カゲシロ様

ロロ

第1話 白い塊

――本稿は、1970年代に存在したとされる郷土民俗研究団体が遺した未発表資料『山間部民間信仰に関する覚書』のうち、「カゲシロ様」と記された一章をもとに再構成されたものである。


> 「カゲシロ様」は、神でも妖でも祟り神でもない。

それは“名を言った人間の影に似てくるもの”だという。




文中の地名・関係者名はすべて抹消されており、誰がどこで体験したものかは不明とされている。だが、記述は異様なまでに詳細で、単なる怪談や伝承に収まるものではない。



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> “最初はただの白い塊であった。人型にも見えぬ、首の折れた石柱のようだった”

“だが、名前を呼ばれた瞬間、それは地を這うようにして動き始めた”

“呼んだ者の真似をして、立ち上がる。影のように寄り添いながら”




この“白い塊”には手足もなく、顔もなく、ただそこに在るだけだったという。

だが、人が「カゲシロ様」と声に出して呼んだとたん、それはまるで“影”のように動き始めた。



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別の記述では、以下のような現象も報告されている。


> “影が勝手に動く。光源を変えても、影の向きは変わらない”

“後ろに誰もいないのに、壁に影が二つ映る”

“ある男は、自分の影が立ち上がるのを見たという。目が合った、とまで言っていた”




この“目が合った”という証言は複数あり、影の内部に「眼があった」とする証言も確認されている。



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最も注目すべきは、対処法として記されている「供養札」である。

それは、何も書かれていない木の札を地中に埋め、三日間話しかけないことで、現象が沈静化するとされた。


> “札に文字を書いてはならない”

“書かれた名の人間を、カゲシロ様は見に来る”




実際に“供養札”の実物とされる写真も資料に添付されており、その裏面には、赤黒い染みとともに深い切れ目が確認されていた。


その唯一の札には、崩れた筆跡でこう書かれていた。


> 「ハルカゼ」




この名前が誰を指すのか、資料には記されていない。だが、この章を最後に、“覚書”の記録は唐突に中断している。



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> ……カゲシロ様は、真似る。

呼んだ者の影となり、立ち上がり、そして――

見に来る。




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