孤高なカノジョと、彼女の部屋でシてること
雲雀湯@てんびん2026年アニメ化決定
孤高なカノジョと、彼女の部屋でシてること
第1話 見た目はクール、ぱんつはお子様(くまさん)
三方を山に囲まれ、歴史だけはやたら古い地方都市。
山際近くにある私立御陵傍学園、一年三組の教室。
教室の窓辺からは、淡紅色からすっかり瑞々しい新緑に覆われた葉桜が見えている。
入学当初はおっかなびっくりだった生徒たちも、すっかり新生活に慣れてきた五月の初め。
級友の人となりもなんとなく知れ渡り、人間関係もある程度固まり、クラス内でも色々とグループができてくる。その中でも一際目立つグループがあった。
「あれ、よく見たらなばっちピアスしてる!?」
「わ、片耳だけとか、さりげない感じでかわいーっ!」
「ピアスって憧れるけど、耳に穴をあけると思うとちょっと二の足を踏むよね~」
「わかるわかる。オシャレのためにって思ってもね~、さすが小鳥ちゃん!」
「こんなの、別に……」
話の中心にいるのは涼やかな表情で言葉も少なく、ともすれば素っ気ないようにもみえる女の子。
明るく染め上げられた髪にばっちりメイク、太ももや胸元を惜しげもなく晒し、いつもアンニュイともいえる表情をしている。
少し冷たい印象でツンと澄ました彼女は、
小鳥の周囲も彼女と同じく、華やかで可愛らしい子ばかり。
どうやら彼女たちは、小鳥が付けてきたピアスの話題で盛り上がっているようだった。
クラスのあちこちでも、そのことについて囁かれている。
注目を集める彼女たちはまさにこのクラスでのカーストトップ、一軍女子。
「…………」
華やかな彼女たちとは裏腹に、
拓海が小鳥を見て鼻白んでいると、ふいに彼女たちの輪の外から、小鳥に話しかける者がいた。茶髪で少しお調子者然とした男子だ。
彼はにへらと軽薄な笑みを浮かべ、手を振りながら彼女たちの話へ強引に割って入ってくる。
「お、菜畑それ似合ってんじゃーん。けど菜畑はもうちょい華やかな方がよくね?」
「そう?」
「菜畑ならさ、もっと大振りなやつとかでも見栄えが負けないと思うんだよね。あ、今度オレが一緒にいいやつ選びに行ってあげよっか?」
「……別に」
男子は熱心に話しかけるものの、小鳥は何とも塩対応。
あからさまに興味がないといった様子の反応に、周囲の女子たちが失笑を漏らし、彼を窘める。
「ほらほら、アンタはお呼びじゃないって」
「そもそも小鳥ちゃん、男子に興味ないしね」
「あはは、空気読みなよ~」
「ちぇ~っ」
これ見よがしに肩を竦め、その場を去る男子。
小鳥がさぞつまらなさそうに「ふぅ」と大きなため息を吐けば、周囲からもくすくすと小さな笑いが零れる。
明らかに冷ややかで愛想のない小鳥の対応だが、しかしそれがやけに堂に入っていたのも確か。
クラスの各所からも「菜畑さん相変わらずクール!」「素っ気ないけど様になってるのすごいよね」「オレ、ちょっと冷たくあしらわれたいかも」「あはっ、わからなくもない」といった好意的な声が聞こえてくる。
拓海はそれらの噂を耳にしながら眉を顰め、そしてツンと澄ました様子で話題の中心にいる小鳥を見て、つまらなさそうに鼻を鳴らす。彼の周囲には誰もいない。
同じ不愛想でも、人に囲まれ、孤高の高嶺の花になっている小鳥。
一方教室の片隅で息を殺し、孤独になっている拓海。
まるで正反対の二人。
水と油のように、本来ならば交わらないような間柄。
その時、ふいに拓海のスマホがメッセージの通知を告げた。
すぐさま確認すれば、小鳥の名前が躍っている。画面には前足を大きく前に投げだして伸びをした猫のスタンプ。
その小鳥はといえば、相も変わらずツンと澄ました風に彼女たちの輪の中にいる。
小鳥からのとある要請を示すそれを見て、拓海は眉根を寄せた。
◇
その日の放課後。
やけに本棚が充実し、一部には少年漫画のキャラグッズ、床にコスメやファッション雑誌が散らばり、まるで最近オシャレに目覚めましたと言いたげな様相をしている菜畑家の小鳥の部屋に、彼女の情けない言葉が響く。
「た、助けて拓海……」
ローテーブル越しに座る拓海は腕を組み、険しい顔でため息を吐く。
小鳥はフローリングの上にペタンと女の子座りをし、びくびくと肩を震わせ猫背になりながら、上目遣いでおどおどとこちらに助けを求めてくる。
教室とはまるで違う様子の彼女に、拓海は痛むこめかみを押さえながら問い質す。
「……今度はどうした?」
「じ、実は今日、放課後、フタバに行こうって……」
「フタバ? あのコーヒーチェーンの?」
「そう、そのフタバ、金魚モールの。新作の……確かストロベリーミックスミルクなんちゃらが出たから……」
「あれか。そういやSNSのプロモーションとかでも流れてたっけ。それなのに、何故家に?」
「よ、用事済ませてから、行く。待ってもらってて、その……」
歯切れ悪く俯く小鳥。
なんてことはない、普段一緒につるんでいるグループの子たちから、放課後フタバに行こうと誘われただけらしい。
ちなみに金魚モールは、二百以上の専門店とシネマコンプレックスを擁するこの近隣最大の商業施設だ。拓海と小鳥も幼い頃からちょくちょく利用している。
拓海は「はぁ~」とこれ見よがしに大きなため息を吐き、つっけんどんに言い放つ。
「行ってくればいいだろ」
すると小鳥は目尻に涙を浮かべながら早口で言う。
「む、むむむ無理っ。一軍女子の子たち、声大きいし、強引だし、あ、あたし、取って食われちゃう……っ」
「いや食われないって。ていうか小鳥も今やその一軍女子の一人だろうが」
「そ、そう、だけど……」
ジト目で呆れたように睨む拓海。
本来の小鳥は臆病で自己肯定感も低い。学校での言葉少ない姿は、ただの口下手だというのを誰が想像できようか。男子の間で密かに孤高の氷姫と呼ばれ憧れているこの姿がバレれば、皆にどう思われることやら。
小鳥はなおも言い訳を紡ぐ。
「フ、フタバなんて、キラキラしたとこ、行ったことないし、怖い。……それにフタバって、注文で、呪文とか、唱えなきゃ、でしょ? あたし、まだ練習中で、ようやく、ショートホワイトモカノンファットミルクディカフェ、暗記した、だけだし……」
「お、よく詰まらずに言えるな。ほんとに呪文みたいだ、すごいぞ」
「え、えへっ。そうかな……?」
拓海が小鳥の呪文を褒めれば今度は一転、照れくさそうに緩めた頬を掻く。
なんともチョロい反応に、拓海は苦笑しながら言う。
「うんうん、それだけスムーズに唱えられたら大丈夫だろ。胸張って行ってこいよ」
「で、でもでも、今日は新作、目当てだから、この呪文、使えないし……」
「新作なら、とりあえず基本の味を試すってことで呪文唱えなくていいんじゃ?」
「うぐっ……けどその、フタバ、初めてで怖い、恥ずかしい、というか……い、
そう言ってより一層顔を赤くした小鳥は、もじもじしつつ上目遣いで、おそるおそる訊ねてくる。
傍から見れば、可愛いらしいおねだり。そして拓海も何を求めているかはわかっている。
「
「う、うん」
この場合のルーティンとは、スポーツやビジネスの分野で、決まった所作、動作を繰り返すことにより緊張や不安を取り除き、精神の安定を図るメンタルコントロール法である。
元来気の弱い小鳥には、こうして一軍女子と遊びに行くとか、緊張したり勇気を出すことが必要な時に、必ずしているルーティンがあった。
拓海はその協力者だ。これが初めてというわけじゃない。
だというのに拓海は渋い顔を作り、しかしごくりと喉を鳴らしながら確認する。
「どうしても?」
「ど、どうしてもっ」
「……」
「……」
熱い視線がむず痒そうに絡み合うことしばし。
互いの頬がどんどん熱くなっていく。
にかわに部屋の温度が、初夏を先取りしたように暑くなるように感じる。
拓海はふいに目を逸らし、ぶっきらぼうに言った。
「わかった」
「んっ」
すると小鳥はこくりと俯き、ギュッとスカートの裾を握りしめた後、膝立ちになってベッドに移動する。
小鳥は少しの躊躇いの後、スカートの両脇から腰の上へと手を這わせ――ズルリと下着を膝まで一気に引き摺り下ろし、消え入りそうな声で囁いた。
「お、お願ぃ……」
「……おぅ」
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