第8話 思考

目が覚めるとそこは自分の部屋だった。


 服もいつもの寝巻に着替えてる……。

 車で寝てからの記憶がない。ってことは先生が担いでくれたのか……。

 起き上がると、横の勉強机に書留があった。


――――――――――――――――――――

 

 おはよう。体はどうだ?

 心曰く何も問題はないらしいが、体が重いとか、頭が痛いとかあればすぐに連絡くれ。

 着ていた服に関しては血が沁み込んでたから、勝手にクリーニングに出しておいた。

 破けた部分とかも直してくれるから、その間は置いておいた新品を使ってくれ。

 

 もし体調悪いなら学校も休んでいいからな。とにかく、無理すんな。

 

――――――――――――――――――――


 体を軽く動かして、関節とか痛みがないかを確かめた。

「特になし……大丈、夫かな」

 いつものように身支度を始める。

 タオルや水筒をバックに詰め、忘れ物がないかの確認。それが終わってからシャワーを浴びて…………なんだろう、重い。

 顔を洗うと、洗面台に映る自分と目が合った。

 

 鏡には昨日の巡回が浮かび上がる。

 目の前で彼女が行った行為。腕や腹にくらった重い一撃……。傷なんてないのに……思い出すと今でも痛い感じがする。

 怖い……のかな。彼女がわからない。

 また巡回とかで同じ事が起こったら、昨日みたいに上手くいくか?

 次は彼女だって対策を練るはず………………だとしたら、俺に出来ることは…………。

 考えるのはやめよう。

 

 制服に着替えて最後の持ち物チェックをする。

「水筒よし、タオルよし、鍵に、スマホに……財布よし」

 バックを背負い部屋を後にする。

 しかし、玄関に立つと足が止まった。

 きっと彼女は教室にいる。入った時にどんな目をされるだろうか。また昨日みたいに……。

 また考えてしまった。ドアノブに置いた手が一切動かない。

 ………………。

 途端にスマホが鳴る。

 エ!?

 慌ててスマホを開くと、ホーム画面には『最近のトピック』っという文字。

 「…………なんだ、通知か……」

 本来小さいはずのアプリの通知が爆音に聞こえるなんてな……。あまりにも思考が前のめりになってたんだ。

 通知内容は、デパートでの爆破予告、犯人逮捕。というのも。

 朝から物騒だな…………。

 まぁでも、ドアノブは簡単に回せた。外は明るくって日差しが暑い。春だというのに、地球温暖化が実感できる。


 通学路の雰囲気も、正門の雰囲気も全部が普通。いつも通り。何も変わってない。

 だからか、少し気が楽だ。

 

 教室の扉はなんだかんだ、簡単に開けられた。

 恐る恐る視線を上げると…………。

 彼女は居なかった。

 はぁ……

 ため息が出てしまう。

「体は大丈夫か?」

「うわあああああ!!」

 いきなり真後ろから話しかけられ、つい大声が出てしまった。

 振り返ると、目を丸くし、心臓を抑える先生がそこには居た。

「びっっくりしたぁ……なんだよ」

「す、すみません。つい……」

 先生は俺を教室の中に入れて扉を閉じる。

「で、体は?」

 教卓に名簿とタブレットを置いて話を続けた。

「ああっと、特には問題ないです……。元気いっぱいです!」

 席にバックを置いて、両腕の力こぶを強調するポーズを取る。

 先生は目線をずらして少し笑う。

「そうか……。まぁあまり無理すんなよ?」

「はい……」

 隠してしまった……。先生ならどうするだろう。師走さんの様な人と――――教室の扉が開く。

「…………」

 師走心だ。

 彼女は俺たちなんか見向きもせず、自分の席に座った。

 足を組み、片手にはスマホ。相変わらず動画を見始める。

 そんな彼女を注意せず、先生は仕切り直して、

「おはようみんな。出席を取るぞ」

 ホームルームを始めた。

 

 それぞれ、といっても二人しかいないが……名前を呼ばれた後で返事をする。

 しかし、出席を取り終わったというのに、先生は何も話さない。

 手元の資料を見たまま、固まっている。

「先生?」

 声を掛けると、表情を隠す様に口を手で覆いながら話始めた。

「レンには悪いんだがな……。その……、今日の夜任務が入ってる」

 それを聞いた瞬間、体が硬直した。

「内容は、犯人が逃亡するであろうルートの監視と対処。お世辞にも軽い仕事ではない」

「生け捕りか?逃走ルートがわかってるなら、待ち伏せなんかせずに詰めればいいだろ」

 机を広々と使い、足を組む師走さんは即答した。

「うちのクラスは、やると決まったわけじゃない」

 うちのクラスは…………つまり他のクラスは参加するのか……。他クラスとの合同任務……か……。

 失敗できない。大掛かりな任務ってことなのかな……。

「レン。昨日の事もある。無理はしなくていいんだぞ?」

「僕は……」

 ふと視界に師走さんが入る。

 体調は万全だ。任務自体は受けられる。

 でももし、彼女昨日みたいにめちゃくちゃなことをして、場を混乱させたら?

 抑えようとして、危険な目に合うのは俺だ。

 そうだ、任務から降りても、他のクラスの人たちが上手い事やってくれる。

 俺がやらなくてもいい。

 彼女がバディなら仕方ない。

 ………………。

 彼女に勝てる人なんて白井先生くらいだし、俺なんかじゃ勝てない……。抑えられないんだよ。

 ――――――でも違う。何かが違う。

 俺は、危険に晒されてくないのか?――――違う。

 俺は彼女に勝ちたいのか?――――違う。


 俺は――――


「やります」

 先生は俺の顔を見た後で、心配そうな表情を浮かべた。

「いいのか?」

 そりゃそうだよな。でも、

「……はい」

「そうか…………」

 先生はペンを取って、ホワイトボードに簡易的な地図を書いた。

「おし、じゃあ内容を説明する」

 倉庫と書かれた四角の図形、そして四方に分かれる管。

「基本的には俺たち大人陣営が薬の保管場所兼、奴らのアジトを抑える。レンたち学生陣営は逃走ルートを抑える役だ」

 どうやら管は逃走ルートらしい。

 結構重要だよなコレ。学生にやらせていいのか……。

「逃走してくる奴は大体目星がついている。強化系統の能力者、篠ケ谷。透明化の能力者、川崎。変身系統の能力者、深見。この三人だ。それぞれは今回の首謀者だと思われている。そして再度ばら撒くために薬の元となる植物を持っているはずだ」

 先生は教卓を離れ、俺たちの席に資料を置いていく。

 置かれた資料を開くと、犯人の情報が細かく書かれていて、さらに用語の解説や、彼らの弱点も記載されていた。

 対峙した際の立ち回りに、注意すべき行動まで……。 

「今回の様な未成年犯罪集団はエリアDではよく目撃されている。こういった集団を別名……心?なんて言うんだ?」

「カラーギャング」

 彼女は資料に目を通さずにスマホだけを見ながらサラりと答える。

「正解。まぁ俺たちの世代からは暴走族なんて呼ばれ方もしてたな。昨今、エリアDでは頻繁に聞くからな。覚えておいて損はないぞ」

 授業みたいに豆知識も交えながら任務内容を説明された。

 毎回思うけど不謹慎だよねコレ。まぁでもわかりやすいし、先生も実践以上の経験はないってよく言ってる……。

 けど……軍的には良いのだろうか。……毎回疑問に思う。

 

 ホームルーム後も、二時限分の時間を使い、会議という名の授業が進んでいった。

「大体の説明は終わったけど、何か質問ある者!」

 わからなかったところは特にないし、現地でもう一度集まるみたいだから本当にない。

「特には、ないです」

 先生は師走さんの方を見るが、当然の如くスマホのみを見ている。

「なにか気になったことがあれば――――」

 二限の終わりを知らせる鐘が鳴った。

「ちょうどいいな。まぁまた何かあれば、昼までなら学校にいるし、過ぎても連絡くれれば対応するからな」

 背筋を伸ばし、手を叩き終わりの合図を出す。

「はい!以上終わり!」

 

 掛け声が反響し終わる間もなく、師走さんは挨拶もなしに教室を出て行った。

 俺も食堂に行ってご飯を食べようかと思ったが、先生に呼び止められる。

「レン。ちょっと……」

 手招きされたが、呼ばれた理由は分からない。

 体調のことだろうか。やっぱり心配させてしまっているのか。

「なん……ですか?」

「レン…………心とはどうだ?」

 資料を片付けながら横顔には、少し不安が見える。

「あー、正直な話……上手くやっていけなそうな気は、してます」

「そうか……なら俺の方から上の方に――――」

「でも、だからこそ、僕は上手くやっていける方法を探します」

 ちょっとした沈黙が起こった。

 俺の発言、おかしかったか?

「あの……変……ですか?」

 耐え兼ねて直接質問する。

 直後、先生は吹き出した。

「ッ……アハハハハハ!いや、ごめんごめん、でもそうだよな。お前はそれでいいよ。あー……」

 教卓に手を置いて笑う体を支えている先生。いくら変でも、そんなに笑わんでもいいだろうに。

「ああもう。用がないなら、もういいですか?早くご飯食べに行かないとなので……」

 なんか、笑われる為に呼ばれたと思うと腹立ってきた。

 背を向けて扉に向かう。すると、

「まてまて!少しはレンの役に立つ事、教えてやるから。ああ、笑った笑った……」

 笑いながら言われても説得力がない。心配させたなぁとか思って損した。

「メールは見たか?」

 メール?来てたか?そんなの……。

「その様子だと見てないな。まぁいい、今説明する」

「はははぁー、すみません……」

 スマホを開くと確かにメッセージアプリのアイコンに1ってマークがついている。

 多分だが、朝のニュース記事を見た時、同時に通知を消えてしまったんだ。

 先生の説明に耳を立てながら、送られてきたメッセージを開く。

「昨日の件は、レンと心で無事解決した。と、そう軍に報告してある」

 メールの内容にも同じように書かれていた。そして下には条件の文字。

「虚偽報告を餌に、心と取引をした。レンの許可なしで能力を使用しない事、無暗に人を傷つけない事」

「あ、あのー……あの人がこれ守りますかねぇ…………」

「多分だが、守ると思うぞ」

 平然と言ってのけた。

「いや、でも口約束ですよね……」

 彼女がただの口約束を律儀に守るとは思えない。どうせすぐに忘れたとか言って破りそうだし、指摘しても言い訳をしそうだ。

「まぁこればっかりは、任務に行ってみないと分からんがな……。でもレンなら……」

 資料を机の上で叩いて揃える。

 先生はなぜか余裕の表情……。なぜそこまで余裕があるんだ……。

 不安要素しかない。

「あー、あと、心の能力の事だが、首輪にロックが掛かってる。だから基本的には使えないんだよ。昨日解除されたのはレンが怪我をしたから……一定以上の血を流せば脈や脳波を検知して、バディである心の首輪のロックも解除される。覚えておいてくれ」

「…………そのことなんですが」

 聞いて良いのだろうか。

「師走さんって……司法取引……的な……」

 ……聞いてしまった。

 先生は俺の目を見て答えた。

「ああ……そうだ」

 いつもとは違う落ち着いた声。

 隠していたのは事情があったから?それとも…………

「黙ってて、すまない。…………気が付いてたか」

「はい……確信はなかったですが……」

「もし、レンが嫌なら……この件は俺が引き継ぐ。新しいバディもこっちで見つけるし、無理してやることじゃない」

「いえ!大丈夫です。やれるとこまでやります」

 人を助ける為に俺はここにいる。

 彼女に何の前科があるのかは、わからない。

 でも、

「できれば、師走さんも助けたいんですよね……」

 また、子供じみた考えで少し照れくさい。

 顔を下げて、今の発言の言い訳を探した。

「別にあの人って助けとかいらないかもですけど……でも、なんかああいう人を見なかったことにするって……見捨てるのが正しい……みたいな?見捨てて当たり前、みたいな、そんな価値観になりそうで……。何が言いたいんでしょうね。あははは」

 ああダメだ。思ったことを言っていくと恥ずかしさが悪化する。

 恐る恐る先生の顔を覗くと……笑ってた。

 でもバカにするような笑いじゃない。優しい表情。

 頭に手を置かれて、髪の毛をくしゃくしゃにされる。

「お前はそれでいい………………俺みたいになるな」

 先生は資料を抱えて扉の方へ歩いた。

「まぁでも、無理は禁物だからな。夜、気を付けてな」

「は、はい」

 夜の不安はあるが、先生のくれた取引。約束を守られるならどうやって活用すればいいんだろう。

 ん?なんで呼ばれたんだっけ?


 

 食堂へ向かい俺は走っていた。

 先生と立ち話で時間を使ってしまっている。

 食事の後、仮眠室である程度睡眠を取らないとなのに……。時間の使い方下手くそ過ぎだ……。

 食堂に着くと見知った顔が食器を受け取っている。

「あ、睦月君じゃん!」

「おお!睦月じゃん!睦月も任務なん?」

 大声で呼ばれてしまった。

 でもそこまで気にならない。食堂には今回の任務に行く人しか居ない。つまり、俺と工藤さん、五十嵐君の三人……。まだいた。

 受け取り口近く、手前の席でご飯を食べている強面の生徒が二人。すごい睨まれてる……。

「どうもぉ……」

 流石に小声で反応しておこう。

 工藤さん達は奥の方、学校では有名な特等席に座る。すぐ横にガラス張りで綺麗に手入れされた木がある。太陽の光が差し込んでいて、自然の光と蛍光灯の光が両方当たる席だ。

 目立つし、夏場熱いし、木興味ないし、個人的には特別好きな席ではない。しかし呼ばれてしまった。

 手も振られて、めっちゃ見られてる。

「睦月もこっちで食おうぜ!!」

 またもや大声で声を掛けてきた。

 ッチ……

 受け取り口手前から舌打ちも聞こえてきた。

 こういう時音源は見ないようにしている。でも背中で敵意はビシビシと感じる。

 しかしそんな中、受け取り口からおばさんが笑顔でご飯を提供してくれた。

「お仕事頑張ってね!ソレ、今日おまけ」

 ゼリーがある!!

 今日はラーメンと半ライス、それとデザートのショートケーキだ。もちろんゼリーは頼んでない。

「いいんですか!?」

「夜、大変な仕事あるんだろう?それくらいしか応援できないからね。よかったら食べて!」

「あああ!ありがとうございます!」

 こういうのが人を幸せにするんだよ。カップゼリーを見つめながら、この幸せに浸っていた。


 手前からくる敵意なんてなんのその。彼らを避けて、工藤さん達の席とは真逆の方へ歩き、特大の遠回りで目的に到着した。

「なんだよその遠回りは」

 笑いながらツッコミを入れる五十嵐君。

 そのツッコミを愛想笑いで返すしかなかった。俺は彼らとは違うのだから。

 目立つことは嫌いだし、成績も優秀ってわけでもない。自分に誇れるものがないのに、何を盾に堂々とすればいいのか……。あるのは顔の3分1を占める火傷の跡だけだ。

 仲良くしてくれるのはとても有難いし、これからも良い関係ではいたい。でも、周りの視線とか、特に任務や成績の話にはついていけない。

「そうそう。先週もこんな感じの任務があってさ。でもその時は事前に知らされてたから準備出来たんだけど――――」

 五十嵐君が食べながら、フォークを向けて文句を言う。

「先月の任務なんてね――――――」

 それに続いて工藤さんも軍に対しての愚痴を言い始めた。

 俺が知ってる任務なんか、先生と行った地域の警備や犯人確保とか、その数回だけ。彼らの愚痴も、なんだか自慢に聞こえてくる。

 ラーメンをすすりながら相槌を適当にして過ごしていると、

「聞いてる?」

 麺が器官に触れ、むせ返る。

「オゴ……ゴホッゴホ!」

「ちょっと大丈夫!?」

 工藤さんが立ち上がり食堂に設置されているティッシュを渡してくれた。

「だ、だいじょうび……大丈夫です」

 一歩間違えば鼻からラーメンが出ていたかもしれない。そのくらいむせた。

 でも、咳込んだお陰で話を聞いていなかったことが誤魔化せた。

「ご、ごめん。でさ、なんの話でしたっけ?」

「あ、だから、睦月君のバディだよ。今回二班ずつに別れて行動でしょ?あの子ってどうなの?」

「どうっていわれても……ねぇ……」

 俺たちが足を引っ張る。それだけは確定してる気がする……。

「まぁいいんじゃね。俺と香奈がその分頑張れば」

「あははは…………アリガトウゴザイマス」

 本当にご迷惑をお掛けします。

 そんなのんきな会話をしていたら、食堂の奥から大きな椅子を引く大きな音がした。

 こちらの会話はその音で途切れた。

 音源は受け渡し口近くに座っていた、ガタイのいい二人組。どうやらわざと音を立てたらしい。

 そのまま強面の二人は食べ終わった食器を戻し食堂を後にしたが、彼らは終始、こちらを睨んでいた。

「毎回疲れないのかね、あいつら」

 五十嵐君は片手で頬杖をつきながら、抜けた声で話す。

「あれだろ、自分たちが一番厳しい訓練を受けてる優等生。なんて言い張ってんだろ?俺たちが本当の軍人だ~みたいな」

「雄二、言いすぎだよ?彼らが辛い訓練受けてるのは事実だし、正式に軍へ入れば今みたいな学生気分で生活なんて、絶対出来ないんだから」

「でもさ!厳しい訓練って言ったら一番はあの虫先生だろ!」

 虫先生、相変わらず変な名前だ。白井カブト、カブト虫、虫先生。まぁ能力で変身したら虫っぽいからって理由もある。最近流行ってるあだ名だ。

 あまりにも語呂がいいから、俺も外で呼んじゃう時がある……。

 そんなことを考えていたら、二人の視線が一斉にこっちへ向いていた。

「何さ……」

「いや、どうなんだよ授業内容とか。実際辛い?」

「ああぁー…………いやぁー…………辛い時もあるけど、基本的には優しいよ。ペース配分とか去年よりも考えられてるし」

 確かに去年は厳しかった。全クラスの人たちが一人残らず悲鳴を上げながら倒れていく、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。

 でもそこから徐々に改善されていったんだけど、生徒は…………今の教室を見ればわかる。

「そうなの!?俺もさ、先生自体は好きなんだけどな。授業内容怖すぎて選べなかったわ」

「え?あの人のどこが良いの!?人を見下したような目だったし、明らかに生徒をサンドバックにしてたじゃない」

「おい……睦月の前だぞ……」

 工藤さんが、アっと気づき、二人して申し訳なさそうな目を向ける。

 得意の苦笑いでその場をやり過ごしたが、先生の事については否定はしなかった。

 なぜなら、工藤さんの言ってる事は間違いではない。少なくとも、先生が来た初日は俺もそう思ってた。というより、ホントにその通りだった。

 生徒の事を見下した感じだったし、みんなとの組手……いや、ボコボコにしてただけだ。今考えるとそりゃー来ねぇよ。とそう思う。

「ああああ。でもやっぱ、そう考えると、ああやって肩で風切ってる連中は、虫先生選ばなかったって訳だろ。辛い訓練が正しいなら、レンたちの方が軍人らしいって事だろ?」

 気を聞かせて大げさに表現する五十嵐君。

「いや、そこだけじゃないでしょ?礼節とか態度とか挨拶とか、全部ひっくるめてそういう事言ってんだから」

 それに対し、工藤さんは楽し気にツッコんだ。あの苦い空気なかったことにしようと必死になっていた。俺は気にしないのに……。

 工藤さんがハンカチを取り出し、五十嵐君の口元を拭いてあげたりして、二人は楽し気な会話を広げていた。

 そんな中、俺はラーメンの残ったスープにご飯を入れた。


 

 やっぱり、定食にショートケーキは合わなかったか……。

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