#10 開成山、今日は雨上がり。

 開成山と言えば、桜の名所だ。同時に、渋滞の名所でもある。

 8月のある日。平日だというのに、その日も道は混んでいた。

 それでも、せっかく近くに来たのだから。私は市役所に行ったついでに開成山に立ち寄った。


 その日は夕立のような雨が降り、地面は濡れていた。湿度は高く、蒸し暑い。

 鳴き続けるセミの声も相まって、正直快適とは言えなかった。

 ぐるっと池の周りだけ回って帰ろう。そう思ったけど、結局ラッキー公園にも行ったし、神宮にもお参りしてしまった。

 なんだろうね。つい、歩き回ってしまいたくなる魔力があるのかもしれない。この公園には。


 今日は雨もあって人は少なかったけれど、普段は色んな人がいて、郡山のるつぼなんじゃないかって……それは言いすぎか。

 でも、大道芸とかしてる人もいるらしいよ。私は見たことないけど。


 開成山を行ったことがない人に説明するとしたら、球場とか陸上競技場とかがあって、きれいな池があるおっきな公園……かな?

 池がきれいかどうかっていうのは賛否ありそうだけど、雰囲気はきれい。水はちょっと緑っぽい。赤い橋はきれいだよ?


 そんな開成山を歩いていて、ふと思ったことがある。

 すっごく平らなんだけど、どこらへんが山なの?

 もともとあった山が消えてしまったのか、それとも私たちが知っている山とは違う意味の山なのか……。

 詳しい人がいたら、教えてほしいね。


 公園を一周する頃には、あたりに夕日が差し込んでいた。

 犬を連れて散歩をする人、家族、カップル、ランニング……。

 その西日は、きっといろんな人の人生を照らしているんだろうな。

 眩しく、明るく、輝いて……。

 

 自分の生き方を他の人と比べてしまうところが、私のよくないところだ。

 自分は自分らしく生きればいい。そんなことはわかってるんだけどね……。

 人をこんな気持ちにさせてしまうのも、開成山のいいところなのかもしれないな。


 ――開成山、今日は雨上がり。

 朱色に照らされた水面を背に、私は駐車場へと歩く。

 ……振り返ることはない。


 少し、センチメンタルな気分になっていた。

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