未来のネタバレだけは、どんな脚本家にも書けない【エッセイ】
Unknown
【本編】約5800文字
現在、2025年6月15日だ。時刻は午前10時47分。
俺は今、胸を張って言えることがある。それは「暇だ」という事だ。
暇だからパソコンをカタカタ打って時間を潰す事にした。
明日は好きなバンドのライブを見に行くために仕事を休んで東京に遊びに行ってくる。早く明日にならないかなあと思っている。「山田亮一とアフターソウル」ってバンドです。
小説を書く時は「脳のカロリー」的なものを結構使うので頭が疲れる。だが、こういうエッセイの場合「脳のカロリー」的なものを一切使っている感覚がない。現に今、俺は脳をほとんど使っていない。ただ音楽を聴きながら指だけを動かしている。予習も兼ねて、明日のライブのバンドの曲を聴いている。
俺は暇だから、暇つぶしの為に何かを書いて時間を潰そうとしている。
◆
何かを書こうと思って、過去に思いを馳せながらボーっとしていたら、5年前の23歳の時に好きだった女性のことを思い出した。当時の俺は引きこもりで、死のうと思っていた。鬱状態だった。精神も不安定を極めていた。「死ぬ前に一回だけ俺とリアルで会ってほしいです」と思いきってお願いをしたら、向こうも「会いたいです!」と言ってくれた。でも俺は当時、その人に依存しまくった。その結果、徐々に距離を置かれ始めているのを感じ取った。明らかに俺から気持ちが離れそうになっているのを感じた。だから、俺は急いで、わがままを言って急に会う予定を立てて、その日に会ってもらった。この人と会うのは最初で最後だろうと分かっていた。彼女の気持ちが既に俺から離れている事を悟っていたからだ。「その人に会ったら死のう。人生最期の思い出作りだ」と思っていた。あの日は2月で冬だった。会った当日は、鬱状態が酷く、俺はその人と何も喋れなかった。でも、俺が電車に乗って帰る際に、彼女は自分も切符を買って、駅のホームまで一緒に来てくれた。そして、電車がゆっくり発車し始めると、彼女は笑顔で手を振ってくれた。俺は照れながらも、車内から手を小さく振っていた。見送ってくれた。あの瞬間、とても嬉しくて、「やっぱり死ぬのはやめておこう」と1人で静かに思った。彼女は俺が視界から消えるまでずっと手を振り続けてくれた。その人のおかげで、「やっぱりまだ生きていたい」と俺は思った。
そんな思い出がある。
俺は今もその人のことを、こうやってたまに思い出す。そして(今も元気にやっているだろうか)と考えている。
5年前、あの人が駅のホームで、死にたいと思っていた俺に笑顔で手を振ってくれた。その時、俺は電車の中で「やっぱり生きたい」と思えた。だから今でも感謝している。
5年も前の話だ。その人はもう俺の事なんか忘れているかもしれない。でも、それでいいと思う。こうやって俺が覚えている限り、俺の中でその人が死ぬことは無いからだ。ジジイになって認知症にならない限り、俺は今までの色んな経験や知識や言葉を記憶している。
◆
記憶の引き出しを開けてみると、本当に色んな人が俺の頭の中にいる。色んな思い出が引き出しの中に保管されている。俺が自主的に捨てた思い出は1つも無い。
もちろん嫌な事も覚えている。
例えば、俺が昔働いていた会社での嫌な思い出も捨てずに引き出しに保管してある。高校時代から病み始めた俺が最後のとどめを刺されたのが、1年3ヵ月の社会人時代の事だった。19歳から20歳までの短い期間だが、社会人の頃は本当に嫌な事がありすぎた。あそこで、本当の意味で俺の精神はぶっ壊れてしまった。
さっき、なんとなく俺が勤めていた会社のホームページを見た。当時、俺があの会社でダントツで嫌いだった「常務」が今では「代表取締役社長」になっていた。特に何とも思わなかった。そりゃそうだろうな、と思った。「常務」だった頃も実質的なトップは彼だったからだ。
彼には人間性が無かった。それを代表するエピソードを1つ紹介する。
ある日、社員さんの一人が明らかに落ち込んだ様子で仕事をしていた。それを見た常務が「どうしたの●●さん、今日は元気がないね」と言った。すると社員さんは口ごもりながら「……実は、飼っていた猫が亡くなったんです」と言った。すると常務は笑顔になり、「いや、また新しいの買えばいいだけじゃん!」と相手を小馬鹿にするような口調で明るく即答した。それを聞いていた俺は(うわ、こいつマジか……)と思った。ちなみにその社員さんは、パソコンの壁紙を自宅で飼っている猫の写真にしていた。
常務のこういうゴミみたいなエピソードは無限にあるのだが、書いていると気分が悪くなってきそうなので、書くのはやめる。
ちなみに俺の実家でも猫を飼っている。
まぁ、会社の上層部が腐っていると、組織全体も腐る。俺も腐りきってメンタルが破壊されて仕事に全く行けなくなり、そのまま退職して、長年の間、引きこもりになった。
そこから本当に長い時間をかけて、俺は何とか復活しつつある。
いつの間にか28歳になっていた。俺は酒を辞めた。死ぬまで辞め続ける。そうしなければ俺や周囲は絶対に幸せになれないと気付いたからだ。
俺は28歳という感覚を捨て、新生児のような感覚で世界を見るようにしている。
だから復活というよりは、生まれ変わりのような感覚だと表現するのが適切だと思う。
俺は28歳で死に、28歳で生まれた。
ただそれだけのことである。俺は20歳から毎日エグイ量飲んでいた酒を自主的にパタッと辞めた。まだ、たったの67日しか過ぎていない。
ヒトの細胞は6~7年で全てが入れ替わるそうだ。だとしたら、酒に汚染されきった俺の身体の全細胞が入れ替わるまでは、6~7年かかる。途方もない歳月、というわけではない。人間の体感速度は歳を重ねるごとにスピードを増すからだ。
……酒は俺の全てだった。俺の全てを捨てるという事は、死ぬ事に等しい。俺は28歳で死んだ。そして28歳で生まれて、産声を上げた。
「おぎゃー」
この声が何人に届いているかは分からない。でも俺は確かに産声を上げている。
俺が既に70歳とか80歳なら話は別だが、まだ俺は28歳だ。まだやり直せる。まだ助かる。マダガスカル。
これから先の未来で一体何が起こるのか、全く予測できない。
常に想定外の事が、俺の人生には起こるのだ。
例えば、半年前の俺に今の俺が「お前は自らの意志で酒を一生飲まないという決断を下すぞ」と伝えても、半年前の俺は間違いなく「は? そんなわけねえだろ。俺から酒を取ったら何も残らねえぞ? 酒やめるとか、お前バカなんじゃねえの? 頭おかしいよ」と言うだろう。
でも事実として、俺は自主的に酒を辞めている。しかも、それが苦しいどころか、むしろ気持ちいい。「俺は良いことをやっている感」が毎日得られるからだ。
俺の断酒にも言えるが、自分の未来の行動は全く想定できないし、未来の人との出逢いも全く想定できない。
俺が引きこもっていて酒浸りで精神が不安定で荒んでいて常に死にたくて、いつもどん底に居て孤独を感じていたとしても、俺の心のそばには常に誰かが居てくれた。
俺がどん底のゴミだった時期ですら、俺は孤独ではなかった。
「私がいる」
と言ってくれる人がいた。
どん底のゴミの自分から、もしも健全な自分になれるとしたら……。本当の意味で俺が生まれ変われたとしたら……。
おそらく俺には明るい未来が待っている。と思いたい。
本当に未来の事は誰にも分からない。
明日、東京に行く俺は不慮の交通事故に遭って死ぬかもしれない。その可能性がゼロだとは言い切れない。俺が明日死ぬのだとしたら、この文章が俺の生涯で最期の文になる。これが遺書という形になる。
そうはなりたくない。
ぼーっとしていたら、ふいに、こんな言葉を思い出した。
「思考によって行動が変わり、行動が変われば、未来が変わる」
誰の言葉だったかは忘れてしまった。たしか有名な偉人だった気がする。
思考→行動→未来の変化、というプロセスは正しい気がする。
俺は未来の良い変化を望んでいる。なので、思考を変えた後に行動を変えた。
とにかく、良くも悪くも未来がどうなるかは全く想像がつかないので、仮に今この瞬間が苦しい人は「とりあえず1日、生きてみる」という考えでやり過ごすのがベストな気がする。「今日死のうと思ってたけど、やっぱり明日にしてみよう」「明日死のうと思っていたけど、やっぱり明後日にしよう」が積み重なっていくうちに、絶対に何かが起こる日が来る。
未来に何が起こるか……それだけは誰にも想像がつかない。どれだけ頭のいい人でも、自分や他人の未来に何が起こるかだけは絶対に解けない。
東大生にも解けない難問である。
なのでとりあえず、俺は生きてみる。
未来に何が起こるか、何を経験するか、誰と出会うか、誰と別れるか、一切想像がつかない。
だからこそ人は生きていけるんだと思う。
サプライズでプレゼントを貰ったら嬉しいのと同じで、全くの想定外の嬉しい事が起こると、俺はめちゃくちゃ嬉しくなる。
俺は家族にプレゼントをあげる時は、絶対に事前に何も言わず、サプライズで渡す。
実は今、俺の妹が妊娠している。今年中には生まれる予定らしい。なので俺は、Amazonで「安産祈願」と書かれたピンクのTシャツを密かに購入した。近いうちにサプライズで渡す。部屋着に使ってくれたらと思う。
予測不可能な未来を楽しみにしながら、俺は今現在の行動をポジティブなものだけに限定している。
ポジティブな行動をしていれば、それに準じた未来が掴める確率が上がるだろう。(あくまで確率が上がるだけだ。)
◆
俺はさっき、タバコを買う為にアパートの外に出て、歩いてすぐの場所にあるドラッグストアへ向かった。その道中、干からびて死んでいるミミズを4匹も見つけた。これは俺が想定していない未来だった。俺の住む地域は今日は晴れていて暑い。ミミズがいつ死んだのかは不明だ。
更にドラッグストアの店内でも、想定外の未来が待っていた。
俺はピースというタバコを買おうと思い、
「30番のタバコを1つください」
と店員さんに伝えた。しかし、ピースは売り切れていた。店員さんは申し訳なさそうな顔で、ピースが売り切れている旨を俺に伝えた。
そこで俺は、久し振りにマルボロを買おうと思い、棚を見直して、
「43番のタバコを1つください」
と伝えた。
道中の4匹のミミズの死も、ピースの売り切れも、俺は想定していなかった。
このように、人の未来は予測不可能なのである。さっき俺がそれを実演してきた。
もし死にたいくらい辛い夜があっても、とりあえず何とか朝を迎えてみるという事が大事かなと思う。実際、俺は長い期間ずっと死にたかったのだが、今は生きたい気持ちの方が遥かに強い。
だが死にたい気持ちは1日・2日でどうこうなるものではない。長い道のりだったが、俺は今、ポジティブに思考・行動できている。
名も無きミミズが4匹も、干からびて死んでいた。
名も無き俺も、将来あのミミズのように干からびて死ぬ可能性がある。肉体も心も干からびて。
昨日、YouTubeで孤独死に関するドキュメントを見た。
実は俺は将来、福祉関連の仕事をしてみたい気持ちがある。かつて完全に引きこもって生きていた俺のように、社会と繋がることが出来ない孤独な人に寄り添うような仕事がしてみたい。
それが将来やってみたい仕事ランキング1位だ。
実現できるかどうかは別として、やりたいと願うだけなら自由だ。
街を歩くと、引きこもりに一切遭遇しない。何故なら引きこもりは引きこもっているから。視えないだけで、引きこもりの人数そのものは莫大な数だ。
そういえば、引きこもりがテーマのドラマで、ものすごく面白いドラマを最近見たので共有したい。「0.5の男」という40歳の引きこもり男性が主人公のドラマだ。引きこもり当事者が見ても面白く感じるだろうし、全く引きこもりに縁がない人が見ても楽しめる最高のドラマだと思った。
「0.5の男」は今まで俺が見てきたドラマの中で、別格だと思った。
Amazonプライムやネットフリックスなどで見れる。他のサブスクでも多分見れる。
全部で5話なので、割と短時間で見れる。
暇な方はおすすめ。
あと、俺は暇だからこの文を書いている。
◆
実は俺は今年に入ってから、初対面の人とも全く緊張せずに会話できるようになっていたことが発覚した。
これは自分でも驚いた。
引きこもりだった過去の自分からは想像もつかない未来を体験した。
あと、店の店員さんに対して、めっちゃ普通に声を掛けることも出来るようになっていた。例えば「眉毛を整える時のジェル的な商品」を探していた時、それに代用できる商品は無いかなと思ってドラッグストアの中を探していたが、なかなか見つからなかった。そこで俺は女性の店員さんに「今こういうものを探している」という旨を伝えた。
そしたら男性の髭剃り用のジェルをおすすめされて、俺はそれを買った。
普通の人からしたら、何気ない事なのかもしれない。
だが、昔の職場のトラウマで人がとても怖くなって何年もずっと引きこもり生活を送っていたこの俺が、店員さんに対して何の抵抗もなく声を掛けられるまでに進化した。
これは予測していなかった未来であり、引きこもり当時の俺に言っても、きっと信じてもらえない。
◆
仮に今、俺がいるアパートに見知らぬ老人が訪ねてきたとする。俺はとりあえずアパートの扉を開ける。
その老人の頭は禿げ上がっている。
その老人は笑顔で俺にこう告げる。
「俺は未来から来たお前だ。お前はこれからの人生で幸せになれる」
そう言われたら、俺はその老人の言葉を信じるだろうか? 信じないだろうか?
それは、今の俺には分からない。
そもそも、そんな超ド級のネタバレをぶちかます謎老人は訪ねてこない。
(というか俺の性格上、仮に自分の未来が幸せなのだとしたら、あえてそれを伝えに来ない可能性の方が高い。俺は映画やドラマやアニメや漫画や小説や人生といった、あらゆる創作物のネタバレを嫌うからだ)
とりあえず老人になるまで生きてみたいと今の俺は思っている。
未来に関してのネタバレだけは、どんな天才脚本家でも絶対に書けない。だからこそ全ての人間に生きる価値がある。現在28歳の俺はそう思う。
~終わり~
未来のネタバレだけは、どんな脚本家にも書けない【エッセイ】 Unknown @ots16g
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