こい」
「はい。やる気になった中田先輩格好いい」
「町田。それはセクハラだぞ」
「すみません!」
恭しく敬礼をする町田。
「でも褒めているのに、セクハラなんですね」
「まあ、想起させるから、かな?」
オレもイマイチ分かっていないけどな。
一応マニュアルには書いてある。
「しかし【霧島】の連中は何を考えているのですかね?」
「知らんよ。でも奴らがこの軍事国家を揺るがそうとしているのは明確だ」
彼らの情報網は多岐にわたる。
ハッキングをしているが、実害は今のところ出ていない。
だがセキュリティの高い軍事衛星に至るまで、ハッキングをしている。
この危険制は容認できない。
だからこそオレら【対霧島専門部署】は彼らを捕らえる。
核保有国であるアメダイヤへのアクセスも確認できている。
軍事衛星へのアクセスも確認できている。
彼らは軍事関係に強い興味を示しているといっても過言ではないだろう。
それに対してこちらは大した防衛もできていない。
何をする気なのかは知らないが、オレらの行動は国家を守るために働いている。
こんな脅威を見過ごす訳にはいかない。
この汚染された細胞を自浄するにはオレらが頑張るしかない。
「さて。次のトラップを仕掛けるぞ」
「はい。次はローランへのシステムトラップを仕掛けます」
「それもいいが――」
オレは町田に次の作戦内容を知らせる。
町田はその内容に驚いたのか、目を見開く。
「それ、って大丈夫ですか?」
「ああ。オレら日本人が止めるんだ。あいつらを」
オレは覚悟を決めた顔で応じる。
「……分かりました。このまま日本人が犯罪に手を染めれば、シン・ニホンの地位も下がる。看過できません」
町田も納得したような顔を浮かべる。
「ああ。けど、首相が許してくれるかどうかは……」
深刻になっていたオレの顔に向けて町田はネコ騙しをしてくる。
「なんとかなります。自分は先輩を信じているので」
なんともいえない笑顔を見せる町田。
「あー。そうだな。オレが通してみせる」
この計画に奴らが引っかかればいいが。
とはいえ【霧島】が何を考えているのかは分からない。
慎重にならざる終えない。
世界中の中でもセキュリティの高いアメダイヤへもアクセスできていたのだ。
これは許しがたい事実である。
オレらが止めなくてはシン・ニホンの威厳が保てない。
アメダイヤに依存したシン・ニホンだが、いつかは独立を果たす時がくるのだろうか。
それとも敗戦国として衰退していくばかりだろうか。
戦争はもう起きないだろうが、人は争いを止められない。
だから小さな反社を潰していくしかない。
犯罪集団の【霧島】にも言えることだ。
敗戦国ではあるものの、オレたちはここで生きている。
これから先、何が待ち受けているかは分からない。
けど、彼らを止められるのはオレらしかいないのだ。
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