Script::World

@root_496

第一日目

 その日、僕――陽翔はるとは、小学六年生のくせに、ちょっとだけ調子に乗っていた。


 テストで90点取って、友達にちょっと褒められて、担任の先生にも「ちょっと成長したな」って笑いながら言われて。


 そういう、なんでもない日。


 家に帰って、iPadでダラダラYouTubeを見ていた。


「ん?」


 足元に、白い紙切れが一枚、置いてあるのに気づいた。


 覗き込んでみると、QRコードが描かれている。それ以外に何もない。


 YouTubeも飽きてきてたし、なんとなく、読み取ってみる。



 ……べつに、深い意味なんてなかった。ただの「ヒマつぶし」だったんだ。


 読み込んだ瞬間、画面が黒くなった。


*/


『Script::Worldへのアクセスを確認しました』


「え……?」


 何もしてないのに、勝手に文字が出てくる。


もしかして、やばいウイルス?



 不安になって画面を閉じようとした、その瞬間――


「ちょっと陽翔! また変なモンいじってるでしょ!」



 振り向くと、姉ちゃんがいた。高校生の陽菜。お小言多いけど、僕のこといつも気にかけてくれてる。


 でも――その時は、違った。


「姉ちゃ――」


 叫ぶ間もなく、陽菜の体がぐらりと傾く。


「え、え? ちょっ、姉ちゃん!?」


 目を見開いたまま、膝から崩れ落ちる。声をかけても、体を揺すっても、反応がない。


 なにが起こったのかわからない。ただ、怖くて、泣きそうで、動けなかった。


 怖い。怖い。なんで?そんなこと...


 昨日まで、いや今さっきまで元気だった姉ちゃんが、突然動かなくなってしまった。



 手に持っていたiPadに、また文字が現れる。


『初期化完了。

 スクリプト操作権限【Administrator】を付与しました。

 対象者:陽翔(Administrator)

 代償:1人分の命』


「…………え?」


 画面には、白い四角い枠が浮かんでいた。なにか入力できる……らしい。


 何ができるのかわからないし、何もしたくない。


 それでも――その枠の下に、何か書いてある。


print("Hello, world!")


 それに気づくと、何かに操られたかのように、"Run"と書かれたボタンを押した。


 すると――目の前の空間に、白い文字がふわりと浮かんで、消えた。


Hello, world!


 10秒ぐらい呆然としていた。今までの人生で1番長い10秒だった。


ハッと我に返った。目の前にはお姉ちゃんが倒れていた。


『代償:1人分の命』


 僕は、なにかを手に入れたみたいだ。


 けど、それと引き換えに、一番大切なものを失ってしまった。


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