第2話 ヤエちゃんと幼馴染
抜けるような青空がどこまでも広がる午前中の休日。
真っ白いワンピースを着た少女ヤエと、隣でふわふわと浮かぶマスコットのような生き物ラメは、とある場所へと向かっていた。
「ついてこなくていいって言ったのに」
「だってヤエがお熱になっている男がどんなものか見ておきたいラメ」
「だから、そんなんじゃないって言ってるのに」
定期的に行われるラメとの人類調査協力の最中、会話の流れでなんとなく名前を出してしまったばかりに、それからというものラメはしょっちゅう冷やかしてくるようになった。
本当に、ただの幼馴染なのに。
もちろん嫌いとかではない。こうして休日にわざわざ様子を見に行くくらいだし。
でもそれは、ほうっておくと自分の体のコトも気にせず夢中で作業してたりする人だから。たまにこうして様子を見に行ってあげないと不健康な生活を平気で送ってしまうのだ。
好きとかそんなのじゃなくって、友人として心配してあげているだけだ。
なんて心の中で言い訳をしていると、なんだか胸がザラついた気分になった。
「どうしたラメ? 顔が赤くなってるラメよ」
「そ、そんなことない!」
ヤエは顔を隠すようにして歩行を早めていく。
すぐに目的地である建物に着いた。
真っ白なその建物の外観は、巨大なお豆腐をそのまま寝かせたような味気ない物だった。
ヤエはインターフォンを鳴らすこともなく、そのままいつものように中へとお邪魔する。
お豆腐だった外観から打って変わって、中は非常にごちゃごちゃとしている。何に使うのかさえ分からない道具が、そこかしこに放置されているのだ。
空き巣でさえ進むコトを躊躇してしまいそうなごちゃごちゃ感ではあったが、ヤエは慣れたもので、広い建物の中をスイスイと進んでいく。
そして何度目かの扉を入っていくと、そこに目当ての人物がいた。
黒髪をぼさぼさにしたままの彼は、やはり作業台で没頭していてこちらにも気づかない様子だ。
ヤエはササっと手櫛で髪を整えてから彼に声をかけた。
「タダシ、おはよっ」
「うわっ! ヤ、ヤヤヤエッ! な、なんだよ、驚かすなよ!」
「ただ声かけただけじゃない」
なんて驚かせてしまうのはいつもの事であった。けれど、今日はいつもよりリアクションが大きかったような気がする。
少し不思議に思って観察していると、タダシは慌てて作業台に置いてあった何かを引き出しの中へと隠した。
「……ねえ、なに隠したの?」
「べ、べべべつにぃー? なんも隠してないけどー」
タダシの声は明らかにどもって上ずっている。昔から隠し事が下手というか、本人も自覚しているのだろう、あまり隠し事はしないタイプなのだけれど、今回に限ってはよっぽど見られたくない物らしい。
「まあまあラメ。健康な雄が隠す物といったらアレしかないラメ」
背後からふわっと出てきたラメが割って入ってくる。
「なに、アレって?」
「それはもちろん、好きな子のパンツラメ!」
「ええっ!?」
「この雄の場合はきっとヤエのパンツラメねー」
ヤエはじっと訝しむようにしてタダシを見た。
「ちげえよっ、そんなわけないだろっ!」
当然タダシは否定する。その否定は本当だと分かったけれど、違うという言葉に掛かるのは、パンツの方なのか好きな子の方なのか気になってしまった。
まあパンツの方なのだろう。チラっと見えた感じでは、布じゃなくて小さな箱のような物だったし。
だからといって自分が好きな子だと勘違いしたりする事もないけれど。
「っていうか、なんだよそいつ!?」
今気づいたのか、驚くタダシがふわふわ浮いているラメを指をさした。
「ラメはヤエのご主人様ラメ」
「はいはい、違うでしょ。なんか遠い宇宙から人間の事を調べに来たんだって」
「ヤエにお世話させてるんだから、ラメがご主人様ラメ」
「違うから。お世話になってる方が偉そうに主人名乗るものじゃないの」
タダシは「ふうん」と納得しているのかどうか、ラメをじいっと見つめていた。
「ん? なにラメ。男に見つめられても嬉しくないラメ」
「なあ……ラメの身体調べさせてもらってもいいか?」
また始まった。とヤエは思った。タダシは幼いころから好奇心旺盛で、一度興味を示すと、とことんまで追及したがる。それこそ寝食を忘れて。
いったい誰に似たのかとため息がでる。
「いいわけあるかラメ! 初対面の男に身体を弄らせるヤツなんていないラメ!」
私は初対面の時のラメに隅々まで調べられたんだけど……。
「なあ頼むって。人間の事調べてるんならさ、俺を調べてもかまわないからさ」
「なー、気持ち悪いラメ。 おまえなんか調べても面白くないラメ」
ぎゃあぎゃあと既に決裂が見えている交渉は続いていく。
はぁ、と蚊帳の外になったヤエは、またひとつため息を吐いて。
「ほら、どうせ今日も寝ずにずっと作業してたんでしょ? ご飯作るから、先にシャワー浴びてきなさい」
「あ、ああ、わかったよ。……そうだ! ラメ、おまえも一緒に風呂に入ろう」
「だれがおまえなんかと入るかボケェラメッ!」
……はあ。
ヤエは諦めの悪いタダシを引っ張ってお風呂場へと連れて行ったのだった。
お風呂から上がったタダシに簡単な食事をふるまい、寝かしつけ、とりあえずの掃除をはじめる。掃除といっても、勝手に触れてよいのかどうか判断に困る物が転がっているので簡単な拭き掃除くらいだ。
毎度、まるで母親にでもなったかのような気分になってしまうが、スヤスヤと眠るタダシの寝顔を見ていると、なぜか「まあ仕方ないかな」と思ってしまう。
別に格好いい顔とかじゃないんだけどな。
ヤエはそうっと覗き込んでタダシを観察してみる。大口を開けて寝ているタダシはちょっとやそっとじゃ起きそうにない。実際、起こそうとしてもなかなか起きないなんて事は、過去に何度も体験済みである。
だから、こうしてだんだんと顔を近づけてみても、きっと起きない。
おそらく唇が触れるくらいに近づいたとしても……
…………
ぐにゅっ
っと、ヤエは唐突にお尻を掴まれた。
「きゃんっ!」
「おはよう、ヤエちゃん」
慌てて振り返り、そこにいたのはにこやかに笑うタダシの祖父だった。
「おじいちゃん! ちょっと手のけてくださいっ」
「タダシにおやすみのチュウでもしてるとこだったかのう」
もみもみと、ヤエのお尻は形を変えていく。
「し、してないですっ!」
タダシの祖父に会うといつもこうなる。
聞くところによると、物凄く優秀な研究者兼発明家で、あらゆる分野での権威を持ち、その功績は数えきれないほどらしいのだが、ヤエからするとよくセクハラをしてくる背丈の小さなおじいちゃんだ。
祖父だけあって、タダシをそのまま老けさせたような顔をしており、なんとなく憎めなくなってしまうのも困りものだ。
「タダシはいつまで立っても大きくならんのに、ヤエちゃんは立派に育っておるのう」
「あっ、もう。いい加減怒りますよ?」
「褒めてるんじゃから、怒らなくてもいいじゃろう。ほら、こんなにずっしりと」
おじいちゃんはそう言って、ヤエのお尻をグッと持ち上げた。
「きゃっ! そんなに強く持ち上げないでください」
それにまるで重くなったみたいな言い方されると、年頃な女の子としては複雑な気持ちになる。
「ヤエはお尻だけじゃないラメ。おっぱいもこんなにどっぷりラメ」
どこに行ってたのか、突然現れたラメが下からヤエの胸をその体で持ち上げた。
「ちょ、ちょっとなにしてるのっ!」
後ろからお尻を、前からは胸を好き放題に触られ、眼下にはスヤスヤ寝ているタダシというこの状況は、物凄くいたたまれない。
タダシが起きてこないだけ、まだ良かったのかもしれないけれど。
「おっぱいもいいが、ヤエちゃんはこのむっちむちの太もももいいのじゃ」
「きゃーっ!」
おじいちゃんはスカートをめくり、まろびでたヤエのふとももをこれでもかとつまむ。
「太ももだけじゃないラメ。このむっにむにの二の腕もたまらないラメ」
「ちょっとーっ!」
ラメは背中側にあるファスナーをおろし、露出したヤエの二の腕をこれでもかと震わせる。
……
もみもみむにむにたぷたぷラメラメと、好き勝手に……
「あーもうっ! そんなに太ってないっっっ!!」
我慢できず、ヤエの乙女が爆発した。のだが、
「そんなに大声だすと、さすがのタダシも起きてしまうぞ」
「起こしちゃかわいそうラメ」
と何故かヤエが注意を受けてしまった。
ぐぬぬ……。
半裸のヤエはペタペタと身体を触られながら、『絶対に痩せてやる』と固く決心するのであった。
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