魔族の将、二度目の人生を自由に生きます

@Haiginsakutarou

第一章『そのままとは一体…。』

第1話



 魔族に産まれた。

 剣の才能があったらしい、物心ついた時から剣を振り、少し魔界で有名になった辺りで魔王軍にスカウトされた。

 深く考えずに魔王軍に入り、砦や街を落とし、有名な冒険者や人間達を倒す度にあれよあれよ地位は上がり気付いた時には六大将軍入りしていた。



 そして勇者達と出会った。

 美しく、人間にしては強かった、これが神に選ばれた勇者か、と。

 全力で戦えば勝てていたが特に信念も無く、魔王に義理も無い俺が死力を尽くして戦う意義を見出せなかった。

 なによりこの女を殺すのが嫌になった。


 適当に遊んだあと『見事だ!!』とかなんとか適当な事を言って逃げた。

 逃げた後に考えた、果たしてあの勇者一行は魔王に勝てるだろうか?

 齢1000年を超えいくら老いぼれたとはいえ俺が全力で戦っても5回に1回勝てるかどうかというあの魔王に?

 絶対に無理である。



 ではどうするか…。







 玉座の間の扉開け放つ、眼に飛び込んできたのは死闘真っ最中の勇者達4人と『魔王ジズ』だった。


 鎧は傷だらけの勇者が魔王と無傷で渡り合えているのは、聖女が治癒魔法を後ろから絶えずかけ続けているからのようだ。

 戦った時に大魔導士とか名乗っていた女は文字通り魔杖を杖代わりに片膝を突き、鼻から血を流してる、こっちは魔力欠乏状態か。

 騎士団長くんの方はもうダメだなこれ。鎧が裂け眼は虚ろ、剣の柄を握ったまま絶命しており、ひしゃげた盾が転がっている。



「何をしに来た?ゼノ」


 合わせるだけで身がすくみ上がる金色の瞳でギョロリとこちらを睨みつける魔王、おーおっかねぇ。


「まず『生きていたのか』と聞いてくださいよ魔王様、もちろん加勢に来たに決まっているでしょう?」

「貴様が死んでおらぬ事など最初から気付いておるわッ!!勇者に負けたフリをして身を隠していたお前が今更のこのこ何をしに来たと問うておるッ!!」


 激高した魔王が泡を飛ばして咆える。




「だから、しに来たんですよ、魔王様」




 魔導士の女に魔力回復薬を投げて寄越しながら勇者の隣に立つ


「正気かお前?」


 勇者クレアが魔王から視線をそらさず聞いてくる、近くで見るとやはり美しいな。

 殺さなくて良かった。


「もちろん。この老いぼれ魔王の野望に付き合うのがバカバカしくなった、加勢するぞ勇者」

「ふむ…、どういう心変わりか知らんが戦況はやや不利だ。乗るぞ、その助け舟ッ!」


 勇者の返事に口角をニィっと釣り上げて笑う。

 左手には数多くの敵を屠って来た大剣、右手には紅く赤熱する魔槍。

 隣には神に選ばれた勇者。


 勝機は充分にある…!


 オレは勇者クレアと共に魔王へと挑んだ。





 ───────────────────────────────────





 死んだ、完全に死んだ。


 敗北を察した魔王が勇者へ向けて放った全魔力の乗った破壊魔法に割り込んだ。

 そりゃあ、死ぬ。



「ありがとうゼノ、この勝利はお前がいなければ掴めなかった、この恩は忘れんぞ…」


 だが、オレが死ぬ気で生み出したチャンスをしっかりと活かしてくれたようだ。

 クレアが炭化し塵になりつつあるオレの手を取りながら言う。


「勝手にした事だからな、礼はいらん」


 もう限界らしい、あの魔法を受けた自分の全身がどうなっているのか、確認するために首を起こす事も出来ない。




 瞼が重くなってくる。




 ───────────────────────────────────




 意識が目覚めた。


 見渡す限り何もないどこまでも広く白い空間だった。


 目を開けた、という訳ではない、手も足も何も無い。

 例えるなら光の玉となっていた。




「魔族ゼノよ、聞こえていますか?」


 天から声が降ってくる。


「私は女神レスティア、此度の戦い本当にありがとうございました。あなたの助力がなければ勇者達は魔王を倒す事が叶わず敗れていた事でしょう」


 まさか魔族のオレが女神に礼を言われるとは思わなかった、というか魔族でも死後天界に召されるんだな?


「いいえ、今回は特例です。勇者があなたの働きに報いたいと神に祈り、その願いに応え特別にここへ魂を呼び寄せました」


 それは、嬉しいな。

 剣を振るだけの人生だったが、最後の最後に自分の意思で自分の生き方を選べた気がする

 で?なんでオレは呼ばれたんだ?


「今回の働きに褒美として、あなたに転生の選択肢を授けましょう」


 1つ人間への転生

 2つ魔族への転生

 3つ記憶を消して異世界へ人間での転生


「この三つの中からどれかを選びなさい」


 そういえば死後など何も考えた事はなかった、死んだらどうなるかなどと考える事も無く殺して来た。

 ただ漠然とまた魔族に産まれるのだろうと。

 なるほど…。

 確かに魔物や動物、鳥や魚や虫に草木、生き物など様々だ。

 そう思うと人や魔族に生まれ変わる事自体が大きな褒美と言える。

 3つめが記憶消して?別世界へ?という事は1つめと2つめは記憶はそのままに元の世界という事か。


「はい、人間への転生と魔族への転生は記憶はそのままに元の世界へとなります」


 身体はどうなる?


「人は平均的な人となります、体も、貧富も。望むなら女性も選べます」


 記憶はそのままに女になるとか変態じゃねぇか


 ん?

 人は?人は平均的と言ったか?

 魔族を選んだ場合はどうなる?



「そのままになります」







そのまま…、だと…?







 魔界最強の剣士、六魔将ゼノそのまま?

 それは、いいのだろうか?


「はい、特別な能力は一切はありません、です」


 いや、特別な能力はありません…て。それで良いのなら構わないが…、じゃあそのままで。


「はい、では魔族としてゼノを転生させますね」


 今後聖像に祈ったりすればまた交信したり出来るのだろうか?


「いいえ、神は基本的に下界に干渉いたしません」


 だろうな、不作で人が飢えても、頭のおかしな王が圧制を敷いても、謎の病で人がバタバタと死んでも何も起きないのが世界だ。

 神や精霊の干渉など、人を滅ぼそうとする桁外れた力を持つ魔族が軍を率いた時、どこからともなくどこかにいきなり誕生する勇者くらいである。




 そういえばそのままと言っていたが何かひっかかる、なんだこの何かやらかした感は。




 そんな不安感を抱きつつ気が遠くなっていった。


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