七
唯一、そんな気違いになった私を気にかけてくれたのがCさんでした。Cさんは遅れていた分のノートを見せてくれました。共に弁当を食べてくれました。ただ、いえ、不満はないのですが、Cさんの発言の中に、所々、気持ち悪い、下心のようなものを感じずにはいられませんでした。
翌る日、私はCさんと共に家庭科室に向かっていました。なんでも、時間割が変わったとかで、私は知らなかったのですが、Cさんがそう言うので、ついていきました。しかし、そこにつくと、誰もいませんでした。先にいるはずの先生も、颯爽と移動する委員長もいません。私はそこに不気味さを感じました。
「ずっと、君を目で追いかけていたんだ。気がついたら、家まで知っちゃって、でも、話しかけるのも、どうすればいいか分からなくて、ただ、追いかけていたんだ。」
「だから、私のことを知っていたの。」
彼はきっと、私より気が狂っているのでしょう。
「ああ、でも、やっと、高校生になってから、話せるようになって。嬉しかったんだ。だから、よかったら、僕と恋人になってくれないかな。」
気違いはどこにだっているのでしょう。私はまた、関わる人を間違えたのでしょうか。ただ、彼が不快で不快で、たまりませんでした。気違い女は、気違いの男を引き寄せるのでしょうか。
「いえ、私は誰かと恋人になるつもりはない。あなたもそう。きっと、私より、うんと綺麗で、頭が良い、清楚な人と付き合えると思う。お世辞でも、断り文句でもなく、そう思う。」
彼は烈火のごとく怒り狂いました。ああ、やはり気違いだ、ああ、こんな時にも姉の姿が目に浮かぶのだ、と、そう思う他なく、ただ、彼に同情し、また強姦されるのではないかと、ただ、何の感情も湧かず、彼を見つめました。
「ああ、お前は、気違いで、僕以外、お前を理解できないだろう。なのに、何故?僕は、お前に、ノートだって、範囲だって教えた筈だ。なのに、何故?」
「感謝はしているんだ。ただ、それとはまた別というか、それはただの、押し売りじゃないか。」
「押し売りだろうか。でも、僕は、尽くしてきたんだ。お前が、無頼漢につけられていたら、警察を呼んだ。金に困ったら、金を家に置いてきた。飯を食わせて貰えなかったら、宅配を頼んでやっただろう。それを、お前はただの変質者だと、決めつけた!それに対して、僕は、怒らなかった!こんなにも、優しい男は、いない。」
彼はもう、人間ではありませんでした。ただの、動物に過ぎません。凶暴で、目先の利益だけの、比較的知能の低い、肉食動物です。
ただただ、そこから逃げ出したいばかりで、チャイムもなっていたので、ドアを思いっきり叩き、大きな物音を出しました。ちょうどそこを通った先生に注意され、教室に戻されました。彼は、目の焦点が合っていなかったとかで、精神病院に入院することになりました。それは、私にとって、学校が少し平穏になることでした。
姉は、こんな思いをしたのでしょうか。いえ、ありえない、こんな気違い、見たこともないでしょう。これが、私が姉になれない理由なのです。
華 樋川 @ariari_sousaku
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