第5話 爆笑! 一発芸
「じゃ、須部サンから」
「俺!?」
いきなり一発芸をやれと指名されて、かなり苦しんでいる須部。汗までにじませているが、昼飯抜きがそこまで怖いんだろうか。
「……行くぞ」
呼吸を整えた須部が、後ろに向かって飛んだかと思うと、見事なバク宙を披露した。
おーっ、と僕と大矢が思わず拍手する。
「いや、須部サンのバク宙見て何が面白いんデスか」
鳩野の厳しいジャッジが下る。まあ、面白いってわけじゃないけど。
「じゃあ次、大矢サン」
「えー」
えーとえーと、と悩む様子の大矢は、かなり慌てている。朝飯の誘いを断ったわりに、やっぱり昼飯抜きは怖いのか。
「モノマネやりまーす! 倉藤のマネ! お前ら~この前立て替えた飲み会の会費、いいかげん払えよ~」
衝撃的なほどのクオリティの低さだった。僕そんなんじゃない。よくそれが本人の前でできたな。
「題材が題材なんで面白くないデス」
スベったのは大矢なのに僕が傷つけられるのおかしいだろ。大矢も恨めしそうに僕を見るんじゃない。
「倉藤サン、いいかげん少しは笑わせてくだサイよ」
その言葉を聞いた途端、僕はとんでもないプレッシャーに襲われた。
僕達三人は、鳩野の言うことを聞かなくちゃいけない。とは言っても、面白い一発芸が魔法の力でできる、なんてことはない。そこは自分でなんとかしなくてはならないのだ。前の二人が妙に辛そうだったのも、命令のせいでかかるプレッシャーのせいだったんだろう。
何か面白いことをやらなくちゃ、プレッシャーに押しつぶされて死にそうだ。
そんな僕に、落雷のごとき衝撃でアイディアが下りてきた。いける!
「一発芸! みーんみーん、しるもしらぬもあふさかのせき」
「?」
「蝉丸」
「ヘッ」
鼻で笑われた。なんで十秒前の僕、絶対いけると思ったんだろう。殴りに行きたい。
「ったく、何の芸もない人達デスね。どうやって二十年間も生きてきたんデスか」
一発芸がまともにできないくらいで人の人生否定しやがった。そして僕達を昼飯抜きにしておいて、わざわざ目の前でおいしそうなミニ肉を食うという所業をやりやがった、この鬼畜。
「じゃあ、女の子連れてきてくだサイ」
またも命令が下るが、誰も動かない。お互いの顔を見合わせるだけ。
「この世界さー、オレ達と小人しかいないんじゃない? あ、あとゲームマスターの誰ださん」
たぶんそうなんだろう。命令は僕達にできることしか効果がない。この世界に存在しない女の子を連れてくる、っていうのはダメ。ゲームマスターならできるのかもしれないけど、これはあくまで僕達三人への命令だから。
「……なら、皆サンが女の子になってくだサイ!」
朝から飲んでたワインが多かったのか、鳩野が訳のわからないことを言い出した。僕達に変身能力は当然ない。だからこの命令も無効──の、はずなんだけど。
小人達が「こっちこっち」とでも言うように、ぴょこぴょこ前を歩いて。
僕達の足は、自然と小人達についていった。
着いた先は……なんて言うんだろう。ここがテレビ局だったら「衣装室」とでも言えばいいんだろうけど、城の中にある部屋としては、僕は名前は知らない。とにかく、色々な服やら小物やらが並んでいる部屋だ。
「なあ、こっそり逃げられると思うか? 蝉丸」
「二人がおとりになって、そのスキに残った一人が鳩野をぶんなぐる、とかどうかなー、せみまる」
「蝉丸やめて」
部屋の中で三人でこっそり今後について話をする。しかし鳩野の命令に背いて逃げられるとは思えない。おまけに「早く命令通りにしなくちゃ」というプレッシャーがひどすぎて辛い。
で、どうなったかというと。
「おい、これでいいのかよ」
「いいわけないデスよ。化け物デスかあんた」
セミロングのウィッグに、夜空のような深い青のドレスを身にまとい、でも体格がいいから破れる一歩手前という百八十センチ超の男は美女とはみなされない。
「倉藤サンはなんでドレス着ても地味なんデスか」
「知らないし知りたくもない」
ロングヘアーのウィッグに、安らぎを与える緑のドレスを身にまとっていようが、僕は地味なんだそうだ。悪うございましたね。
「もー、こんなのにしかならなかったよー!」
遅れてきた大矢を見た途端、三人は声を失った。
くるくるとした巻き毛のウィッグに、フリルの付いたかわいらしい赤いドレス。顔はいつもと変わらないのだが、あえて女の子らしい格好をしてみると、なんというか、その。
「「「……かわいい」」」
「えっ、いや、半分冗談だったのに……大矢サン、なんかかわいいじゃないデスか」
鳩野が大矢の腕をつかんだ。
「ぎゃーやめて! 触んなー! 変態!」
「いや変態って! 別に何するってわけでもないんデスけど!」
「やめろって鳩野!」僕は二人を離そうとした。
「うるせぇ! 離せ地味!」
「地味って!」ていうかお前、素になると変な日本語じゃなくなるのかよ!
その時だった。
「離れろ倉藤!」の声とともに、須部がすっ飛んできて、思いっきり鳩野をぶん殴った。
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