hydracyanodide
有理
hydracyanodide
「hydracyanodide」
釘崎 アリス(くぎさき ありす)
藤野 ひかり(とうの ひかり)
洞木 まりあ(うつぎ まりあ)
原野 俊之(はらの としゆき)
※途中エチュード(即興劇)をする場面があります
原野「藤野。お前はいつまで昔の男を引き摺ってんだ。」
藤野N「がちゃん、と置かれた銀の皿」
原野「そして洞木。媚び売り散らす偽物はいい加減やめたらどうだ。お前は役者に向いてない」
洞木N「人気女優には似つかわしくない雑多な居酒屋の個室」
原野「釘崎。お前は、いつ見ても小綺麗で不細工だな。お前こそ、嫌味のようなアイドルは辞めて、役者になれ」
釘崎N「蛍光灯に照らされた脂が私たちをみていた。」
原野(たいとるこーる)「hydracyanodide(ハイドラシアノシド)」
釘崎「お疲れ様でーす」
藤野「釘崎さん、お疲れ様です!昨日の特番観ました!生放送!新曲!衣装可愛かったです!」
釘崎「あ、ありがとうございます!藤野さん歌番組とか見るんですね、意外です」
藤野「え?そうですか?」
釘崎「お芝居しか興味ないんだと思ってました」
藤野「あ、…はは、えーいやいや、ははは、見ますよー!」
釘崎「私はあっちが本職なので。」
藤野「キラキラしてて、アイドルって素敵ですね。」
釘崎「…はは。そうですね」
藤野「でも、釘崎さんもお上手じゃないですか」
釘崎「え?」
藤野「お芝居!」
釘崎「…え?」
藤野「私前から、」
洞木「お疲れ様でーす!」
藤野「あ、洞木さんお疲れ様です!」
洞木「ひかりさーん、アリスさーん!お疲れ様でーす!えー!今日のケータリング監督からなんですかー?監督趣味悪いからつまんなくないですかー?」
釘崎「お疲れ様です」
藤野「えー!美味しいですよ?スペアリブ。原野さんと初めてご飯に行った時も勧められました私」
釘崎「あー、私もです」
洞木「えー!何ですかー?それ!登竜門?あははは!年頃の女の子に肉の塊勧めるおじさんって心境どうなってるんですかそれ」
藤野「…」
釘崎「…?」
洞木「あ、ひかりさん台本大幅に書き替えあるって聞きました?さっき脚本家と監督と揉めてて。」
藤野「そうなんですか」
洞木「あっさり」
藤野「まあ、よくありますから」
洞木「さすが、慣れてますねー」
藤野「よく一緒にお仕事させてもらってますし、原野さんの強情さは洞木さんも知ってるんじゃないですか?」
洞木「噂は予々」
藤野「すんなり話し合いが終わるといいですねー。」
洞木「アリスさんは?原野監督とは」
釘崎「私はドラマは一度だけ。MVで何度かお会いしたことあるくらいかな?」
洞木「ドラマ一回だけ?」
釘崎「はい」
藤野「意外ですよね」
洞木「なんかもっとお芝居してるイメージありましたよ!」
釘崎「あ、それって多分MVの前に撮るミニドラマのせいですよ。テレビで流れることあるから。」
洞木「あー、そうかもしれないです」
藤野「そうじゃなくて、あ、世間的にはそうかもしれないですけど」
原野「ご歓談中、申し訳ない。」
3人「っ、お疲れ様です!」
原野「ああ、お疲れ様。今回のドラマ引き受けてくれてありがとう。改めて見ると異色の組み合わせだな。」
藤野「原野さんが組んだんだって聞いてますけど?」
原野「そう。」
洞木「えー!嬉しいですー!光栄です!ありがとうございまーす!」
原野「洞木さんは初めてだよね。連ドラ。」
洞木「はい!もうひかりさんもアリスさんも売れっ子なのでそんな二人と組んでもらえるなんて嬉しすぎてお話もらえた時びっくりしちゃって!」
原野「うん。役に合ってたから。」
洞木「…へー。」
原野「本もう読んだ?」
洞木「はい。」
原野「どう?合ってたでしょ?」
洞木「えー?そうですかね?でも役作りは頑張りましたよ?」
原野「はは。それは楽しみだ」
藤野「原野さん、本読み。時間きてますけど」
原野「ああ、そう。これ、藤野」
藤野「…書き換えですか」
原野「少しだけだから。」
藤野「だから作家や脚本家に嫌われるんです。」
原野「痛いとこつくな。」
藤野「人の気持ちを考えられない人間は人でなくなるんですよ」
原野「ブーメランでお返しするよ藤野」
藤野「な、」
原野「そして、これはお前の」
釘崎「え。」
原野「書き換え分」
釘崎「いや、困ります。私は役者さんではないので。じゃあ今日の本読みはお時間いただきたいです。」
原野「お前のたった一セリフを変えたくてこいつのシーンから全部を変えたんだ。」
釘崎「そう言われましても」
原野「時間はとるよ。俺は鬼じゃない。」
藤野「嘘ですよ。鬼ですよ」
原野「藤野」
藤野「ふん」
原野「じゃあ、15分後にまた来る。」
洞木「…原野監督って、なんか。野蛮ですよね。」
藤野「野蛮?」
洞木「なんていうかー。ずかずか人の領域に入ってくるっていうか。」
藤野「でも、感情表現は苦手?な方ですよね。不器用って言うのかなんて言うのか。元々役者志望だったって聞いたこともあるのでどうなんだろうって感じするんですけど…」
洞木「えー?そうなんですか?なんか意外。初めから監督なのかと思ってた。」
藤野「ほら、原野さん足を怪我されてるじゃないですか。その怪我が原因で転向されたらしくて、それまではお芝居やられてたって。」
洞木「あんまり伸びなかったんで転向したんですかね?でもまあ監督業で大成功されてるわけだし怪我してよかったんじゃないですかー?」
藤野「…夢をそういうふうに言うのは、あんまり良くないと思う」
洞木「はは、悪く聞こえちゃいました?すみません」
藤野「いえ、こちらこそ。ムキになっちゃって!ごめんなさい!」
釘崎「お待たせしました。藤野さん、読まれますよね、台本。」
藤野「あ、ううん。大丈夫、目は通しました。」
洞木「えー、すごーい。」
釘崎「さすが人気女優は場慣れ感ありますね」
藤野「原野さんは書き換えが多すぎるので、さすがに」
釘崎「洞木さんもバラエティ番組多いから咄嗟の返しとかいつもお上手ですよね」
洞木「アリスさんそんなとこ見てたんですか!」
釘崎「え?なんか意外でした?」
洞木「いつもDM送っても反応塩だから、あんまり私印象残ってないのかと思ってました」
藤野「DM?」
釘崎「共演後いつもDMくれるんです。洞木さん。マメですよね」
藤野「偉い!偉すぎます!」
洞木「だって、同世代って本当貴重だし仲良くしたいじゃないですか!」
釘崎「私結構、洞木さんには返してる方でした。あんまりそういうの習慣なくて。」
藤野「あー、釘崎さんそういうイメージあるかもですね。アイドルだけどストイックなイメージだから練習とかで毎日忙しそうだし」
洞木「じゃあ私結構、優遇されてたって思ってていいんですか?」
釘崎「そうですね」
洞木「よかったー!」
藤野「なんか、ちょっと女子寮っぽくって楽しいですね!」
釘崎「でも、今からやるお話って」
原野「さて、そろそろ本読みをしようか」
______
洞木「お疲れ様でしたー」
釘崎「お疲れ様でした」
藤野「お疲れ様でした!」
原野「お疲れ様。お前達、夜飯どう?」
藤野「はい、私はご一緒させていただきます」
洞木「私も!」
釘崎「私は、」
原野「お前は来い」
釘崎「え?」
原野「お前、2キロ減っただろ。先月会った時から。」
釘崎「…」
藤野「え、そうなの?」
洞木「アリスさんダイエット?」
釘崎「…ま、まあ」
原野「いいから来い」
釘崎「はあ、」
藤野「2キロって本当ですか?」(小声で)
釘崎「はい」(小声で)
藤野「なんで分かるんだろ」(小声で)
釘崎「さあ」(小声で)
藤野「ちょっと気持ち悪いですね」(小声で)
洞木「原野監督ってベストセラー作家の戸瀬知代子と関わりあるって本当ですか?」
原野「ん?なんで?」
洞木「私、結構情報通で。」
原野「古い知り合いだよ。彼女がまだ作家になる前からの、古い知り合い」
洞木「へー!それは本当に古い」
原野「どこで知ったって?」
洞木「えー?秘密ですよ。でもまあ強いて言えば私友達多いので。」
原野「はは。どこかの飲み屋で見られたかな?」
洞木「さあ?でも戸瀬知代子の顔なんて誰も知らないんじゃないですか?」
原野「確かにな。あんな顔、なかなかに忘れないさ」
洞木「へー。そんなお顔なんですか?」
原野「ああ。」
洞木「でも監と」
原野「着いた。」
洞木「え」
藤野「またここですか。」
釘崎「…」
洞木「え、ここチェーン店だし。」
釘崎「でもまあ、個室はありますから」
洞木「いや、でも」
原野「予約した原野です。」
藤野「原野さんは…あ、」
釘崎「毎回ここですよね。飽きもせず。」
洞木「あー。例の登竜門。」
原野「ほら早く入れ。目立つんだから。」
藤野「では、改めてお疲れ様でした。そしてどうぞよろしくお願いします!」
釘崎「え、は、はい」
洞木「お願いしまーす!」
原野「お疲れさん」
藤野「いやー、今回のお話はギスギスしてとっても楽しそうで!深夜感があって!私とってもとっても楽しみです!」
洞木「藤野ひかり、釘崎アリスを集めておいて深夜枠っていうのがまた…。ギャラ保つんですかー?って感じです」
原野「保つよ。藤野はギャラ安いからな」
藤野「え?!安いんですか?!」
原野「安いよお前」
洞木「私と大差無かったりしてー?」
原野「それに比べてお前だよお前。たっけーのなお前」
釘崎「わ、私ですか?」
洞木「そりゃアイドルですから!CM何本出てると思ってるんですか!」
原野「このドラマの予算のほとんどはお前だよ釘崎」
釘崎「いや、キャスティングしたの原野監督ですし、ギャラ組んでるのも事務所ですから」
藤野「え、私こんなに出てるのに安いんですか…」
洞木「でもーアリスさんってアイドルっぽくないですよね?ソロ活動多いし!」
釘崎「今多人数のアイドルの方が圧倒的ですからね。事務所側も逆をつきたかったんでしょう。」
原野「でもお前向かないだろ。集団行動?」
釘崎「…それなりにちゃんとやれます。」
原野「どうだかなー」
藤野「月9にも火10にも出てるのに?主演も映画もやったのに?安いんだ私」
洞木「ほらほら、ひかりさんもそろそろ戻ってきてー」
原野「あ、そうだった。あのさ。やりたいシーンがあったんだ。」
原野「お前達、エチュードって分かるだろ?」
原野「どれぐらいやれる?人前で。どれぐらいやれる?」
藤野「…やれますよ。私以外見られなくなるくらい」
洞木「…」
釘崎「…私は、女優ではないので。できません。」
洞木「やれます。私は。」
原野「今からここで何か…あー、そうだな。頭と締めだけ決めるから着地までやってくれ。釘崎、お前もやれ。頭のセリフは藤野から、締めのセリフは釘崎お前が言え。」
藤野「はい。」
原野「頭のセリフは“久しぶり”、締めは“死ねよ”」
洞木「はい。」
原野「お前達は同窓生だった。それだけの情報で数分やれ。」
釘崎N「先程までの和やかな空気が消し飛んだ。左に座っていた人気女優は目を爛々と輝かせたただの獣と化し、向かいに座る未だ苦手なこの女優もキッと目を見開いている。ああ、私だけだ。ここに相応しくないのは、私だけだ。」
藤野「“久しぶり”」
(以下、数分間エチュードを行ってください)
釘崎「“死ねよ”」
洞木N「…圧倒された。食ってかかった私に藤野ひかりは翻弄されることもなく、始めやる気もなかった釘崎アリスを焚き付けた。ここはただの、藤野ひかりの独壇場だった。」
原野「興醒めだ。全く面白くない。」
藤野「え?」
原野「藤野。お前はいつまで昔の男を引き摺ってんだ。」
藤野「な、何言ってる、んですか、原野さん。ちゃんと、やりましたよ。私、今篠くんの事なんて何も、」
原野「そして洞木。媚び売り散らす偽物はいい加減やめたらどうだ。お前は役者に向いてない」
洞木「は?」
原野「釘崎。お前は、いつ見ても小綺麗で不細工だな。お前こそ、嫌味のようなアイドルは辞めて、役者になれ」
釘崎「…」
原野「明日、カメラの前でやらせるからな。今みたいな生半端なものやめとけよ。売れなくなるぞ。」
釘崎N「テーブルの真ん中に銀の皿。ギトギトの脂が光る。ガタン、と蕎麦焼酎のお湯割りグラスと2万円をテーブルに置き原野監督は足を引き摺って帰って行った。」
洞木「…何あれ」
藤野「…」
釘崎「…こんなにここの会計いかないですよね。」
洞木「いや、そうじゃないでしょ」
藤野「…」
釘崎「食べます?脂、固まりますから。」
洞木「え、いや」
藤野「食べます」
洞木「え」
釘崎「いただきます」
藤野「いただきます」
洞木「…いただきます」
______
原野「もしもし。お疲れ様。明日、言ってたシーン、先に撮っていい?あのアドリブのシーン。焚き付けておいたから。3人。」
原野「ああいうのは群れ合う前に撮っとかないと。殺伐としないから、勿体無いから。」
原野「はは、これで藤野ひかりはもっと売れる。あと、釘崎アリスの事務所に連絡してアイドルから転向できるか掛け合ってって言っといた分どうなった?…まだアイドル続けさせるって?ははは、無謀だね。もうあいつは無理だろう。そろそろ化けの皮剥がれかかってる。あいつも藤野と同じ、化け物だって。」
原野「何?俺が化け物だって?違う。女の方が何倍も怖い生き物なんだから。女は男とは全く違う生物だよ。獰猛だ。覚えておくといい。」
______
藤野「篠くん。こんばんは。今日ね、新しいドラマの本読みしてきたよ。そしたら、原野さんが夕飯行こうって私と他に共演の女優さんと4人でね行ったの。そしたらねエチュードしろって急に言うから楽しくなっちゃってやったの。思いっきりやったの。そしたら他の2人もしっかり入ってくれて楽しくってね。」
藤野「でもね、終わったら原野さんにつまらなかったって、言われちゃった。いつまでも過去を引き摺ってるって。違うのに、違うの。そんなことないのに。違うよ、だって違うのに。篠くん、違うよ?私、だって、私達が出会えなかったらまた、出会えてなかったら私今ここにいないんだもん。」
藤野「あ、でも、そしたら、篠くんが、ここにいるかもしれないのか。あ、そうか。ああ、やっぱり、でも、ああ、やだ、違う。ね、篠くん、篠くん。…」
藤野「…毎回、出てくれなくてもいいんだよ。電話。」
______
釘崎「タバコ、179番2カートンお願いします。」
釘崎「もしもし。あや?今日はビジホ泊まる。いやドラマの台本覚えたいし。ううん、深夜枠だからそこまで人気出ないんじゃない?結構題材重いし。なんで事務所受けたんだろって感じ。」
釘崎「てかさ、今日共演者達とご飯行ったの。無理矢理だったんだけどさ。ああ、吐いたよ。今から食べる。久しぶりに不細工だって言われた。はは、この顔の、どこがだよって感じ。別に愛着があるわけでもないからさ今更この顔にケチつけられても何ともないけど、どこ変えたらいいか分かんないよねー。監督に。そう。目かな、キツすぎるってこと?吊り目すぎ?でも今更タレ目にさせても顔割れすぎてダメだよね」
釘崎「アイドルも向いてないってさ。いや、分かってるけど、辞め時分かんないし。役者になれだってさ。無理だろ、無理だよ。こんな嘘まみれの顔でさ、アイドルにはある程度賞味期限があるけどさ役者はないじゃんね。無理だって。バレちゃうって偽物だって。」
釘崎「ね。あや。私、今どんな顔してんだろ」
______
洞木「こんばんはー。まりあです。監督お元気ですか?藤野ひかりさんと今度一緒にドラマ決まって!そうなんですー!あの、それで一つ聞きたくて!あの、篠さん?って方ご存知…あ、あー!三賀屋篠さん!あ!あの劇団の!あ、知ってます知ってます。今日お話に出たんですけど遮って聞けなくって!ありがとうございます!…え、そうだったんですか?それ噂?へー。もちろん、秘密にしますよ。ありがとうございます。…はい、また今度。」
洞木「こんばんは、杏香先生。まりあです!この前はお邪魔しました。頂いたお紅茶とっても美味しくって家でもアプリコットジャム入れて飲んでみたんですけど何か違うんです。淹れ方また教えてください。ありがとうございます!え、そうなんですか?資生社の中でゴーストライター?えー!事件じゃないですか。週刊誌でますねきっと!また近々お会いしましょう?はい!是非!」
洞木「もしもし、花?私。あいり見つかった?なんでよ!見つけてって言ってるじゃない。この前劇場で捕まえておけばよかったのに。探して。多分どっかの劇団には入ってるだろうから。目立つ火傷作らせてるんだから分かるでしょ!何のためにあんなことしたと思ってんのよ!見つけたらすぐ連絡してね!」
洞木「…ちっ。どいつもこいつも…。」
______
原野「おはよう」
洞木「おはようございます。」
釘崎「おはようございます」
藤野「おはようございます!よろしくお願いします!」
原野「さて、昨日言ってたシーンから撮ろう。段取りはしてある。」
釘崎N「ローテーブルにソファー。可愛らしいクッションや小物、ここは藤野ひかり演じる役の部屋である」
洞木N「シーンは単純に女3人の言い合いだ。ひかりさんは元カレを引き摺って未だに前に進めないでいる役、アリスさんはコンプレックスだった顔をフル整形した役、そして私はそんなアリスさんを学生時代こっ酷く虐めていた役だ。」
藤野N「どうしてこの3人がこの一部屋に集まったのか。それはゲリラ豪雨のせいだった。同窓会が終わり突然の雨にタクシーも捕まらず帰れないでいた2人に藤野役が声をかけ家に招き入れたのがことの始まりとなる。シャワーを各々済ませルームウェアを貸しホッと一息ついたところからシーンが始まる。」
___
(藤野役→ヒカリ、釘崎役→レイコ、洞木役→アイリ)
ヒカリ「それにしても、本当久しぶりだねー!」
アイリ「それ、同窓会の時も言ってたよ。でもありがとう本当に助かったー!まさかこんなに雨降るなんてついてないー」
レイコ「本当。ヒカリちゃんありがとう」
ヒカリ「いいのいいの!困った時は何とかって言うし」
レイコ「こんな雨じゃホテルも埋まっちゃってただろうから」
アイリ「ヒカリちゃん1人暮らし?広いよね?この部屋」
ヒカリ「あー、うん。この前まで2人暮らしだったんだけど別れちゃって」
レイコ「え、あー、ごめん、」
アイリ「え?何で謝るの?」
レイコ「え、だって」
ヒカリ「いいのいいの!気にしないで!」
アイリ「そうだよ!ね?何で別れちゃったのー?」
レイコ「ちょっと、アイリちゃん、」
ヒカリ「あはは」
アイリ「なんで?もう終わった話なんだから!いいでしょ?ね?」
レイコ「…」
ヒカリ「うーん、何でなんだろうー?私は分かんない、かなー?」
アイリ「あー、未練あるんだ」
ヒカリ「未練、っていうか」
アイリ「ひかりちゃんのせいなんじゃない?」
藤野「え?」
アイリ「だから、ひかりちゃんのせいなんじゃない?」
レイコ「アイリちゃん、」
藤野「私のせい?」
アイリ「だっていなくなっちゃった理由も分かんないんでしょ?」
藤野「…理由は、私」
アイリ「ねー?ほらやっぱり。」
レイコ「やめなってば」
アイリ「え?やだ怖い顔。レイコちゃん怖いよ?顔」
レイコ「…」
アイリ「せっかく可愛い顔なのに怖いよ?」
レイコ「嫌がってるでしょ。ヒカリちゃん。見てわからない?」
アイリ「え?そうだったの?ごめんね?」
藤野「あ、いや、」
レイコ「謝る気ないでしょそれ、今の。ごめんね?ってやつ。」
アイリ「は?」
レイコ「押し付けって言うんだよ。今の。」
アイリ「何それ、関係ないじゃん。ヒカリちゃんがいいって言うなら別にいいじゃん。押し付けでもね?いいじゃんね?」
藤野「わ、私は、私のせいじゃなくて、」
アイリ「まだ言ってるよ」
レイコ「ちょっと」
藤野「私は、私は!好きなものを、優先しただけで!両方好きが許されなかっただけで!でも!それが許されなかったのが」
アイリ「何言ってんの?訳わかんないんだけど」
藤野「私の好きだった人は、私の好きなものが好きで、好きなものが一緒で嬉しいねって。それだけで良かったのに、でも優劣つくそれが私達の関係をどんどんダメにして、でも私はそれでも楽しくて楽しくてやめられなくて」
レイコ「ヒカリちゃん」
藤野「ダメだったんです。それじゃあ、私ばっかり輝いちゃ、ダメだったんです!どんどん彼をどん底に突き落として。でもまだ好きで、まだ一緒に、好きなのが一緒で嬉しいねってやりたくて私、」
アイリ「はは、やっぱりヒカリちゃんのせいじゃんか」
レイコ「だから」
藤野「だから、私、あなたみたいな生半可な人が大嫌いです。」
洞木「何」
藤野「あなた、そうやって周りの人を焚き付けて動かしてコントロールしてるつもりなんでしょうけど間違っていますよ。何にもなれない、一体1人で何ができるんですか?やってもらってお膳立ててもらって、何ができるんですか?」
レイコ「ヒカリちゃん、ちょっと」
洞木「喧嘩売ってんの?」
藤野「喧嘩?イジメよりずーっとマシですね。誰かに頼ってばっかりで死に物狂いで何かしたことありますか?今まで生きてきて。」
洞木「あるよ!当たり前でしょ!」
藤野「じゃあもっと、どうしてもっと!正々堂々と向かってこないんですか!どうして姑息なことばかりするんですか!勿体無い!勿体無いです!」
レイコ「ちょっと2人とも」
洞木「煩い!」
藤野「あなたもですよ。1人だけ蚊帳の外みたいな顔して。何笑ってるんですか」
レイコ「笑って…る?」
藤野「笑ってますよ。自分の顔、忘れちゃいました?」
岭子「…」
洞木「気持ち悪い。あんた、自分の顔も知らないの」
岭子「…忘れたよ。本当の顔なんか」
藤野「あなたのせいじゃないですか?」
洞木「人のせいにすんなよ、偽善者が」
藤野「ブーメランでも投げて遊んでるんですか馬鹿ですね」
岭子「煩い」
洞木「せっかく可愛い顔に変えてきたのに、台無しだねー」
藤野「顔は変えられますけど性格は変えられませんから困ったものですね。」
岭子「煩いんだよ。とっとと、」
岭子「死ねよ」
______
原野「もしもし。事務所NG?釘崎のとこ?あー。整形話はやっぱダメか。写真集より顔キマってたもんな。じゃあ、あのシーン脚本通りやってもらうことにするか。え?役者に?俺から言うよ。うん。」
原野「ああ、打ち解けたみたいだしいいと思う。すんなり撮影も終わるだろうさ。洞木まりあも枕営業しなくても良くなるんじゃないか?俺はそこまで使いたいとは思わないけど。」
原野「藤野に半年後のスケジュール確保させとけよ。映画入れる。いや、間藤恭平。映画化するって資生社が。…何?ゴーストライター?誰が。戸瀬?いや、違うだろ。誰?知らない。いや、俺読まないから本。」
原野「じゃあ、また。」
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