第48話 もうここまで来たら…(1)

 ぼーっと体育座りをしながらアグナルさんを待つことにした。



 そう時間が経たないうちにアグナルさんは崖をよじ登ってきた。よほど重労働だったからか、僕のそばまでやってくるとゴロンと寝転ぶ。



「はぁー…死ぬかと思ったぜ」



「ご無事で何よりです」



 苦笑いで僕は答える。老人が言っていたことは本当だったようだ。確かにアグナルさんは疲れている様子だったが外傷は見当たらない。あれだけの高さから落とされたのだから、たんこぶや痣の一つはあっていいのに。




 寝転んでいたアグナルさんは起き上がり、ソワソワしながらチラッチラッと僕を見る。




「ところでよ……まだ俺に挽回のチャンスは有ると思うか?」



「なんのことですか?」



「俺とインリの恋路のことだ!!」



 真剣な目でアグナルさんは僕を見る。正直、言って脈はほとんどないに等しい、むしろ先程の出来事によってマイナスまで落ちていっていると僕は思う。それをどうフォローするか。




「ええっと…インリさんはまだ、アグナルさんの魅力に気づいていないだけなんですよ。だから、これから良いところをアピールしたりとか…」




 生憎、生きているときには一度も彼女を作ったことがない僕は、そんな当たり障りのないことしか言えなかった。しかし



「なるほど分かった!!」



 とアグナルさんはあっさりと納得してくれた。めっちゃ素直!人を疑うってことを知らない顔だ。



 満足したのかアグナルさんはまたゴロンと寝転び空を見上げた。僕もつられて見上げた。



 光が見当たらなく、もくもくと黒雲だけが渦巻いている景色を眺める。



「なあユウ。あの雲の先には何があると思う?」




「星とか月ですかね…?」




「俺のじいちゃんも同じこと言ってたな。その星と月はすごいのか?」




「すごいって言うか綺麗なものですよ。見ていると心が落ち着きます」



「そうなんだな。俺もずっとそれを見てみたいと思っているんだ。でもそのことをじいちゃんに言うと微妙な顔をされるんだよな…」



 アグナルさんは苦笑した。



「もう分かっていると思うが、ドラゴンランビーはとにかく変化を嫌うんだ」


 そう切り出した。

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