欲望とミメーシス

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第1話 通勤時間

かの偉人は言った。欲望は他人の模倣である、と。

ならきっとこの気持ちも誰かの模倣なのだろうか。


「金がねえなぁ。」

ガタガタ揺れる乗合馬車の上。

ミメーシスは木の板を張っただけの椅子に座り、尻の痛みをごまかすように干し肉に齧りつきながら愚痴をこぼす。


「毎日職場と家の往復しかしてねえし、これといって趣味もねえしなぁ。

はあ、仕事辞めたい。でも貯金もねえしなぁ。」

この男、ミメーシスは魔法陣作製家をやっている。

魔法が個人に依存する時代は終わりを告げ、魔力さえあれば誰でも使える魔法具は今や人々の生活に欠かせないものとなった。

魔法具には期待する魔法を発現させる魔法陣が書き込まれる。

それを生業とする職業が魔法陣作製家であり、今最も需要が高く人気の職業となっている。


しかし、人の世は常。光あれば闇もあり。

魔法陣業界は専門の学問を修める必要も無く、他業種からの転職も多い業界ゆえに人材や企業も混合玉石。


「悩んでも仕方ないし、明日も仕事。とりあえず帰りに酒場で一杯飲んで帰るかぁ。」

この男ミメーシスはその下層、3次下請け企業に勤めるしがない凡夫であった。

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