僕らの日常

もちもちハクト

『兄妹よりも…』

これは、ハクトがまだ東京の家で暮らしていた頃のお話。雪乃の友達が遊びに来たときのことである。


「いらっしゃーい!ようこそ我が家へ!」


雪乃ちゃんは元気よく私…天崎楓を迎え入れてくれた。私がソファに座ると、雪乃ちゃんがオレンジジュースの入ったコップを渡してくる。ありがたく受け取り、ジュースを飲む。


「楓ちゃん楓ちゃん!今日はせっかくのお泊まり!何して遊ぶ?」


「も~、テスト勉強するってお泊まりしてるんでしょー」


すぐに遊ぼうとする雪乃ちゃんにお仕置き…ほっぺを軽く引っ張る。

雪乃ちゃんはんにゃ~と可愛い声を出し、私の手を受け入れる。

そのまま楽しく雪乃ちゃんと触れ合っていると、2階から誰かが降りてきた。


「ん?雪乃、その子はお友達?言ってくれたら家を空けといたのに」


「ダメです!兄さまは身体が弱いんですから!気を遣わずに家でゆっくりしてください」


パタパタと雪乃ちゃんのお兄さんに駆け寄り、身体を支える。

お兄さんはありがとうと言いながらも、雪乃ちゃんの助けを借りようとしない。


「ほら雪乃、お友達と勉強するんだから、僕に構う必要はないよ、雪乃ほどじゃなくても、家事はできるからさ」


優しく話し、頭を撫でるお兄さんを見て、なぜか私の胸の鼓動が高鳴りました。

そして、私のことも甘やかしてほしいという思いが、私の頭を支配する。


「珈琲くらい、1人で淹れられるって」


「うー…なら私、ホットミルクでも作りますので、隣に居てもまぁ~ったく!不自然じゃありませんよね?」


「はいはい」


並んで作業する2人。

その光景は兄妹よりも…もっと深く繋がった関係に見えて…

咄嗟に視線を逸らしてしまう。


(いいな…雪乃ちゃん、お兄さんと一緒に居られて、でも雪乃ちゃんは妹!私にもチャンスはあるよね!)


これから私もお兄さんにアピールしよう!

そう思っていたが、そこから間もなくお兄さんが入院することになったと雪乃ちゃんから聞かされた。

お見舞いに行きたかったが、雪乃ちゃんの元気のない姿を見てしまうと、邪魔しちゃ悪いと遠慮してしまった。


「お兄さん、大丈夫かな…」


2年後、お兄さんがトラックに撥ねられたと知り、私は世界の残酷さに絶望した。

間もなく東京ごと別の世界へと転移した。

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