山田さんの作戦がぶっ飛んでるんだけど
未来さんを落ち着かせる。
彼女はまだ不機嫌だ。
自分の写真が勝手に流出し、しかもクラスメイトに金儲けの道具として使われたんだから、気持ちはわかる。
「話が少々脱線しましたが、ファンクラブのメンバーに不逞の輩がいるのは大問題ですからね」
山田さんはアイスティーを一気に飲み干すと、
「私も脅迫犯を見つけるのをお手伝いしましょう」
と言った。
「いや、いいよ」
素直に断る。
山田さんが絡むと、猛烈に嫌な予感しかしない。
「上里さん。人の好意は素直に受け取るものですよ?」
「好意というか……なんというか。絶妙な悪意を感じる」
「僕もそう思う」
ファンクラブの一件以来、未来さんの山田さんへの警戒心はマックスだ。
――信用って、壊れるときは一瞬なんだなぁ。
そんなことをしみじみと感じていると、
「私は純粋な善意ですよ」
と、淀みのない表情で言いきる山田さん。
「本音は?」
「実際に脅迫犯を捕まえて“粛清した”という実績を作りたいですね」
「実績?」
「はい。何事にも前例というものを作っておくと、その後がいろいろとスムーズに進みますからね」
「計算高すぎるよ……」
――え、何この人、怖い。
「上里さんと松山さんが協力を受け入れてくれなくても、私個人で探すので別に問題はないんですが」
「そ、そうか……」
これはどうしたものか。
何も知らないところで変なことをされて、トラブルに巻き込まれるのは勘弁だ。
というか、そもそも俺がこんな騒動に巻き込まれている原因は他でもない、この人だ。
文化祭で俺をハメて、クラスメイトの前で女装なんかしなければ……。
まあ、それがなかったら、未来さんとこうして仲良くなることもなかったわけで。
なんか、複雑だ。
考えた末に、
「わかったよ。それじゃあお願いするよ」
と、山田さんの提案を受け入れることにした。
知らないトラブルに巻き込まれるより、知ってるトラブルに巻き込まれる方が幾分マシだ。
「任されました」
未来さんが口を開く。
「それで山田さん。協力するからには、何か案があるのかな?」
「もちろんです。私に任せてください。全部うまくいきますから」
というか、この人キングダム好きだろ。
とはいえ、山田さんだ。
桓騎将軍もドン引きするようなアイデアを出してきそうだ。
「ちなみに、何をするつもりなの?」
不安になって聞くと、山田さんは得意げに口を開いた。
「そうですね……まずは松山さんと上里さんを教室でイチャイチャさせます?」
「あっ?」
「えっ?」
その場の空気が固まる。
「ちなみにイチャイチャの内容とは?」
「そうですね。校内で抱き合ったり、キスをしたり」
「却下だ却下! そんなことできるわけないだろ!!」
ぶっ飛んだ提案に、思わず声を荒げる。
「そ、そうだよ! まだ付き合ってもないんだからさ!」
未来さんも全力で否定。
「でもこれが一番いい方法だと思うんですよ。嫉妬心を煽って、犯人を目の前に引きずり出す。その瞬間に一斉確保。それで解決です」
――なんだよこの、回ればなんとかなるみたいな脳筋作戦は。
「めちゃくちゃ脳筋な方法だな……確かに解決するかもしれないけど無理だ。俺たちに危険が及ぶ可能性があるから却下」
「ふむ、そうですか」
顎に手を当てて考える山田さん。
こうしているだけなら、マジで知的な委員長キャラなんだけどな。
この見た目で言動がぶっ飛びすぎてる。
傍から見てる分にはおもしれー女で済むけど、実際に関わるとだるいタイプ。
「というかさ、文化祭で俺に女装させたみたいな、もうちょいスマートな作戦はないの?」
「ふむ」
そもそも文化祭のとき、お店の材料が切れるトラブルを仕込んだのも彼女だ。
男子全員を外に出して、俺に女装を披露させるという完璧な作戦を立ててきた。
絶対、もっといろいろな方法を思いつくはずだ。
「そうですね……地味ですが、上里さんと松山さんにいつも通り接してもらって、犯人が動くのを待つしかなさそうですね」
「やっぱそうなっちゃうか」
「仕方ないか」
この作戦に未来さんも同意してくれている。
「でも、脅迫犯に襲われるるリスクも結構あるんじゃないのか?」
「その心配はないですよ」
「どうして?」
山田さんは眼鏡をキラリと光らせて、
「私の精鋭部隊たちが、お二人をお守りしますので大丈夫ですよ」
「精鋭部隊ってなに?」
「決まってるじゃないですか。ファンクラブのコアメンバーです。彼女たちは松山さんに学校生活を捧げていますからね」
山田さんレベルにぶっ飛んだ連中のようだ。
とはいえ、部隊と聞いて真っ先に思い付いた感想は、
「へぇ……なんかCQC使えそうなメンバーだね」
「使えますけど?」
「えっ?」
山田さんの発言に目を丸くする。
「精鋭部隊の方々は全員、CQCを扱うことができます」
「えー、あのメタ◯ギアでよくやるやつだよ?」
普通のJKがCQC使えるってどんな世界線だよ。
「未来さんを守るために、さまざまな武術に長けた人も多いんですよ」
「いや、どんなやつだよ……」
今まで押し黙っていた未来さんが口を開いた。
「それって……演劇部の公演に毎回来てくれる人のことかな?」
「そうです」
知っていたのか。
「いつも最前列にいる人でさ、そんな人だったんだね」
「というわけで、お二人とも、しばらくは普通に過ごされても大丈夫ですよ」
「あっ、うん。というか、もうバイトの時間だ」
話に夢中になっていたせいで、もう始業時間ギリギリだ。
未来さんとダッシュで店を出る。
「ねえ、なんで山田さんもいるのかな?」
「せっかくですので、お二人の仕事ぶりを眺めようかと」
「えぇ……」
――このあと、山田さんが未来さんを隠し撮りしてトラブルになったのは、また別のお話。
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