第9話 この人がいなきゃ、俺は──



 


 日常が、神崎色に染まっていく。


 


 スマホのスケジュールは、神崎が自動で同期させている。


 冷蔵庫の中身も、洗濯物も、果ては体調まで彼が管理していた。


 


 まるで、俺の生活が「一条凛ver.2.0」にアップデートされたみたいだった。


 


 ──はずなのに。


 


 ある朝、目が覚めた瞬間に、神崎が隣にいたことに気づいた。


「おはようございます」


「えっ!?!? いつからいたの!?」


「深夜3時から。寝息の音に乱れがあったので、気になって」


「乱れ!? てか、家入ってくんなよ!!」


 


 どんな感情で怒ればいいのか、もはやわからなかった。


 怒ってるのに、顔が熱くなるのはなぜだ。


 怖いのに、どこか安心してるのは、どうしてだ。


 


「……俺、やばいよな」


 夜、ベッドでひとりつぶやいたその声は、誰にも届かない。


 でも俺は、はっきりとわかっていた。


 


 神崎さんがいないと、今の俺は、生活できない。


 いや、それだけじゃない。


 


「……あの人がいないと、俺……空っぽなんじゃね?」

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