闇王の詩
園内晴子
闇王の詩
悲しい時
苦しい時
わたしはうたを唄う
ほのあかるい場所でうたを唄う
そうしたら闇が晴れる
いつもはそうだ
でも、今日は晴れなかった
心に不安が住み続けている
いくらうたを唄おうと、闇はあり続ける
わたしは日の目をみることができない
助けを求め、愛するかれらに声をかけてもうまくいかない
辛く、悲しい
けれど、傷つけられた彼らの方がずっと、辛く悲しい思いをしているだろう
そう考えると、わたしの闇はいっそう濃く、深くなる
少し古びた電視装置と、大きなテーブルといくつもの椅子
そのひとつに座り、うたを唄う
だが、わたしに救いの光が差し込むことはない
悲しみはそのうち、わたしの心に雨を降らし、すべてを真っ暗に染め上げてしまうだろう
そうしたらひとびとはわたしをこう言うだろう
まるで闇そのものだ、王様は”闇王”だと
哀れな者よ
このままでよいのか?
わたしを蔑む幻に混じり、確かに誰かの声が聞こえた
人々に暗き者だと否定されてよいのか?
天から生きることを許された一人が、その御礼もせず闇に堕ち、あげく人々にその闇を感染させるとはいかがなことか
それでも王か?
わたしは本当に、このままつくられたものだけがありふれる世界にいてよいのか?
はたと気づくと、自分が目の前にいるではないか
ただ、髪色がわたしと違い、闇色をしていた
この色は、わたしの一部だ
かれはそういった
つまり、わたしの苦しみ、悲しみは、わたしの一部だ
わたしは喜びだけではできていない
暗闇をも、わたしを作るのだ
にや、とかれは笑った
その表情がまるで自分ではない誰かの笑みのように感じた
気がつくと、わたしはほのあかるい場所に戻っていた
誰もいない、ひとりの空間
だが、目の前のテーブルにはちいさなノートとペンが置かれていた
電視装置の光に照らされたそれらが、わたしに言う
うたは唄うものである前に、書くものである、と
書くことで全てが始まる
うたはよみ物であると同時にかき物である
………
わたしはペンを手に取り、ノートを開いた
闇王はうたを書き始めた
電視装置は、光を灯し続けている
闇王の詩 園内晴子 @always_enjoy
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます