祝福なき花嫁
Rie
祝福なき花嫁
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誰も見ていない駅のホーム。
日が落ちかけた空は、
まだ青さを残したまま沈黙していた。
わたしの手を引いたのは、
他人の夫だった。
でもその指の温度だけが、
わたしに「生きていい」と告げた唯一の光だった。
約束された未来なんて、
わたしたちには最初からなかった。
指輪も、記念写真も、
家族の乾杯も――。
それでも、逃げ出すには充分だった。
この手を離せば、
もう誰にもなれない気がしたから。
わたしは知っていた。
彼の背中に残る
後ろめたさも、躊躇いも、
それでも踏み出す足の強さも。
彼は黙っていた。
多くを語れば崩れると知っていたのだろう。
けれど、わたしの視線が何を求めていたか、
彼だけは最初から知っていた。
愛とは、必ずしも正しさではない。
清らかさでも、
誰かの拍手でもない。
わたしたちは
永遠を知らないまま、
ただ一夜を繰り返すように、
明日を信じることにした。
それは愚かで、図々しくて、
けれど、誰よりも正直な祈りだった。
今夜、ふたりで乗る列車に、
祝福はいらない。
光も鐘の音もいらない。
ただ、
彼の手がわたしの手を離さなければ、
もう、何も望まない。
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祝福なき花嫁 Rie @riyeandtea
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