第2話 西の暁と暗転の空
第2章 西の暁と暗転の空
(回想)
前回の話を進める前に、僕とユーラ(由良)の出会いをまず話さなければならない。
僕の幼馴染であるユーラは、着物を着用し、凛とした顔立ちでいつも薙刀を持ち歩いている腕っ節の強い女の子だ。
僕は周りの子たちからよくいじめられていたが、なぜか彼女も避けられていた。僕が周りから嫌われているのは十中八九、自分がこんな性格だろうと言うことは分かっていた。
でも彼女に関しては、何故みんなから避けられている(いや_怖がられいる、の方が正しいかも)か分からなかった。
男顔負けで強いことは認めるけれど、周りに暴力を振るう子ではなのだから、どうしてユーラが周りから怖がられているのか分からなかった。けれど、理解し始めたのは「王位継承選挙」の一件からだ。
――――――――――――――
少女ユーラ(由良)
「……そんなところに居られると邪魔なんだけど、どいてくれない?」
淡々と言い放った少女は、床に落ちたポッド(幼馴染)を見つめていた。
ユーラとポッドの1日はそうして始まる。
(数分前)
ユーラは、自分の進む方向に、幼馴染のポッドが縄で宙ぶらりんにされているのを見つけた。数秒考えた後、自分の持っていた薙刀で、幼馴染がつながれている縄を容赦なく切断したのだ――ポッドに了承の有無を聞かずにだ!※良い子はマネしないでね!
ドサッ!
「っ!いっっってぇぇえぁあぇぇえええ!?」
ジンジンと痛みが広がってきた。
ポッドは頭から地面に体を強打した。誰かが縄を切ってくれたのだが、やり方が雑すぎた。さっきの惨めさからくる涙ではなく、物理的な痛みによって出される涙が、今度は流れてくる。
「うゔ〜いったぃぃ!てか、このやり方!ユーラだな?!」
「……ねぇ、――」
そうこうしているうちに、冒頭の発言をユーラが言ったのだ。
*
「僕の幼馴染は、冷酷な人間なんだと痛感したよっ!」
痛めたところをさすりながら、未だ絡まっている最後の縄をほぐすポッド。
ポッドは、自分の隣で筋トレに励んでいるユーラを横目で睨んだ。その視線を感じたユーラは、ポッドの方に無言で顔を向け一瞥した。
「(じぃ――――――)……」
ポッドを見つめるユーラ。その視線に、ビクッとするポッド。彼女は、ポッドの顔を凝視した後、再び正面に顔を戻して、今度はアキレス腱を伸ばし始めている。
ユーラから真顔で目を向けられたポッドは、彼女の一連の動作に、なぜか冷や汗が流れた。
そして、ユーラは少し間を空けて口をひらいた。
「そう……。私はこれでも感謝してほしいくらいだけど」
彼女の発言を機に、ポッドの中で何かがキレた。ぶちり、と。
「感謝しろだって?!僕は怪我してるんだけど?!満身創痍なやつを前に君は落として、『そんなところに居られると邪魔なんだけど、どいてくれない?』って言うのか?!それで感謝しろ、だなんて全く非情な世の中だね!」
喚くポッドにユーラはため息をついた。
「はぁ、まぁそれで許されるなら世の中非情よね。 ……でもねポッド、貴方……毎回、毎回、同じように怪我して転がってるじゃない。それも私が通る道端にいる。それで私は第一発見者になる。怪我してる人物は知ってる幼馴染。事情を聞けばいつものメンツで『殴られて完敗した』と言う。結局1人で立てなくて私が、仕方なく貴方を介抱する。それも週に10回以上の頻度。……ねぇ、わざとやってるの?毎回そんな場面に出くわすんだから誰だって慣れるわ。むしろそんな貴方をみていて私は呆れかえってるの。そんなにやられっぱなしなら、逃げるべきよ。勝ち目がないなら尚更ね。毎回世話するこっちの身にもなって欲しいわ。それとも私が成敗すればいいのかしら。でも貴方、私がやろうとしたら、『これは僕の戦いだ』って言って
普段は無口な少女が、ここぞと言うときは怒涛の正論。且つ、巻き返しにポッドは涙目になり、次第に背を丸めて座り、やがて何も言い返さなくなった……。
「!そういえば、何でユーラがここにいるんだ?」
ふとポッドは、ユーラが自分を「見つけた」と言ってきた事を思い出した。――この怪力女がわざわざ僕を探すような事はしないよな――と思いながら。ユーラは、やっとかと呆れた目でポッドをみた。
「リーダーが貴方を探してたのよ。近々行われる王位継承選挙、その事に関して『装飾士』に仕事があるみたい。で、それを貴方に伝えたいけど、全然見つからなかったから、私に白羽の矢がたったの。」
「あぁなるほど……(リーダー気を利かせたんだな、僕がいじめっ子達に勝てないと思って……だからユーラを向かわせたのかな)」
「それじゃ、要件は伝えたから」
そう言って彼女は背を向けて走り去っていった。
「……うん、了解」
その場に、僕がいつも見慣れている絆創膏と軟膏を置いていって――。
――――――――――――――
僕は、飾り付けの仕事を行なっていた。町に飾りをつけたり、意匠をこらしたりする仕事で「装飾士」とも言われる。割のよい仕事で、大変だがこの僕でも続けてこれた。近々、王位継承選挙が行われるらしく、そのため町や宮殿に飾り付けをする必要があるらしい。装飾士のリーダーが皆を集めて、誰がどこの地区を飾りつけるか決めるらしかった。
僕の担当はなんと、宮殿内の装飾するグループに配属されたのだ!「ポッド、失敗するなよな」と笑わせてくるリーダーに対し、僕は気が気じゃなかった。
――――――――――――――
(ラグーン宮殿にて、当日)
宮殿内は見事な作りであった。豪華絢爛と言えばそうだが、その中にも風情のある作りが感じられた。
チラホラ周りを見ると、向こうの廊下に、ここに住んでるであろう人達が見えた。その人達を見ると、僕ら市民と少し違う雰囲気があった。なんて言うだろうか……格が違う?雲の上の人?みたいな感じだ。
ラグーン宮殿の敷地は、一般人が入ることを許されていない。
「(きっとこんなものを見られるのは最初で最後なんだろうなぁ……今のうちにじっくり見とこ)」と、ポッドは思っていた。
宮殿の管轄である闘技場、王立図書館やその他も入ることはできない。その為、こういった機会でないと一生ご縁がない場所なのだ。けれど、ゆっくり見ている余裕は無かった。
「そこの飾り付けが終わったら、そこの角やれ!そこのお前!何もたもたしてる!早く運べ!そこのお前、もっと丁寧に!壊すなよ!お前はあっちだ!頼むから丁寧に・早く・効率よくだ!」
各所、宮殿の人から指示を受け、皆がテキパキ動く。
この時、僕の運は既に尽きていたのかもしれない――。
――宮殿内の廊下を一人で装飾していた最中だった。
パッリーン!
近くにあった花瓶が割れた。
「(なっ!何で?割れたんだ?!この花瓶?僕触ってないのに!?)どうしよう!」
――はやく、隠さないと……でも僕がやったわけじゃないんだ!
――隠せ!
――誰か呼ばないと!
――隠せ!
――正直に話さないと!
――隠せ!
ふと、直感的に浮かんだ考えをポッドは何度も打ち消した。
――でもこのままだと僕のせいにされてしまう!もしかして、始めから割れてたのか?
ポッドは吸い込まれるように、割れた花瓶の欠片を持ち上げていた。
その時、向こうの曲がり角から人がやってきた。宮殿の、人だった。
「!」
「?……貴様、それは何だ?」
ドスの効いた低い声で、床に落ちている花瓶とその欠片を持っているポッドをみた。
無造作に投げ出された百合の花が、床から僕を見上げて、せせら笑っていた。
「っ、これは……(あぁ、最悪だ!)」
――――――――――――――――――
口うるさい、厄介ども(主にツルツル殿及びその他)から解放されたハルトは、部屋に戻ってソファーに横たわっていた。
「はぁ、……毎回懲りない自慢話だな、あいつら帰らずの門に行かないだろうか、二度と帰ってこなくていいから」
片腕を額に当て、天井を仰ぎながら先程のやり取りを思い出していたハルト。彼の周りには、少年に対し媚びへつらう奴が多くいる。そのことでハルトは嫌気がさしていた。彼等は、仮にハルトが王になった時、自分の地位を少しでも上げておきたいのだろう。王の側近役になれば有名にもなるし、金も入る。何より権力を持つことができるので、皆必死だった。
「ふふっ……珍しい事を言いますね。随分とお疲れのようだ、そんなことをおっしゃるとは……どうぞ」
ハルトが珍しく零した本音に、世話役の男マララは内心驚いていた。そして、労わるようにカップへ紅茶を注ぎ、ハルトに差し出した。
「お気持ちも分かりますが、この部屋以外でそのような軽率な発言はお控え下さい……特に、この時分、誰が聞いているか分かりませんので……」
あと少しで王位継承選挙が開幕する。その事でマララは、ハルトの軽率な発言が悪い奴等によって市民に変な噂を立て、支持者が減るのではないかと懸念していた。王は最も票が多いものに継承されるのだ。
「あぁ、わかってる。心配するな。それと、次の王となるのはこの僕だ!……ならねばならない」
その表情はどこか危機迫る勢いだ。世話役の男マララは、ハルトを慕っている。故に、そう言いきるハルトに対して、憶測ではなく、確信を持っていた。
「(ハルト様は必ず王になれる。これは予感ではなく、確信だ。……王になる為、ハルト様が望むならば私は何だってしよう)」
ハルトには両親がいない。世話役のマララは幼い頃からハルトを見守ってきた。恐れ多くも、親子の様な情がマララ自身にあるのも事実。決して本人には言わないが。二人の絆は強固であった。
「……数日、出掛けてくる」
「?何処へでしょうか」
「町の図書館だ。少し調べたい事がある」
「無論、護衛もお付きですよね?」
「……さぁ、どうだったかな?」
「いけません。1人でハルト様を歩かせる訳には行きません。市民図書館ならなおさら。私もご同行致します」
「はぁ……よしてくれマララ。それだと目立つ。」
「でも……」
「マララ、君は今忙しいだろう……僕はまだ子供かもしれないが、ただの無知な子供じゃない。1人で大丈夫だ。何より武器をもってる。君も僕の腕を知っているだろう?」
ハルトの腰にある剣は煌めく。
「しかし、……もしもという事がございます。それとも、私と一緒に行動したくない理由が?……はっ!もしや、いかがわしいことを?!あぁ、だから一緒にいてほしくないのですね。分かりました、わかりました。ハルト様も、そんなお年頃ですものね。失敬」
マララはわざと顔を隠しながら、指の間からハルトを盗みみる。何とも茶目っ気な奴だ。
「はぁ、マララ、そんなんじゃないのは分かっているだろう」
「ですが、心配なのです。……せめて、護衛する動物や変装だけでも……」
結局、ハルトは折れた。
「はぁ、わかった……当然変装はして行くよ。でも、ペットはなしだ。」そう言って、ハルトは部屋のクローゼットから変装用を考え、マララの前で着替えた姿を見せた。
「……どうだ?」
「良いかと、どこからみても一般人です!」
語尾ににこにこっと効果音がつきそうなほどにやけているマララ。
「……行ってくるよ」
「お気をつけて……」
バタンッ――。
ハルトは自室を後にした。
――――――――――――――――
2階の長い廊下を渡っていると、一階から怒鳴り声が聞こえてきた。
上から一階の様子を見る。するとそこにいたのは現在、宮殿内に入る事を許可している装飾士達がいるのだと気づいた。装飾士の誰かがやらかしたのか、宮殿内の者に怒鳴られている最中であった。
ハルトは、この宮殿の男に怒鳴られ下を向いている少年の後ろ姿を冷ややかな目で眺めた。そして、何事もなかったかの様にそこから立ち去った。
――――――――――――――――――――
ポッドは現在、絶望していた。
「貴様!何てことをッ!この花瓶は代々王家に伝わる花瓶なんだぞ!」
「待ってください!っち、違います!僕がやったんじゃありません!」
「嘘つくな!貴様がやったのだろう!ここには貴様しかいなかった!言い訳は聞かん!」
「っ違うんです!本当に僕じゃない!」
「では、貴様がやっていないと言う証拠や、誰か見ているものはいるのか?!」
「それは……いません。でも、本当に僕じゃない、」
「ふんっ、これだから一般市民の装飾士風情は、信用ならんのだ。もういい!貴様がやったか、やってないかが問題ではないのだ。……この場に王家ではない外部の者がいる。それが重要なのだ」
「?…それは、どう言う」
その後も無実を訴え、何度も誤解を解こうとしたけど、無駄だった。
ポッドは泣く泣く宮殿を後にした。必死に誤解をとこうとしたが、犯人扱いされてしまった挙句、花瓶を弁償しなければならなかった。
その額なんと5000万ペクタ¹⁾。子供に払えるわけが無い。裕福な家庭ならすぐ弁償できるだろう。だが、大半の人間が、そんな大金すぐ出せるはずがない。ましてやポッドの家なら尚更だ。
ポッドの家は自営業であった。残念ながら稼ぎが無いから、この年で働きに出ている。だから学校にもいけていない。幸い、市役所へ申請しに行けば、貸与金をもらう事ができた所だった。こうして数時間手続きを行ない、それで何とか一時金のよな形で借りられた500万は払えが、残り4500万とその貸与額500万の利子分を毎月を返済しつつ、生計を立てなければならない。
それと、家の借金も返さないといけない。そう考えて、今後の人生に対しポッドは絶望した。
「(っ!何とかして稼ぐしかない!でもお母さんに言ったら、きっと病んでしまうかもしれない)」
歩きながらポッドは拳を握り締め、自分の惨めさに声を殺して泣いた。
――――――――――――――――――――――
時刻は午後17時頃、帰宅するには早かった。階段を上り、重たい引き戸を開けた。
「……ただいま」
「あらポッド、お帰りなさい」
母がエプロンを掛けながら、こちらに振り返る。夕飯の支度をしていたようだ。
「……父さんは?」
「父さんは……まだ眠ってるわ。疲れているみたい」
母は伏し目がちそう言った。
「……そっか、」
あの人が起きてくるところを、僕は見たことがないが。それは心の内に留めておく。
――寝る暇があるのなら、働けばいいのに。この家の現状を分かっているのだろうか。
「……ポッド、お父さんを責めないで。あの人は私たちの為に頑張って働いているのよ」
「っ!そんなのっ――」
表情で僕の考えている事が分かったのであろう、母さんはいつも父さんを庇う……。
「(あんな奴庇う価値なんてないのに、こんな生活だって、元はと言えば父さんのせいなのに……母さんだって苦労してるじゃないか!)」
けれど、そんな言葉を掛けてしまったら、母さんはきっと悲しんでしまう、だから言わない。
あぁ、今日は心がぐちゃぐちゃで、今にも爆発しそうだ!
「……わかってるよ、母さん」
腹が立っても仕方がない……。
ポッドは自室へ進んで行った。
――パタン(部屋の扉を閉める音)
「(きっと、母さんは父さんがろくでなしじゃないって思いたいだろうけど、僕はそう思わない)……父さんなんか大っ嫌いだ」
自営業で勝手にどんどん進んでしまう父に、母はついて行くほかなった。
結局、成功せず店の借金返済の為に、お金を借りては返しての繰り返し。家の借金も母が一緒に働いて稼いでいた、弟の治療費も。
父は暴力を振るう人ではなかったが、頑固な親父だった。酒を飲んでは、暴言を母に吐いていた。
――お前のせいで、俺の人生めちゃくちゃだ!
ある日の夜、父が母に向かって叫んでいたのを僕は覚えている。自分の責任を母に責任転嫁しだしたのだ!
昔はあんな人じゃなかったのよ、今は心が疲れてるだけなのと母は言っていたが、本当のところは分からない。家族の事なんか見向きもしない。いつも放任主義な父に、もはや尊敬の念は浮かばなかった。
給料なんて、お小遣いなんて、無いに等しい。けれど、飢え死にせず、こうやって屋根の下で過ごせる事には感謝だと、ポッドは思った。そう思い込む事にしたのだ。
――何で周りの子達と同じ様に、学校に行けないのだろう。
――何で好きなものが買えないのだろう。
――どうしてうちはこんなに貧乏なんだろう。
――どうして、どうして、なんで、なんで!なんでっ!――。
いつからだろうか、そう思うことをやめたのは。
あぁそうだ、虚しくなるだけだったからだ。
――我慢、我慢、我慢、我慢、きっと、きっと、いつかは叶う。変わってる筈――――。
それに!僕は不幸なんかじゃない!
だって、飢え死にしてない、住む場所だってある!最低最悪な事にはなってないのだから、なら幸せじゃないか!
そう思わないと、ポッドの心は壊れそうだった。
事実、必要最低限の生活はできている。飢餓で死ぬこともなければ、働きながらも少しの稼ぎがあり、何とか生活できていた。
しかし、年を重ねるごとに、じわじわとその貧富の差が周りと出ていることを、嫌でもポッドは働きながらも理解していた。
「(親がそうなら、子もそうってことなんだろうか。まさか自分も借金まみれになるなんて……こんな辛い人生になるくらいなら、生んでくれた母には申し訳ないけど、僕は生まれてきたくなかった)」
すると、ポッドの部屋の扉がゆっくり開かれた。
「!」
「兄ちゃん!」
奥から少年が顔をひょこっと、出してきた。その声に、先程まで暗かったポッドの表情が明るくなる。
「リク!」
扉を開けたのはポッドの弟のリクだった。目をつぶりながら、ポッドへ駆け寄る。
「っ!リク!危ないだろ!そんな走ったら!」
「大丈夫だよ!」
弟は勢いよく走ってくると、ポッドの腰に抱きついてきた。弟のリクは5歳だ。リクは小さい時に病気で目を悪くしてから、視力を失った。本人が一番辛い筈なのに、リクはまるでそんな事を吹き飛ばすくらいに活発的で、目が見えなくても何でもできた。逆に手助けしようとすると「必要ないっ!」と言われて怒られる。反抗期かな?僕の唯一の癒しだった。
「ねぇねぇ!兄ちゃん面白い話聞かせて!」
正直、今はそれどころじゃなかった。主にメンタルが、はぼろぼろだ……でも。
「え、ぁ〜うーんそうだな……」
「……兄ちゃん、なんかいつも以上に元気ないね。」
「え!そ、そんなことないよ!……てか、いつも以上って!?……そんないつも元気ないのか、僕……うーんそうだなぁ〜……あ!世界が逆さまになった話はどう?」
「何それ!すげぇ――!」
弟には笑っていてほしい。
今は、今だけは……僕の表情が見えない弟に感謝した。
――――――――――――――――――
一通り僕が話し終わったら、リクは疲れて寝てしまった。僕はその隙に一階へ行き、母さんに今日一日の出来事、花瓶の件について話をしていた。
「……そう……そうだったの、……でもポッド、貴方がやったんじゃないのよね?」
「ゔ、うん……」
「大丈夫よポッド、今更借金が増えたところで変わらないわ!母さんも頑張って返済できるようにお仕事頑張るから、ね?」
母はやつれた顔で笑った。
「うゔ、ごめんなさいっ母さん!」
僕はすすり泣きながら頷いた。
「いいえ、ポッド貴方が謝る必要なんてない。貴方は悪くない。むしろ私の方が謝らなければ……こんな生活でごめんね、力になれなくてごめんね」
ポロポロと母も声を切らして泣いた。
裁判には金と時間が必要だった。相手が宮殿の人となると尚更だ。相手側は、金を払い続けるなら花瓶の件を公にしないと言っていた。これを口外又は破って逃げた場合、死刑か、僕を拘束し目標額に到達するまで働かせられる。
なお、本人が放棄した場合、または本人が死亡した場合、その一家へ連帯責任として返済の義務が生じると言っていた。
僕は宮殿の人とのその交渉を飲み込んだ。僕に払える金額でもなければ、家に裁判するだけの金もないからだ。市役所にはそのために行ったのだ。母は、泣く僕をそっと抱きしめて、一緒に泣いてくれた。
世界はなんと無慈悲で、理不尽な事か――。
数日後、僕は気晴らしに外へ散歩しに出掛けた。ずっと家にいるとマイナスなことばっかり考えてしまうからだ。でも僕の悪夢はこれだけで終わらなかった。
「おい!ポッド!」
やっと見つけたぞとばかりに、そいつらは僕の目の前に立ちはだかっていた。
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