さやけき月を愛でる君

丹羽 史京賀(ペンネーム変えました。元・

第1話 赫い月 ーはじまりー

◇◇◇


 月が赫い。

 無限に静寂が広がっている山の中。

 霧に隠れた小さな庵で女は独り、罵詈雑言を吐いている。


『どうして、私はこんな処にいるのだろう?』


 華やかな都で、衆目を集めていたあの頃が嘘のようだ。

 帝の寵愛を受けて、才気に満ちた息子は、東宮候補に名前が挙がっていた。

 一体、何がいけなかったのだろうか?


『私は、当たり前のことをしただけなのに……』


 いくら優秀とはいえ、無気力な一の宮など、帝になるべきではないし、本人にとっても酷だろう。


『己の口でそれを告げることも出来ないから、私が伝えてあげたのに……』


 末路は、この有様だ。

 帝はよそよそしくなり、後宮にいることすら憚られるようになった。


 ――憎い、憎い。


 どうにかして、殺意を抑えようとしたが、駄目だった。

 愛しい息子は、死んでしまった。

 ……一の宮が殺したのだ。


『帝位になど興味がないという顔をしておいて、弟を殺すのか?』


 あまつさえ、太政大臣の妃を迎えて、即位するなどと……。

 もはや、自分を止めてくれる楔はこの世にはない。


『苦しんだら良い。私と同じ目に遭えば良いんだ』


 すべての道具は、揃った。

 あとは、実行するだけだ。


『……死んでしまえ』


 狂い泣きながら、絶叫する。

 いつまでも、女の虚しい高笑いは止まらなかった。

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