第2話

双星の軌跡 第2話


――【大部屋探索】――


暗闇の中を一歩ずつ慎重に歩みを進めていく。施設の中は荒廃しており、辺りには瓦礫や、破壊された用途不明な機械などが散乱し、機械油などの刺激臭が満ちていた。

さらに奥へ進んでいくとひときわ大きな部屋があり、そこには何かの実験や研究をしていたことを彷彿とさせる奇妙で大型の装置等が数多く遺されていた。アドラスは装置に光を当て観察しながら「カルマン…この装置何に使われていたか分るか?」アドラスが問いかけると、カルマンは腕を組み険しい表情で「うーん…これだけだとはっきりとしたことは言えないけれど、培養槽のように見えるかな。ここは生体兵器の研究施設だったのかもしれない。」

カルマンがそう言い終わると、マクリルが何かを思い出したような表情で「そういえば大戦中に戦局を打開するために強化人間の研究を行っているって話を聞いたことがあるな。噂では実戦投入されたとか…まぁよくある戦場の都市伝説だな。」と言うと、好奇心をそそられたメティスが「へぇ!じゃあ当時他にはどんな都市伝説があったの?」と問いかけると、マクリルは記憶を辿りながら「えっと、幽霊艦隊とか、不死身の兵士、消えた惑星とか他のも色々…」

その話の途中突然


ガタン!


何かが落ちる音がした瞬間、アドラスの全身に冷たい戦場の感覚が蘇った。アドラスは咄嗟に身を隠し武器を構え周囲の様子をうかがった。

アドラスは緊迫した様子で、「メティス!周囲に反応は!」アドラスの問いかけに対し、メティスは素早く冷静に「周囲に生体反応もエネルギー反応もないわ!」と返した。

アドラスは身を隠しながら円盤形の小型ドローンを飛ばし、映像を確認しながら慎重に音がした方向へ向かわせた。

ドローンの微かな羽音だけが聞こえている。


「こんな不気味な施設だ。何が出てもおかしくない」そう心の中で思いながら音がした場所を確認すると、そこには瓦礫が落ちており、天井を見ると大きな穴が開いていた。

アドラスは警戒しつつ穴がある場所へ向かい光を照らして慎重に確認したが、怪しい点は見られなかった。アドラスは少し安堵し、「音がした場所を確認したが、どうやら天井が落ちたみたいだ。恐らく劣化が原因だろう。」そう分析すると、メティスも周囲の状況を

分析しながら「そうね、周囲をスキャンしたけど特に異常はないし、ドローンの映像からも異常は見受けられないわ。アドラスの言うように劣化が原因の可能性が高いわね…けどこの施設カルマンの言うとおり生体兵器の研究施設だったなら、何が出てきても不思議じゃないわ…気をつけて。」メティスが心配そうにそう言うと、カルマンが少しうれしそうな顔をして「君が僕の言うことを信用するなんて、どうかしたのかい?」そう茶化すと、メティスはいつもの厳しい顔で素っ気なく「状況を分析して的確にアドバイスするのが私の仕事よ。あなたが話したことが1番可能性の高いことだから、私はアドラスにそう言ったのよ。」と答えた。

 カルマンは「ふーん」という表情をした後、アドラスに「それよりアドラス!僕のかわいい家族達は役に立っているかい?」と問いかける。

アドラスは円盤形のドローンを見ながら「ああ役に立っている。こいつらのおかげで、比較的安全に進むことができる。だが逆に敵に利用される可能性もあるから、あまり多用はできないかもな。」と冷静に答えた。

 するとカルマンが不満そうな顔で「そんなことないよ!彼らにはハッキング対策も施しているし、ハッキングを受けた場合は逆探知してこちらからハッキングし返すこともできるんだぞ!それに!アドラスを護るためのエネルギーシールドも取り付けているんだ!しっかり使ってあげないと彼らがかわいそうだよ!」と早口で言うと、アドラスはぶっきらぼうに「自分の身は自分で守れる…」と言い残し更に奥へ進んでいった。


 ――【扉の謎】――


 さらに施設の奥へ進んでいくと、そこには頑丈な扉があり、周りと比較してもその扉だけきれいな状態であった。

 「ここか…」アドラスが扉を見ながらそう呟くと、突然手に持っていたビーコンから緑色の光りが扉に向かって発せられた。すると扉がその光に反応し、開き始めた。

 それを見ていたメティスが驚いた顔で、「なるほど!そのビーコンが扉を開ける鍵だったのね!ちょっとカルマン!こんな機能があったなんて聞いてないんだけど!」と言うと、カルマンも驚いた顔で「僕だって知らなかったさ!調べたときにはそんな機能は無かったはずだ!」と答えた。

そんな驚く二人をよそにアドラスは心の中で「後もう少し」そう呟き、扉の先に進んでいくと、そこは荒らされた形跡は無く、きれいな研究施設のままであった。そしてその部屋の中心には小型のポッドが設置されていた。アドラスがポッドに近づいてみると、ポッドは外からは中が見えないようになっていた。次にそこに書かれている文字を読み取ろうと試みるが、判読することができなかった。アドラスは緊張した面持ちでポッドの端末を操作し、中身を確認しようとした。ポッドに施されていた迷彩が解除され徐々にその中身が明らかになると、アドラスは目を疑った。


――【邂逅】――




「これは…!」



そこにいたのは培養液に包まれた赤子であった。

胸の奥で冷たい何かが弾けた――家族を失ったあの日の痛みが、一瞬蘇った。


「これはどういうことだ!マクリル!見えているか?!」アドラスが戸惑いながらマクリルに問いかける。しかしマクリルからは応答が無い。「おいマクリル!どうなっている!」アドラスが叫ぶと、デバイスから聞きなれない声が聞こえてきた。ほの暗いノイズが混ざる。声は機械で変換されているが女性のようであった。


「アナタがアドラスね。」そう問いかける相手に対し、アドラスは冷たく敵意を持った声で「お前は誰だ?」と逆に問い返した。

相手は落ち着いた声で「私は依頼主ヨ。目的の物は無事に発見できたようネ。」と言うと、

アドラスも落ち着いた様子で「目的の物とはこの赤子のことか?」と問いかける。女性は「ソウヨ。あなたには…その子を保護してもらいたいノ。」

「保護か…」アドラスはこの時、赤子を回収してこの女性に引き渡せば任務は終了すると思っていた。いつもの任務と変わらないと。次の言葉を聞くまでは…



「10年間」



その言葉を聞いた瞬間アドラスは固まった。

「10年間?いったい何の冗談だ?」

アドラスは平静を装いながら女性に問いかける。

女性は「ソウネ。驚くのも無理ないことね。もちろん今回の報酬はすでに支払っています。だからこれは…追加の依頼、その子を無事に10年間保護してもらいたイ。」


女性の話を聞いたアドラスは怒りが込み上げていた。

「10年間だと!ふざけるな!任務は目的物の回収であって子守じゃあない!」

アドラスが怒鳴ると女性は変わらず落ち着いた様子で「ソウネ。あなたの言うとおり、依頼の内容は目的物の回収であって、その子の保護ではないわ。ケドその子を保護すること…があなたの復讐の手助けになるとしたラ?」


「復讐の手助けになる」その言葉にアドラスは反応した。「手助けになるだと?赤子の子守が?」


アドラスには理解できなかった。赤子が自分の復讐の手助けになるなどあり得ないと思っていた。


アドラスの問いかけに対して女性は「ソウヨ。その子はあなたが復讐したい相手に会わせて…くれるわ。だからその子自体が今回の依頼の報酬だと…思ってもらえればいいワ。ただしあなたがその子を保護しないことを選んだ時は、復讐の機会は二度と訪れることはないと思いなさい。ソレデワ依頼の成功を祈っているわ」と言い放つと、通信が切断された。  

アドラスは怒りに震えながら、「おい!ふざけるな!クソ!切りやがった!」と叫びながら、ポッドの赤子を睨み付けた。


「誰がガキの子守なんか…!」そう呟くアドラスの頭の中では、かつて家族が殺された時の様子が燃える家と横たわる娘がフラッシュバックした。


アドラスはポッドの赤子を睨み付け銃を構えた。

銃口を赤子に向ける指が震え、引き金を引こうとしたその瞬間、赤子の澄んだ瞳がアドラスの心に衝撃を与える。一瞬、全てが凍り付いたように感じた


何度も引き金を引こうとするがまるで指が動かない。

その時、デバイスからまた声が聞こえてきた。今度は聞き覚えのあるマクリルの声だった。

「アドラス!聞こえているか!返事をしろ!」マクリルの声が聞こえると、アドラスは一呼吸おいてから「マクリル、俺だ、目的の物は回収した。」と返事をした。

それを聞いたマクリルはすこし安堵したように「そうか、応答が無くて心配したんだぞ!一体何があったんだ?!」と問いかけた。

それに対してアドラスは「詳しいことは後で話す。とにかく迎えに来てくれ。」

それを聞いたマクリルは不安そうな表情で、「わかった。すぐに向かう。ただひとつだけ教えてくれ。目的の物とは何だった?」


アドラスは数秒沈黙し口を開けた。


「赤子だ」


それを聞いた仲間全員が驚いた表情をしていた。


「赤子…だと…?」


マクリルがそう言った瞬間、施設内に警報が鳴り響いた。


警報は人工的な音声で「緊急警報発令!施設内でレベル5の異常を検知!職員は当施設から直ちに待避せよ!」


はっとしたマクリルがすぐさま、「アドラス!急いでその場を離れろ!」と指示を出す。




「……」


アドラスは無言のまま赤子を見つめ、何かを決心したようにすぐさま銃を構えポッドに引き金を引いた。


引き金を引いた瞬間、ポッドのガラスが割れ、赤子が露わになった。


「オギャー、オギャー」



赤子の力強い鳴き声が金属に反響し研究室に響き渡る。

しかしアドラスには自分の鼓動と赤子の鼓動以外何も感じなかった。


アドラスは赤子を抱えると元来た道を走り出した。



――【脱出】――


建物のあらゆるところから崩れるような音がしていた。


アドラスは全力で走っていた。


来るときに通った広い部屋に差し掛かったその時


ドン!


さっき崩れた天井がさらに崩れ通路を完全に塞いでしまった。


アドラスはすぐさまドローンを飛ばし他に通路が無いか確認する。しかし他に通路は見つからなかった。


「クソ…こんな時に…」


アドラスが険しい顔でそう言うと、メティスから通信が入った。




メティスは少し早口で、「ドローンのから得た周辺の状況データを分析したら、そこから東側の壁に空洞があるわ!その壁を破壊できたら別の通路に出られる!」

メティスがそう言うと、アドラスはすぐに壁を確認した。

よく見ると中央にひび割れていた。


アドラスはすぐに銃を構えると、3発壁に撃ち込んだ。


ドン!ドン!ドン!


3発見事にひび割れに命中した。しかしひび割れは大きくなったがまだ壁は崩れなかった。


「これでダメならこれならどうだ!」


アドラスは銃のエネルギーをチャージして巨大な一撃を壁に向かって放った。


エネルギー弾が壁に着弾した瞬間、壁が崩れ去り大きな空洞が現れた。

すかさずアドラスはその空洞に飛び込もうとしたそのとき、天井が崩落した。


ガラガラ!


もうダメかと思ったそのとき、ドローンがシールドを張りアドラスと赤子を守っていた。


するとカルマンが「アドラス!そのシールドは長く持たない!急いで空洞へ飛び込むんだ!!」


その言葉を聞き、アドラスはすぐさま飛び込んだ。その瞬間シールドが切れ天井が崩落した。


アドラスは息切れを整えると、「カルマン…助かった」と礼を言った。

かルマンは少し寂しそうな顔をしながら「いいって、気にしないでくれ。あの子達も本望だと思う。」


そう言うとカルマンは目頭を押さえていた。


アドラスは再び出口に向かって走り出した。


「ハァハァハァ…」

アドラスの呼吸と脈拍が早くなる。

建物は加速度的に崩壊しアドラスに迫ってきていた。


やがて光が見えてきた。


ようやく外に飛び出すとそこには船が着陸態勢を取っていた。


アドラスが外に出たのを確認したマクリルが


「アドラス!急いで飛び乗れ!」

アドラスは急いで船に飛び乗り、その場に倒れこんだ。


メティスがマクリルに「アドラスが乗ったわ!」と伝えると、マクリルは操縦桿を握り全速力でその場を離脱した。

するとその数秒後、辺りが目映い光に包まれた。


「衝撃に備えろ!」


マクリルがそう叫ぶと直後に衝撃が船を襲い、船は激しく揺れた。


衝撃が治まり、一同船の外を見てみると、そこには巨大なクレーターが出現していた。


「危なかった。間一髪だったな。」

カルマンがそう言うと、マクリルも頷きながら


「危なかったな。それよりアドラスの様子を見に行こう。」

マクリル、メティス、かルマンの3人はアドラスの元へ向かった。

3人がアドラスの元へ到着すると、アドラスは地べたに座り込んでいた。

宇宙船のエンジンが静かに脈打つ中、赤子はスヤスヤと眠りに落ちていった。

「アドラス、大丈夫?」

メティスが心配そうに声をかけると、アドラスは一言

「平気だ」とだけ返した。

「その子が例の…」とマクリルが呟くと

「そうだ」とアドラスは言い、赤子を皆に見せた。

それを見たマクリルが、「さてこれからどうするか」


その言葉が暗い宇宙を進む船内に響いていた。

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