未読の方は是非。私は再読ですが、本当に面白いファンタジー作品です。

異世界ファンタジーと聞いて、まず何を思い浮かべるでしょうか。派手な戦闘? 強大な魔法? それとも異種族との冒険譚? 本作が描くのは、そうした表層的な刺激とは異なる、もっと深く、もっと静かで、それでいて強烈な世界そのものの肌触りです。
この物語で特筆すべきは、異世界の機微──人々の営みや価値観、土地に根ざした文化や思想が、旅人がゆっくりと街角を歩くような筆致で描かれていること。住人たちはどのような日々を送り、何を信じ、何に笑い、何に怯えているのか。異邦人である私(読者)に、まさしく「異文化に触れる体験」を丁寧に提供してくれます。主人公二人での視点もその体験に厚みを持たせ、ぐいぐいと物語の中へと引き込んでいきます。
そのうえで展開されるのが、「なぜ魔法使いたちは迫害されているのか」という根源的な謎。この問いは、作品自体を支える構造であり、読者を少しずつ深みへと引き込んでいく鍵でもあります。
終盤、タイトルである「星と丸の王国」が意味を帯び始めたとき、世界が反転します。なぜこの名称だったのか? 魔法使いへの迫害は何に起因していたのか?
真相を知った時、私は思わず「ああ、そういうことだったのか」と声を漏らしてしまいました。(厳密には「ああ」だけ声を漏らし、「そういうことだったのか」は心の中で)
幻想に満ちた情緒と、ミステリーとしての快感。その両輪が静かに、けれどがっちりと、私の心を掴みました。
再読ですが、面白かったです。
この度は素敵な物語をありがとうございました。
未読の方は是非。

その他のおすすめレビュー

鋏池穏美さんの他のおすすめレビュー1,391