義妹とのデート前編

 アリスとの買い物からしばらくたった。

 ついに美咲と出かける日がやってきた。


 本音を言えば、休日くらいゆっくり寝ていたい。でもまあ、たまにはこうして美咲と出かけないといけない事情があるのだ。何もしないで放置していると――


(絶対にウォーターガーデンに突撃してくるからな……)

 そして、例によって豪遊していく。あの使いっぷり、将来絶対ホストとかハマりそうで怖いんだが。


 まあ、せめて自分の目の届く範囲では豪遊させないようにしないと。


 リビングに向かうと、美咲とすれ違った。

 その姿を見て、思わず「おっ」と声が出そうになる。


 美咲はいつもナチュラルメイクくらいで、がっつりと化粧をするタイプではない。

 だが、今日はいつもより、かなりオシャレしてる。


 ユウちゃん(俺)とのデートに気合い入りすぎじゃありませんかね??


「おはよう、美咲さん」


「……おはようございます。悠馬君」


「今日は俺遊びに行ってくるから、夜の七時くらいまでは帰ってこないよ」


「……私もです。あの、私、そろそろ出ますね」


「えっ?」


 時計を見る。まだ朝の九時だ。

 待ち合わせまでは3時間は余裕があるはずなのに。


「……どうしました?」


「あっ、いや、何でもない。気をつけてね」


 義妹を見送りながら、俺は確信した。

(――これ、絶対待ち合わせに早く行くパターンだな)


 となると俺もゆっくりとはしてられない。


 さっさと身支度を整えて、ウォーターガーデンへと向かった。





「お疲れ様です。アリスさん」


「おっ、ユウちゃん。今日はお仕事じゃないデスよね?」


 メイド服姿のアリスがカウンターから顔を出す。


「今日はちょっと野暮用でして。ええと、美咲とのお出かけです」


「あっ、ミーちゃんさんとのデートデスね♪」


「ちょっと更衣室、借りますね」


 いつものスタッフ用更衣室を借りて、着替えを開始する。

 こうしてプライベートで女装するのは、今日が初めてだ。バイトとは違う、完全なる私服コーデ――。


 よし、完了っと。

 うん、いつも通り可愛い。

 私服もいけるじゃないか俺。


「おお〜、ユウちゃん! やっぱり私服も可愛いデスね〜!」


「あはは、ありがとうございます。これもアリスさんのセンスのおかげですよ」


「そうデスね。ただ惜しむらくは――」


 アリスが意味深に俺の下半身へ視線を向ける。


「な、なんですか!?」


「いえ……下着も女性ものなら完璧だったのに、と思いマシタ」


「さすがにそれは……!」


 実はこの前ショッピングモールに行ったときも、アリスから女性用下着を勧められたがそこだけは、なんとか死守した。最後の砦は死守しなければならない。


 下着まで女性物にしたら、男として大切な何かを失う気がするからな。





ウォーターガーデンを後にして、待ち合わせ場所に向かう。

すでにそこには美咲がいた。

案の定待ち合わせ時間よりも早く来ていた。


「あっユウちゃん」


楽しそうに手を振ってくれる美咲。


「すみません。お待たせしました」


「大丈夫です。今来たばかりですから」


「なんか今のセリフカップルみたいですね」


「えっ」


照れる美咲。

照れ隠しに、美咲は言う。


「そっそのどこか行きたい場所はありますか?」


「えーっと」


しまった考えていなかった。

女の子はどこに行けば喜ぶのだろうか?

女の子と出かけたことは無いから、ほとんどわからない。


いや、まてこれはある意味チャンスなのでは?

俺は今、悪魔的ひらめきを思いついてしまった。


「あっ私おすすめのお店あるんですよ。行きましょう!」


「ユウちゃんのオススメのお店私も知りたいです」


俺の提案に食いつく美咲。


「すごく美味しい飲食店があるんですよ!行きましょう!」


「はい!」


美咲はどこか期待をする顔になっている。

ごめんね、その期待は裏切られるんだよ。





「ここですか?」


「そうなんです。ここ、私のおすすめのお店でして。」


 そう言って、俺たちは今、地元でも有名なラーメン屋に来ていた。

 この店、吉田とよく通っている店で、いわゆる二郎系ラーメンってやつだ。

 脂とニンニクが溢れんばかりに盛られ、マシマシ文化が支配するこの世界に、女子が足を踏み入れるなど想定外――普通なら。


 正直に言おう。

 女子とのデートでここを選ぶ俺は、客観的に見て馬鹿だ。頭がおかしいと言われても仕方ない。

 だが、これが俺の作戦なのだ。


(ここで美咲がドン引きしてくれれば、自然に距離を取れる……!)

 つまりは好感度ダウン作戦である。

 だが、俺の期待は、次の瞬間あっさりと裏切られた。


「いいですね!」


「……へ?」


 まさかの好意的リアクション。

 俺の脳内で「作戦失敗」の赤ランプが点滅する。


「私、普段こういうお店には来ないので、新鮮です」


「よ、喜んでもらえてよかったです……」


 どうやら美咲は、好きな人の好きなものは私も好きなタイプだ。

 ……これは、予想以上に手強い相手かもしれない。

 そうして俺たちは昼食をとるのであった。


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