すだれ越しの恋
Rie
— しゃらり、風の午後 —
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午後三時
夏の陽は もう斜めに射し始めていた
風が抜けるたびに
竹のすだれが しゃらりと鳴った
光と影が交互に揺れて
まるで この部屋の秘密を揺らしているようだった
私は白い浴衣に 薄桃の帯を締めた
頬に落ちる髪を ゆるりと払う仕草も
この人の前では どこか意味を帯びる
すだれの向こう
縁側に座る彼は 黙って扇子を仰いでいた
その目がふいに こちらを向く
すだれがあることで
私は少しだけ 強くいられる
——そのままでいい
彼が言ったのはそれだけだった
私は返さない
けれど確かに 心のどこかで
この恋が ほんの少しずつ
色づいていくのを知っていた
彼は 私よりずっと年上で
落ち着いた話し方をする人だった
その静けさの中に
どうしようもなく惹かれてしまう
余白があった
すだれの隙間から射す西日が
彼の頬に 柔らかく触れる
私はその光の角度に
胸が締めつけられる気がした
このままずっと すだれ越しで
ふたりの距離を測り続けるのも悪くない――
そんな風に思える 夏の午後
触れたら壊れてしまうものが
この恋の中には 確かにあって
それがとても美しく 恐ろしく いとおしい
風がまた吹いて すだれが揺れる
その音が 今日の会話の代わり
恋とは 言葉で進むものばかりじゃない
音もなく 香りもなく
ただ静かに沁み入るように重なっていく
すだれ越しの夏の恋
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すだれ越しの恋 Rie @riyeandtea
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