第34話 試練の果てに

 あれから、どれくらいの時間が経ったのか――もうわからない。いくつもの景色が過ぎ去り、数えきれないほどの敵を打ち倒した。ひたすらに、終わりのない戦いを繰り返してきた。


 そして今、目の前には――俺自身が立ちはだかっていた。


「……笑えねぇよ」


 立っていたのは、未来の俺。理想的なアヤト。誰にも頼らず、すべてを一人で切り拓いた存在。

 そいつのステータスが表示される。



【名前】未来アヤト

【ジョブ】―――

【称号】孤独な覇者

【レベル】1

【能力値】

HP:9999/9999

MP:9999/9999

筋力:7828

耐久:4830

敏捷:6927

知力:7601

精神:8925

器用:5830



 ……自分だから、ステータスが見えるってわけか。 見たくもねぇよ。

 絶望的な数値。でも、戦うしかない。


 一歩、踏み出す。拳を放つ――だが、そのすべてが見切られる。

 攻撃が空を切るたびに、倍以上の威力を持った反撃が返ってくる。


 しかも、あいつは一切の無駄な動きをしない。ただ静かに、こちらの攻撃を捌き、的確に打ちのめしてくる。

 まるで、自分が自分に否定されているような気分だった。


 反撃は痛い。苦しい。身体だけじゃない、心までが揺さぶられる。

 向こうからは攻撃してこない。こちらが動かなければ、傷つくこともない――それなのに、俺は拳を振るってしまう。


 俺が動くことで、自分自身を追い詰めていく。繰り出す拳が怖くなってくる。次にどんな反撃がくるのか、考えるだけで肩に力が入らなくなる。

 跳ね返ってくる衝撃を想像して、拳が鈍る。攻撃の軌道がわずかにズレた瞬間、無慈悲なカウンターが決まる。


 精神を削られるたびに、意識がぼやけていく。

 心が、折れかけていた。


『お前は、弱い』


 そう言われた瞬間、身体から力が抜けて、膝が崩れる。

 気づけば地面に手をつき、這いつくばっていた。


 ……勝てない。


 そんな思いがよぎったとき――


 カランッ。


 小さな音が耳に届いた。

 視線を落とすと、地面に青い光を放つペンダントが転がっている。

 フィーナから託された、大切なもの。


 俺はそれを手に取り、強く握りしめた。


「……フィーナが、待ってるんだ」


 そう呟いた声は、自分の奥深くまで響いた。未来の俺が近づき、無言で襟元を掴んで引き起こす。


『仲間なんていらない。群れるのは弱者のすることだ……お前は、そう思っていただろう』


 その声は冷たく、鋭かった。


『俺は一人で強くなった。孤高の中で、誰にも負けない力を手に入れた』


 俺はわずかに目を伏せて、苦笑を漏らす。


「……そうだな。確かに、昔の俺はそう思ってた。群れる奴はダサいって、一人になって回りを見下して優越感に浸っていたのかもしれない……」


 そして、しっかりと前を見据える。


「でも、今の俺は違う。フィーナ、ライナー、ミランダ、クレア……みんながいてくれたから、ここまで来られた。俺は、誰かに支えられて生きてる」


「…………」


「だから、お前にも勝てる。俺はもう、一人じゃない」


 その瞬間、胸元から青い光が放たれる。

 ペンダントが淡く輝き、その光が全身を包んだ。


≪新たなスキルを閃きました≫


『気導崩拳(きどうほうけん)』を習得しました

効果:MPを消費し、精神の力を打撃に変換して放つ拳技。精神の高さに応じて威力が上昇する。


 熱が、身体の奥からこみ上げてくる。

 拳を構え、未来の自分を真正面から見据える。


「――終わりにしようか、俺」


 一撃。

 拳が閃き、空気を震わせ、未来のアヤトの身体を霧のように散らした。


『……お前は、別の強さを手に入れたんだな。俺にはなかった力だ。それでどこまで行けるか……見届けさせてもらう』


 その声だけを残し、幻影は完全に消えていった。



――そして、視界が静かに明ける。



 祈りの窟の空間が戻ってきた。周囲を囲む青白い炎が、ゆっくりと舞い上がっていく。

 その炎がひとつ、またひとつと浮かび、空中で渦を巻き始める。


 やがてそれは、ひとつの塊となって確かな意思を宿した存在としてこちらを見つめているようだった。

 今なら確かにその存在を感じとる事が出来る。こいつが――


「……いよいよラスボスってわけか。ウィル・オ・ウィプス」


 俺はゆっくりと拳を握りしめる。


「やってやるよ。この戦いを乗り越えて、俺は……もっと強くなる」

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