第2話 皆殺し

 なんとしても、スキルを使わないと。

 鑑定された時のことを思いだした。

 たしか、会話とは別の言語だった。

 なぜか俺の頭の中に、その言語の知識がある。

 たぶん、召喚に知識伝授が含まれてるのだろう。


「【スマイル100円通販】。上手く行った。おお、通販ね」


 目の前に半透明のウインドウが表示された。

 魔力がないって話だったけれど、使えるじゃん。


 通販のスマイルってサイトだな。

 お薦め商品が並んでる。


 検索窓にワードを入れると念じたら、検索窓にカーソルが移動。

 思考で操作できるのは、便利だ。


 残金は3千5百円。

 こいつらの度肝を抜けば、生き残れるかな。

 この金額で買えるそういう商品ね。


 よし、レーザーポインターで行くか。

 異世界でレーザーの理論が確立されてないことを祈るしかないな。


 『レーザーポインター』で検索。


 ずらずらと商品が並ぶ。

 充電式は駄目だ。

 充電してる暇なんてない。

 電池式を選ぶしかないな。


 『レーザーポインター 電池式』で検索


 良かった、電池式がある。

 操作が簡単な奴が良いな。

 ひとつだけあるボタンを押すだけで作動する物。


 ちょうど、3千5百円のがあった。

 電池付きだから、問題ない。

 安物買いの銭失いは駄目だ。

 命が懸かってるから、買えるので一番良い物を選ぶ。


 よし、これを買う。

 手にレーザーポインターが落ちた。

 重さから考えるに電池は既に入ってる。

 至れり尽くせりだ。


 よし、レーザーオン。


「がひゅう……」


 出た赤い光線は、周りにいた人間のひとりに当たって貫通した。

 そいつは倒れて、ピクリとも動かない。


――――――――――――――――――――――――

レベルアップしました。

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 肉の焼ける匂いがする。

 やっちゃいましたか?


 日本と物理法則が違うのかな。

 今はそんなこと考える暇はない。

 周りが驚いている今が復讐のチャンス。

 ひとりやったのだから、もう後戻りはできない。

 復讐の機会が速攻で来たな。

 好都合な展開だ。


 レーザーポインターのボタンを押したままで振り回す。


「こいつ、神器を持ってたのか。ぐわっ……」

「俺の腕が……」

「お前、頭が斜めに切り取られてるぞ」

「くそっ、逃げるんだ。あっ……」


――――――――――――――――――――――――

レベルアップしました。

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「何だ。背が低くなった。転がってるのは、わしの足か……」

「頼む! やめてくれ! お願いだ!」

「金ならいくらでも出す。がっ……」

「わしは王だ。わしを殺せばどうなるか分かっているのか?」


 知ってるよ。

 最悪、拷問されて死刑だろ。

 ここにいるこいつらは貴族みたいだから、ひとり殺しても死刑は確定だ。


「ぐっ……」

「陛下、しっかりして下さい。傷は浅いですぞ」


 そこか。

 王のいる場所を執拗に切り刻む。


「わしの野望がこんなことでついえるのか。無念……」

「だから、勇者召喚は不味いと言ったのだ。ぐがっ……」

「頼む。ひいっ! あつっ……」


――――――――――――――――――――――――

レベルアップしました。

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 皆殺しにしないとな。

 こいつらにも善人が混ざっているかも知れないが、勇者召喚をしでかして、のんびり見物してるんだから、同罪認定だよな。


 悲鳴が、石造りの部屋に反響する。


 何度かレベルが上がったようだが、数えているほど暇じゃない。


 レーザーで斬られて、みんなバラバラ死体。

 焼き斬っているので、血が少ないのが幸いだ。

 臭いは酷いけどね。


 口封じに殺されるところだったのだから、殺されても文句はないよな。

 良心にはしばらく海外旅行にでも行って貰おう。


 皆殺しにはできたが、どうしようか?

 逃げられるかな。

 国が相手だものな。


 ひとつしかない出入り口が開く。

 兵士が見えた。


 兵士が顔を突き出して、中の様子を確認する。


「陛下、ご無事ですか?!」

「あの王冠は?! 殺されてるぞ!」

「あの武器の仕業か?【道具鑑定】。光属性の武器だ! 対光魔法防御!」


 兵士が撃たれないように、壁に隠れる。


「【鏡魔法】。対光魔法防御、オッケーです!」

「【反射魔法】。対光魔法防御、完了!」


 光の膜が張られた。

 魔法だろう。

 ちっ、対策されてしまった。


 兵士が何人か入って来た。

 全員が入らないのは、きっと魔法で防げるか自信がないのだろう。

 俺にも破れるか分からないからな。


 残金はもうない。

 少し残して置けば、良かったか。

 出し惜しみはなしって方針が裏目に出た。

 いまは愚痴を考える場合じゃない。

 打開策を考えろ。


「おい、その道具をこちらに渡せ。素直に渡して、投降すれば命は助けてやる」


 考えろ俺。

 脳内ホルモン働きやがれ。

 流れろ血流。

 張り巡らせシナプス。

 唸れ脳細胞。


 出入口はひとつ。

 対光魔法防御を撃ち破れるか?

 まずは試す。


 試して駄目だったらどうする?

 そん時は王様を殺したんだから、楽に死ねそうにない。

 じゃあ、レーザーポインターを壊そう。

 これだけの威力なんだから、壊したら吹っ飛ぶだろう。

 盛大に自爆してやる。

 よし、それで行こう。


 レーザポインターのスイッチを入れる。

 光は反射された。

 俺の横を通った気がする。


「うおっ、危ない! 自爆する前に、自殺するところだったぜ!」


 後ろの壁を見ると、俺に当たるような軌道だな。

 跳ね返されたのは3千5百円の安物で、昔あった禁止されるほどの光の強さはないから、当たり前か。


 こうなったら、自爆ルートか。

 死にたくはないが、死んだら勇者は生き返るものだろ。

 レーザーポインターを床に落とし。

 何度も踏みつける。


 壊れたが、何も起きない。

 敵の手に渡るのを阻止したから、30点かな。

 その時、電池が、ころころと転がり出た。

 光り出す電池。


 魔法陣が光り出す。

 おっ、爆発するのか?


「召喚陣が暴走してる! 撤退!」


 兵士達が逃げる。

 俺は光に包まれて、気を失った。

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