イギリス育ちのミアお嬢様が不器用ながらキュンを求めてくる

遥風 かずら

第1話 英国育ちのお嬢様

「わたしは西大路にしおおじミア。イギリス育ちですけど大丈夫、日本語分かります。これからよろしくお願いです」


 少しつたない日本語で話すその子に一瞬で目……いや、心を奪われた気がした。


 まだ暑さを感じない四月。


 新しい学年、新しい生活、新しい出会いが始まる四月。


 あっという間に過ぎた退屈な一年目を終え、二年目の春を迎える教室で新たな編入生のお嬢様を出迎えることになろうとは、俺にとってはいい意味で青天の霹靂。


 まさに俺自身に訪れた真の春と言える。


 仲良くなればいずれ家に遊びにきてくれるようになるはずだから是非とも仲良くなりたい。だが周りに分かるような態度を出せば、ライバルが増えるのは確実。ここはあえてしかめっ面でお嬢様を迎えなければならない。


「編入生がとんでもない美少女なのに、全然嬉しそうに見えないのは気のせい?」


 ちっ、相変わらず無駄に勘のいい奴だ。


 油断して思わず編入生に見惚れそうになっていると、後ろの席に座る従妹の千葉ちば 真琴まことが茶化すように声をかけてくる。


 俺にとって一番の問題は従妹である真琴が同じクラスにいる同級生なうえ、俺の家に同居している点だ。


 見た目こそボーイッシュ美少女だが、口は悪いし態度はでかいし、とにかく隠し事をしたくてもそれを嫌う奴がすぐそばにいるのが俺にとっての難敵。


「俺は何でもかんでも喜びや怒りを開放させるほど単純な男じゃないんだわ。そういうお前も機嫌悪そうじゃないか。なぁ、まこっちゃん」

「うるせーよ、バカ孝純こうじゅん


 本当に口が悪い奴だな。


 不思議なことに男女関係なく友達が多くて慕われているが、それはこいつが中性的な美少女なうえ、誰にでも話しやすく親しみやすいからだろう。


 黙っていれば清楚に見えるらしいが、それに騙される男子のなんと多いことか。整った容姿をしているだけで中身はとんでもない悪ガキだというのに。


 俺だけは騙されないが。


「……あの、木塚きづかくんのお隣って言われました。空いていますか?」


 うぉっと?


 後ろの席の危険な従妹に構っていたら、いつの間にか隣には編入生の西大路さんの姿が見えているじゃないですか。


 すぐ隣に立っていたのに全く気づけなかったが、さらりと長い白っぽい金髪、そして教室のどこにいても通りそうな明瞭な日本語。


 瞳の色は曇りなき眼の翡翠色をしていて、自然と吸い込まれそうな魅力がある。


「あ、あぁ、どうぞどうぞ。隣はいくらでも空いてるよ」

「はい、ありがとうございます」

 

 スカートを押さえながら横から座る仕草がお嬢様を感じさせていて、後ろの席の奴とはまるで比べ物にならないとさえ思えた。


 それにしても、気のせいか?


 隣に座った西大路さんが俺をじっと見つめているような気がする。


「…………な、何かな?」


 どうしても集中的に浴びせられる視線が気になったので、隣の西大路さんに尋ねてみたのだが。


「自意識過剰ですか?」

「えっ?」


 もしかして俺の気のせいだったのか?


 そんなはずはないってくらいめちゃくちゃ見られていたはず。後ろの席の真琴だって気づいていたはずだ。


 それなのに即否定とか、優しそうなお嬢様だと思っていたイメージが遠くに旅立ってしまったよ。

 

「住む世界が違うんです。大丈夫です」

「あ、はい」


 もしや、とんでもなく塩対応なお嬢様なのでは?


 俺を一瞬だけ見たと思ったら、西大路さんは秒で顔を正面に向き直して担任の話を真剣に聞いている。


「……大丈夫、大丈夫。ちゃんと仲良くなれそう。優しそうな男の子だからきっと大丈夫」


 正面を向きながら小声で何かを呟いているみたいだったが、俺には一切聞こえてこなかった。


 確実に思えたのはイギリス育ちで名門校にいたお嬢様は、俺がいだいていた清純なお嬢様とはまるでかけ離れた塩対応お嬢様だったという現実だけである。


 新しい春の出会い、早くも挫折する件。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る